二百二十三話:安心しました


 数日間の遠征も終了だ。


「ありがとうベルゼ君! 楽しかったよっ♪」


 敗戦のショックから完全に立ち直り、進化と言ってもいいほど成長したツインテこと『仙道 美愛』は天真爛漫な笑顔で抱き着いてきた。 最初の汗臭さはなくちゃんと石鹸の香りがする。 『監禁王の洋館』も堪能し気に入っていたようだ。

 また連れて行ってね?と頬にキスをして別れていった。


 今回の遠征は『天海防衛ライン』と接点も持てたしツインテも立ち直れたので大成功だったのでは?

 ちなみに統括とかいう人には会っていない。 めんどそうなので。 相手も忙しいだろう、きっとそうだろう。

 人類も奮闘しているということも分かって良かった。

 ハクアさんやアマネさん、拠点を守る人たちの熱意が伝わってきてこちらもやる気がでる。 

 個室の出入口を近くに設置したのでたまに訪問するとしよう。


「シンクさん。 ありがとうございました。 美愛さんもすっかり元気になったみたいで、安心しました」


「うむ」


 微笑む黒髪ロング。

 ツインテがいなくても無理はしていないようで、顔色は良い。

 最初に出会った頃とは比べるべくもない程、清楚なお嬢様感がある。

 あの頃は仕事で疲れ果てたOLみたいだったからな。

 体制がしっかり整っているから、一人かけても問題なく回せるのだろう。

 

「詳しくお話も聞きたいです。 お時間よろしいですか?」


「うむ」


 黒髪ロングに案内されながら、背後に美人メイドさんを従い移動する。

 今日の彼女は制服姿である。

 短すぎず長すぎないチェック柄のスカート。

 夏服らしく爽やかな半袖シャツ。 胸元には校章の刺繍が施されスカートと同じ柄のリボンをつけている。

 斜め四十五度。

 実に鼻のラインが美しい。


「どうかしましたか?」


 ほんのりと化粧を施している。


「ん」


 ちょっと不躾に見過ぎた。

 後ろの美人メイドさんは表情を変えない。

 

「それでは失礼いたします」


 優雅に紅茶の用意をして去っていく。


 いつもの部屋に通され遠征の話しをしていく。

 あまり上手く説明できないので時間はかかるが彼女は嫌そうな顔はせずに聞いていくれる。

 聞き上手である。

 『天海防衛ライン』が機能していることに安堵し、アンデットの支配地域の広大さに難しい顔をする彼女。

 

「楽しい時間はあっという間ですね。 ……今度は私も連れて行ってくださいね?」


 さすがに彼女が数日いないと大変そうだけど……。

 『監禁王の洋館』だったら少しは息抜きになるだろうか? プールもあるし景色も綺麗だ。 水着もいっぱいあるから好きなの選んでいいよ。 なんなら泊っていっても……ゲフンゲフン。

 また今度、案内でもしようかな。

 



◇◆◇




 藤崎市の様子を見つつ、藤崎女子高校の様子を見に来た。

 市内は以前よりも多くのバードやミニオークが見られる。

 魔物の侵攻は徐々に深まっている。

 そして藤崎女子高校のグラウンドでは、半裸の男たちが炎天下の中を走り続けていた。


「死ぬ……」


 そんな呟きが聞こえてくるようだが、実際には聞こえてこない。

 すでに言葉を発する元気すらないようだ。


 さすがジェイソン、鬼畜である。


 徹底的な下半身の強化。

 重しを付けた状態でのランニング。

 炎天下だろうが関係ない。

 精神と持久力の鍛錬である。


「うーむ」


 どこからか持ち込んだであろう、筋トレ器具の山。 運動会でみるようなテントの下に並べられている。

 近代的なトレーニングも行う。 男たちがガシャン!ガシャン!と鉄同士がぶつかり合うメロディを奏でている。 さらにその横では巨大なゆで卵を食べている。 キャメドーの卵だろう。 顔ぐらいの大きさのゆで卵である。


 素振りをしたところで筋力はつかない。

 食事と筋トレは強くなるための基本だ。

 あまりにも度がすぎているが。


「ほお……」


 東雲東高校生たちの肉体と顔つきが変わっている。

 もはやただの学生ではなく戦士の顔立ちだ。

 一体この短期間でナニがあったんだ!?


 藤崎女子高校もだいぶ綺麗になった。

 ゴミに溢れキツイ臭いがしていたのに、見た限りでは清潔である。

 校内がどうなっているかわからないけれど。


「おっ」


 トンファーを持った日焼けした男がジェイソンと戦っている。

 漢・山木さんだ。

 いいぞ、やってしまえ!と心の中で応援しておく。

 

「お兄さん、何してるっしょ?」


 ジェイソンの猛攻を耐え続ける山木さん。

 なぜかジェイソンは大きな木剣を使っていた。

 まるでグレートソードのような。

 誰を想定した戦闘訓練なのかな?


 観戦していると、後ろから声を掛けられる。

 それは見知った声だった。


「おひさっしょ~」


 褐色肌の金髪ギャル。

 はだけたワイシャツから零れ落ちそうなほど大きい巨乳ガール。

 垂れ目がちな瞳は不思議そうにこちらをみていた。

 小さく手を振りながらがこちらに歩いてくる。


「おう」


「屋上で何してるっしょ? 入ってくればいいのに……」


 アイリも会いたがってるっしょ。と彼女は独特の口調で喋りつつコテンと首を傾げた。

 うん。

 アイリってギャルが積極的過ぎてちょっと会いたくないのだよ。

 グイグイのグイグイで連れ込まれそうになるから。

 ピンチから救ったから好感度が跳ね上がっているのだろうか?

 それにしてもビッチすぎてアレなのよ。

 俺の童貞がピンチになるから。

 やっかいなことにアイリは巨乳の綺麗系ビッチギャルなのだ。

 間違って空気に流されたら大変だからね。


「お爺さん? ノせるのが上手いっしょ、うちらもみんな掃除とか特訓とか始めたっしょ。 『ギャルくノ一』目指すらしいっしょ」


 目標があるっていいよね。 

 たとえそれが誰かの手のひらの上でも。


 山木さん以外にも自衛隊の人も結構いるらしい。

 東雲東高校からも生徒以外も流れてきてるし、戦力は結構高いんじゃないか?

 魔物に囲まれてるから一番化けるかもしれない。

 ここで魔物の脅威を減らせられれば駐屯地への被害も減るだろうしWin-Winか。


 藤崎駐屯地の方は今頃どうなっているのかな?

 『京極 武蔵』さんは中々やり手そうだったから、上手くいっているだろう。




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