二百十四話:防衛ライン
夜の帳が下りる。
ガチャガチャと大勢が荷物を持ち急いで走っていた。
目の前の大門が閉まっていく。
「急げ!」
空を見上げれば背中側から紫色の雲が広がっている。
ヤツラが来る。
「急げ急げ!」
駆けてきた者たちが入ると大門は閉められた。
空を紫雲が覆っていく。
慌てて焚かれた焚火は周囲を照らす。
緊張した面持ちで武装した者たちが大門の前で闇を見ている。
光る。
ゆらゆらと、無数の赤い光が揺れていた。
まるで一つの生き物のように規則的に揺れている。 こちらにゆっくりと向かってくる。
「来やがったか……!」
終わらない悪夢。
スケルトンの群れは今日も夜の訪れと共にやって来た。
カチャカチャと骨を鳴らしゆっくりと進んでくる。
人類は削られていく。
精神を、肉体を、領地を。
「最初は、スケルトンか! 鈍器を使えーー!」
防衛戦の始まりだ。
敵の先鋒スケルトン部隊に鈍器を持った者たちが立ち向かう。
左手に盾、右手に鈍器といった形だ。
盾は上半身と顔を隠せる程度の小型の物。
敵のスケルトンが放つ骨の矢程度ならば十分に防いでくれる。
鈍器は淡くスキルによる強化の光りを放ち、スケルトンの頭蓋を破壊する。
「負傷した奴は下がれっ! 先は長いぞっ、無理するなよ!」
隊長格の男が声を張り指揮をする。
まだ夜は始まったばかりだと、敵の襲撃はまだまだ続くぞと。
「ゾンビきます!」
「槍に持ち替えろ! 頭部を狙え!」
刺突の効きづらい骸骨には鈍器を、鈍器の効きずらい腐った死体には刺突を。
冷静に対処を続けていく部隊。
これ以上の敵の侵攻は必ず防ぐと、決意が見える。
背水の陣。
数々の避難所を強襲され防衛網を突破されてきた。 そのたび、防衛ラインは破棄され新たなラインを築いていく。
しかしここを防げなければもう後がない。
人類の最終防衛ライン『天海防衛ライン』を守る者たちは必至だ。
「なんとしても、食い止めるッ!」
空が白むまで、永遠とも思える時間が流れていく。
喉が渇く。 糖分が足りない。 頭が、体が言うことを聞かない。
けれど休むことは許されない。
闇に揺れる赤い光が続く限り。
「大型ぁ!」
「っ、投擲!!」
闇を駆け抜けてくる騎馬。
首無し鎧の上半身に騎馬の下半身。
紫紺色の怪しい輝きが鎧から溢れている。
鋭いランスを向けもの凄い勢いで突進してくる。
そのまま突進されれば小型の盾程度ではどうにもならない。
焦ったような隊長格の叫び。
壁の上に控えていた者たちから投擲が開始した。
石や竹槍、砲丸やボーリングの玉など、投げられるものは何でも投げつけていく。
投擲スキル影響か、放物線を描きながら大型の魔物の元へと投げ込まれる。
「呼んできてくれ!」
「了っ!」
勢いの止まった騎馬の下半身を狙い、槍で足止めをする。
無理をせず防御と攻撃に分かれて時間を稼ぐ。
『ピヨ』
死を覚悟した持久戦に耐えることしばし。
空を白い鳥が飛んでいた。
平和の象徴……白鳩だろうか?
「?」
一度空を飛ぶ白鳩を見た首無し騎士は興味を失い目の前の敵に注意を戻した。
その時だ。
――ズンッ!
一瞬で白鳩は巨大になり、首無し騎士の上にのしかかった。
騎馬の足が折れ崩れた首無し騎士の上で、巨大化した白鳩が飛び跳ねる。
『ロォオオオ!?』
驚いたように首無し騎士が不気味な声を上げる。
反響するように鎧の中から響いてくる。
「――ォオオオオオオオ!!」
白鳩を鬱陶しそうに腕で薙ぎ立ち上がろうとする首無し騎士に、黄金のハンマーが振り下ろされた。
『ロォ』
ペッチャンコ。
そんな言葉がぴったりなように首無し騎士が地面に陥没した。
やがて音を立て黒い煙を上げ消えていく。
「やったぞ!」
「流石っ、デコボココンビ! ――っひ!?」
あまり好きではない通り名で呼ばれ思わずハンマーの操作を誤る。
轟音を立てて金色のハンマーが地面に刺さる。
「誰がデコボココンビよ!」
「私が……ノッポってこと? それともアマネちゃんがロリ巨乳だから?」
「誰がロリ巨乳か!?」
『天海防衛ライン』を守る切り札は身長差コンビだった。
◇◆◇
「ひゃあ!?」
『ブラックホーンシャドウ』の洗礼を受けるツインテ。
「ちょっとぉ!? ベルゼ君っ、え、えっちなのはダメだよぉおおおお!?」
だったら大人しく後部座席に乗ればいいのに。
前座席に乗ると危険だとあれほど注意した……いやしてないか。
思っただけだった。
『えー! 前の方がカッコイイよね? 景色も良さそうだしっ!』
そう言って前座席に乗り込んだツインテは今、良いSP補充要員として頑張ってくれている。
「んっ、やっ、そこっ!? だめだめっ!」
シートベルトでしっかりと固定されてしまったツインテ。
何がどうなっているのかわからないが、スカートから覗くスパッツ越しのお尻は必死に抵抗し左右に揺れている。
「んぅ、んっ」と我慢する声が漏れる。
こういったことには慣れていないのか、敏感である。
甘い声が空に響く。
「あっ!? ベルゼ君!」
「……」
俺の背後からメタルマジックハンドが伸びる。
淫乱ロリ魔法使い、葵の仕業だ。
先ほどの仕返しか、ツインテのお尻にマッサージを施していく。
空に響く嬌声が大きくなる。
「こらっ、あっ、ほんとにぃ、怒るぞぉおお!!」
抗議するツインテの声を無視して、葵の操作するメタルマジックハンドがお尻の割れ目に迫る。
「あっ」
びくりと跳ねるが固定されている体は動かない。
「んんっ、こらっ、ゃっ、はあんっ!」
これは……どこかで汗を流さないとダメだなぁ……。
そんなことを思いつつ『ブラックホーンシャドウ』を流していると、巨大な壁が見えてきた。
紫色の雲に覆われる『万軍の不死王支配地域』の先、魔物の進軍を食い止める為にできたであろう巨大な壁だ。
(領地化か?)
東雲東高校の城壁と似ている材質だ。
違うのはラインを築くように横に伸びている。
地形を利用し、その先へは行かせないように建築されたようだ。
「人……いっぱい」
「うむ」
壁の向こうで人々がキャンプを行っている。
ただのキャンプではないだろう。
せわしなく動き、武器の手入れや負傷者の手当てなど忙しそうだ。
「ん?」
白い鳩。
「ピヨ?」
珍しいな。
クリっとした瞳と目が合い、どこかに飛んで行ってしまった。
「ひゃぁぁ……」
「あ」
ビクンビクンとお尻を痙攣させるツインテ。
葵さん……やりすぎですよ?
感度の良い天才剣士はちびっ子魔法使いにしてやられてしまった。
知的生命体と接触するのにツインテはこのままだと悪印象だな。
『監禁王の洋館』に連れていき湯あみをさせる。
遠征をするならいずれ連れていくし今説明しておくか。
個室の鍵はあげないけど。
「……」
誰かに見られていたような気がしたが、近くには白鳩くらいしかいなかった。
気のせいかな……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます