二百十五話:ハクアとアマネ
元々白い戦友の顔がさらに白くなっている。
「ちょっと……ハクア、どうしたの?」
「アマネちゃん……」
避難所で出会った彼女は背が高くすらっとした美人だった。
ただ、肌は白すぎるほどに白く、髪も老婆のように真っ白だ。
瞳は赤く、まるで映画のヴァンパイアのようだった。
一見すると怖いが、よく見れば瞳は綺麗な宝石のように輝いている。
「……たいへんだよ」
私と同じく世界が変わってしまった影響だろうか?と声を掛けたのが友人になったきっかけだ。
避難所ではだいぶ浮いていたから、つい声を掛けてしまったのだ。
ただ、彼女のそれは生まれつきの体質らしい。
アルビノというそうだ。
しかし彼女もまた不思議な力を授かっていた。
「どうしたのよ? なにがたいへんなの? 説明求む!」
「うん……ピヨちゃんで外を偵察してたら、バイクが飛んでたの」
「えっ、バイクが?」
誰かの能力だろうか?
ここにはそんな能力を持った人はいないはずだけど。
「うん……それで気になって近づいてみたの」
「それで?」
ハクアはゆっくりと喋るタイプの子だ。
だから普段は彼女が最後まで喋るのを待つようにしている。
私はせっかちだ。
「アマネちゃん怖い」
「ごめんごめん! ゆっくりでいいよ」
深呼吸して呼吸を整えるハクア。
うん、めんどくさい。
じらされるのは苦手なのよ。
「3人乗ってたの」
「うん」
「男性が一人、女性が一人、魔法使いが一人」
「うん?」
近代だと魔法使いもバイクで空を飛ぶのかしら?
まぁそんなこともあるか。
「あれは……」
「……」
わざとじらしてる?
いやなにか言いずらいことでも?
「鬼畜系ハーレム主人公さんだったよ」
「はあ!?」
「俺様系かも……わたしたちもえちえち奴隷にされちゃう」
はぁ……。
真剣に聞いて損した。
この戦友は脳内ト゛ピンクなんだよな!
処女の癖にっ。
「あんたと違って私はされないから問題ないわ」
「酷い。 アマネちゃんも一緒に堕とされようよ」
「嫌よ!」
彼女は引きこもり気味のお嬢様だったらしい。
たしかに最初に出会ったときは白いワンピースに日傘とかしてたしね。
近寄りがたい雰囲気もあった。
わたしは気にしないけど。
喋って見ればただの脳内ピンクの変態お嬢様だったし。
「それで、その空飛ぶバイクはどこに行ったの?」
「消えちゃった」
「え?」
ついに幻覚でも見え始めたのかしら……?
昼夜逆転の生活は辛いわよね。 慣れない生活も続いているし。
妄想と現実の区別がつかなくなってきているのね。
可哀そうに……。
「わかったわ、ゆっくり休みましょう」
「どうして憐れんだ瞳を向けてくるの?」
「甘い物でも貰いにいきましょう」
「どうして優しいの?」
失礼な戦友を連れて前線基地を歩く。
みんな忙しそうに働いている。
「暑い……」
日差しが強い。
もう夏だね。
ポンと日傘をさすハクア。
日差しの作る影が彼女の綺麗な顔に影を作る。
たしかに深窓の令嬢に見えなくもない。
日傘の上に白鳩が乗っかった。
「ピヨちゃん」
小さい足を素早く動かして日傘の上を移動した白鳩は、彼女の影に消えていく。
そんな不思議な光景にも見慣れたのか、驚きはもうなかった。
「なんだって?」
「やっぱり、消えちゃったって……」
「ふーん……」
やっぱり幻覚が見えているのか?
ここまで逃げてきた人たちには精神を病んでしまった人も多い。
私も悪夢にうなされることはあるし、ここに来るまでの出来事を思い出したいとは思わない。
今はこの最終防衛ラインを守ることだけに集中するしかない。
「あ、ハクア。 クッキーあるよ」
「わーい」
紅茶とクッキー。
たぶん気を利かせて取っておいてくれたんだろうな。
若い女子が少ないから余ってただけかな?
◇◆◇
「凄い!」
メインの鍵を使い『監禁王の洋館』にやってきた。
汗とナニかで酷いことになっているツインテを洗いに。
「エアコン!? 涼しいよ!?」
洋館内は冷房が効いているのか快適な温度だ。
そもそも向こうと違いジメっとした空気はなく過ごしやすい。
虫の大合唱もなく爽やかな水の音だけが聞こえてくる。
避暑地でもこうはいかない。
湖の真ん中の別荘だからこそだ。
「プールまであるの!? 入ってもいいーー?」
「うむ」
「ひゃっほー!」
脱ぎっぷりが凄いな。
水着を用意したのに全裸でプールに向かっていった。
刀だけは持っていくあたり、やっぱり頭のネジがどこかぶっ飛んでる。
「ガサツ……」
葵がブツブツ言いつつ、防具と洋服に分け洋服は洗濯に持っていく。
防具は日向で干してあげていた。
ちょっとやり過ぎたとあって優しい。
「ふぅ……」
キッチンに向かいながら考える。
先ほどの大きな壁はやっぱり領地化だろうか。
世界が変わってしまってからしばらく経つし、東雲東高校以外でも領地化に成功した場所があっても不思議ではない。
つまりそれだけの戦力があるということだ。
いっぱい人もいたしね。
……無理に接触する必要はあるのか?
あれだけ立派な壁があるのだ、あそこにわざわざ接触するなんて面倒では?
うんそうだ、もっと過疎ってそうなところに行こう。
侵攻拠点の破壊と魂魄集め、ついでにツインテの修行にはそちらのほうが都合が良い気がする。
まぁ黒髪ロングに報告する為に一度は接触したほうがいいかなぁ……。
後でもいいか。
まずは戦闘で三人の連携を確かめよう。
面倒ごとは後回しにしよう。
「目玉焼き」
フライパンにキャメドーの卵を割り入れるといっぱいになった。
蓋をして蒸し焼きにする。
隣でワイルドソーセージを焼いていく。
朝食みたいなメニューになるが別にいいだろう。
東雲東高校で育った野菜を適当に盛り付ける。
保管部屋は温度が低く保たれておりまだまだ新鮮だ。
グラスに氷を入れオレンジジュースを注ぐ。
「えーー!? 天国なのここ??」
プールサイドの天幕でランチ。
裸で胡坐をかくツインテに葵がタオルを巻いていく。
器用に肩の上で結んでワンピースみたいになった。
優しい。
「誘惑……ダメ」
「えっ、してないよ??」
「無自覚ビッチ」
「ええーー!?」
女子って仲良くなるの早いよね。
ワイワイする二人を見ながらランチを済ませ、今後の計画を詰めていくのだった。
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