二百二十二話:


 『天海防衛ライン』統括事務所。

 そう記された立て看板の奥で報告を聞く女性は、疑問をそのまま言葉にした。


「東雲市からの来訪者?」


「はい」


「一体どうやって……あそこを抜けて来たんだ?」


 赤いニットに黒のロングコートと、夏にも関わらず厚着をした女性。

 その顔立ちは整っているが怜悧であり、冷たい印象を与える。

 髪は白銀に染まり一本一本が銀糸のように煌めいている。


「現在、アマネ氏とハクア様がご対応中です」


「あの二人が?」


 どちらも接客には向いていないと思うが、と白銀の女性は小首を傾げる。


「……」


 世界に異変が起きて情報は錯綜した。

 電子機器の類は一切使えず、人伝の伝言ゲーム。

 手書きの書類の山はもっと綺麗に書けと言いたくなるようなミミズがのたくったような文字も多かった。PC、スマホ世代の弊害か、手書き対応力の低下のせいか、焦っていたのか。

 

「報告書はしっかりと書かせろ」


「はっ!」


 きな臭かった世界情勢。

 ついに日本も戦争に突入したかと、電磁パルス兵器など様々な可能性が考えられた。 

 しかし避難してきた者たちの証言は違った。


 曰く、怪物が現れたと。


 襲われる避難所。

 徐々に見えてくる怪物の影。

 大都市にて台頭した真理政府。

 かくして人類は滅亡から逃れる為、生存戦争へと突入した。


「異端者か、救世主か」


 怪物に立ち向かうために与えられた異能。

 力に溺れ助長する者も多い。

 そういった者を異端者として粛清するのも統括管理者の仕事の一つ。

 またその力を人類の為、粉骨砕身に活躍してくれる者は救世主として取り立てるのも仕事の一つである。

 後者であれば都市に報告書を出す必要がある。


 前者であればわからせるだけだ。


「面倒はかけてくれるなよ?」

 

 呟きは冷たく、白い吐息のように消えていく。 



◇◆◇




「統括は怖いから逆らっちゃダメ? わかった? 返事は?」


「ほーい」


「ん」


「……」


 怖い人とか会いたくない。

 別に様子を見に来ただけだから、挨拶なんてする必要ないよね?

 僕ただの学生だし。

 使者ってわけでもないしね。 人選死んでるし。


「ピヨちゃん」


 お散歩から帰って来た白鳩がハクアさんの影に飛び込んだ。

 どういう原理なの?

 ハクアさんの能力なのか。

 白鳩を操る? 作り出している?


「うん、やっぱり、嫌な感じだね」


「そっか……」


「風水の羅盤を使って占ってみるね」


「う~ん」


 白鳩を使った偵察か。

 となると、最初に来た時すでに見られていたのかな。

 なかなか有用な能力だ。


「どうかしたの?」


「ん、ちょっとね。 最近、ゾンビたちの動きが妙だなって」


「あー私たちが狩りまくってたからかな?」


「はっ!?」


 なんだ、心配して損した。とアマネさんは安堵した。

 たしかに結構狩ったからな。

 なんかしらないけど、所々アンデットたちが溜まっていてボーナスステージだった。 

 たまに強い個体もいたりとウマウマでしたよ。

 ちなみに魔結晶はゲットできなかった。

 ただ地形で留まっているのかと思ったけど、違ったっぽいんだよね。

 公園とか集会所みたいな所にも溜まっていたりした。

 指揮官クラスがいなかったのかな?

 不明である。


「まぁ襲撃もいつも通りくらいだし、心配しすぎよ」


「そうかな?」


「そうよ。 占いとか解説書またいっぱい引っ張り出して時間掛かるんでしょ?

それで寝不足で倒れたら怒るからね?」


「ご、ごめんね? 怒らないで、アマネちゃん」


「先に謝んないでよ!」


 チビロリ巨乳さんに怒られる長身のアルビノお嬢様。

 なんだか妙な感じだね。

 心配しても怒るのはほどほどに。

 なんとなくハクアさんの肩を持ってしまうな。


「占い、興味ある?」


「ある」


 占い関係の本の話しで盛り上がる葵とハクアさん。


「ハンマーの使い方はわからないなぁ」


「体の使い方教えてよ」


「いいよ!」


 拳で語り合った二人も仲良くなったようだ。

 

 女子会が始まったので少し暇になる。

 ふらふらと拠点を眺めてくるか。



 カツカツと軍靴を鳴らす。

 『ブラックホーンナイト』が軍服仕様にフォームチェンジしたことによりブーツも変わっている。

 ありえんぐらい周りから浮いているが今更なので気にしない。

 肩に金糸の付いたサーコートが最高にカッコいいぜ。

 俺の厨二病が擽られる。

 しかしこうなってくると、腰に剣が欲しいな。

 細身の長剣をぐっと差したい。

 大剣を背負うのはちょっと……。


「ふむ」


 陸自と一緒の89式か。

 200メートルくらいならやはり射程圏内だったかな。

 主に装備しているのは迷彩服の人たち。

 他にも現代的な防具に身を包む人や、ファンタジー感のある装備に身を包んだ人もいる。 どこかに【猫の手】があるのかな。


 ハンマー系の鈍器や槍がメイン武装か。

 盾を修理している人や、色々な素材で作っていたりと活気があるな。

 なにより人の面構えがいい。

 血気盛んだね。


「……」


 警戒されている?


 僅かに視線に穏やかじゃないものを感じる。

 なんだろうね、軍服のせいかな?

 似合ってないんだろうか……。



 この時の俺は知らなかったが、ハクアさんは一部の男性から『ハクア様』と呼ばれる程の人気があるらしかった。


 『ご主人様』呼びが広まり決闘者が現れるのは少し先のお話し。



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