二百二十四話:違和感

 藤崎駐屯地・駐屯地指令『京極 武蔵』は集めた民衆に向かい演説を飛ばしていた。


「すでに避難という時期は終わった。 甘えは許さない。 我々の指示に従えない者は厳罰に処す」


 厳しい表情だった。

 それだけ事態は切迫しているのだろう。

 話しを聞きに集まった人たちは真剣に聞いていた。

 周りを武装した自衛隊員に囲まれているのも影響しているだろう。

 しかしそれでも、聴衆の中には反発する者もいた。


「捕らえろ」


 反骨精神を見せていた者たちはかたまっており実に捕えやすい。

 武装した者たちに囲まれても薄ら笑いを浮かべる馬鹿たちに、京極は一言命令をくだした。 特殊武装した者たちが走り出す。


「処罰せよ」


「え?」


 どうせ単なる脅しだと侮っていた者たちは、男も女も子供も年寄りも関係なく、平等に処罰された。 ヘルメットにガスマスクをした隊員たちは手に持った殴打武器を用いて鎮圧する。 殴った。 一般人を。 決して今まではそういった直接的な暴力はなかった。 暴れた者を取り押さえることはあっても、決して暴行は加えなかった。

 

 悲鳴が木霊する。 


 それは見ていた周りの者たちから漏れた声だ。 愚かな者たちは苦痛に満ちた呻き声を上げている。 徹底的に痛めつけられる。 二度と反抗しよう等と思わないように。 


「たすけっ!?」「やえぇ……」「い……いだぁ゛……」

 

 そう、見せしめだ。

 

「続けろ」


 隊員たちは武器を持つ手を震えさせ肩で息をしている。

 ガスマスクで表情はわからない。

 『京極 武蔵』に駐屯地を救うために必要な行為だと説得された。 しかし人を殴る感覚は鈍く手と心に残る。

 目の前の光景を作り出したのが自分たちであると分からせてくる。

 ガスマスクで視界が悪くて良かった。

 周囲からどう見られているか知らずに済んだから。


「我々は本気だ。 皆さんも変わって頂く。 それしか人類が生き残る方法は無い。 今が変わる時なのだ」


 京極は集まった人々全てを睨みつけるようにして演説を終えた。

 

(どうしたんすかねぇ……?)


 寺田は政治家のようだった京極が、急に独裁者となったことに訝しんだ。

 それだけ逼迫ひっぱくしているのだろうか?

 社会的な地位、名声、体裁を気にする男だったはずだが……。

 もはや日本政府の復旧など期待できないとの判断だろうと、寺田は思うことにした。


(それにしても……)


「はっ、いい気味だ」


「ああ、散々楽をしてきたんだ。 これからは頑張ってもらわんとな?」


 周りの同僚たちの変化である。

 藤崎女子高校での活動で駐屯地を開けることも多かった寺田は、急激な変化に面を喰らっていた。 

 有望な隊員のヘッドハンティングは済ませている。

 かといって他の隊員が無能という訳でもない。

 あくまで藤崎女子高校は少数精鋭で、駐屯地とは敵対するつもりはない程度のヘッドハンティングだ。 どちらかというと、いぶし銀の玄人タイプを集めている。

 実力はあるがどこか欠点もあり集団生活が苦手なタイプとか。


「反逆者は収監房に連れていけ。 反省するまで、処罰は継続する!」


「はい!」


「……っす」


 上官の瞳に宿る昏い光。

 

 たしかに酷い扱いは受けていた。

 元々、世界が変わる前から自衛官の扱いは酷いものだった。 

 予算は降りないし、心無い者からは憲法違反だなどと物を投げつけられたりもした。

 災害派遣に繰り出された自衛隊の装備のボロさにやっとメディアが取り上げる程度。

 平和な時代に生きた者たちにはわからないのだ。

 命がけで職務に励む者たちへの最低限の敬意すら払えない者たちが多すぎる。

 だが、それでも、誇りある職に就く者たちは任務に励んでいた。


「我々がっ、管理しっ、教育しなければならないのだ!」


「……」


 おいおい、どうしちまったんすか!?

 帽子を深くかぶり直し周りに合わせる寺田は冷や汗を搔いていた。

 まるでそれが正しいことだと疑わない者たち。

 あまりの熱意に一瞬、そのほうが彼らの為なのかな?とすら思ってしまいそうで、寺田は首を横に振った。


(のせられちゃダメっす。 なんかおかしいっす!)

 

 息苦しいような朦朧とするような、そんな感覚。

 空気を読み飄々と生きてきた寺田だからこそ感じ取れる。

 違和感。

 隊員たちの持っている正義感を巧みに騙し誘導するような……。


(洗脳……?)


 ゾクリと背筋に冷たい汗が流れる。

 数多あるスキルの中にそんなモノが存在してもおかしくないのでは?と。

 だが確証は無い。 無暗に騒ぎ立てるリスク。 信頼できる者は? 脳裏にいくつもの可能性を考えていく。


(……)


 少々やり過ぎではあるが、駐屯地を変える為には必要な行為でもある。

 手段は選ぶ必要はあると思うが。

 寺田はそう言い聞かせ気をしっかりと持ち空気に溶け込みその場をやり過ごすことにした。

 先ほど思った疑念には蓋をするように……。




◇◆◇




 ガラガラガラと筐体の中身が揺れ動く。

 最初の頃よりも数が減ってきた。


「ほっ、青!」


 Rランクだ。

 白に埋め尽くされていたガチャもだいぶ色とりどりと言っていい感じになってきた。

 神官猫さんがあざとく手渡してくる。

 あざと可愛い。

 ポンとガチャ画面から飛び出し粒子となって俺に纏わりつく。


「おん?」


 纏わりついて体に吸収されていった。

 どこいった?

 特に何も変化はないのだが……。


 メニューを開きステータスを確認するが、スキルが増えたりということもなかった。

 もちろん魔法も増えていない。

 具現化されないアイテムでもこういパターンは初めてだな。

 『ブラックホーンバニー』のようにミサに魂魄付けするパターンはあったが。


 ひょっとして?


「シャム太、ノズ」


 なるほど。


「シャム太あああああ!?」


 シャム太の装備がグレードアップした。

 黒いロングコートの下、俺の『ブラックホーンナイト』のような、少しデフォルメされた全身鎧を着こみ軽装の剣士からナイトにジョブチェンジしたようだ。

 手に持っているのはオモチャの剣ではなく、黒と銀の双剣である。

 イケメンシャム猫がドヤ顔を向けてくる。


「ふおおおおおおおおおおお!?」


 おまっ、主人より先に装備整えるとかどういうことなのぉおおお!?

 めちゃくちゃカッコイイんですけどぉおおおおお!?


「せぇはあっ!」


 俺も早く当てたい。

 SSRランクさんのお出迎え準備は整っておりますよ?

 

 残り99個。


 100連ガチャ実装求むッ!






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