二百十三話:遠征パーティ結成!

  『仙道 美愛』には目標があった。


「――――はあッ!」


 己が父、『剣聖』と呼ばれる者を超えること。

 剣を愛し、礼儀正しく、誰からも慕われる父。

 そして誰よりも強かった。

 一度たりとも父が負ける場面を見たことが無い。

 圧倒的な強さ。

 それを誇るでもない、ただの当たり前として存在している。


 その姿に憧れた。


 普段は親バカで未だにお風呂を一緒に入りたがるほど愛娘を溺愛しているのだが。


「シッ!!」


 しかし剣を持てば愛娘であろうとも厳しい人だった。

 幼少期からの英才教育は常軌を逸しており、本人の才能もあって美愛は同学年では無敗を誇るほど強く育った。

 彼女も剣の道を好み、歩み始めている。

 強者を求め戦い続ける。 

 倒し続ける。


「はぁ、はぁ……」


 だが、届かない。

 剣の頂には到底、届かない。

 剣技も体格も品性も。

 未熟だ。


「もっと、強くならなきゃ……」


 思う。

 もしもあの時『剣聖』だったら、アイツ・・・に勝てただろうか?


「はぁぁ!!」


 振るう。

 橙色のオーラを纏う刀剣をガムシャラに振り続ける。

 滴る汗が弾け飛ぶ。

 トレードマークのツインテールが舞う。


「はぁ……はぁ……」

 

 大きく肩で息をする美愛。

 足りない。

 体が酸素を求めるように、剣が敵を求めている。

 壁を超える為に。

 ただの人のガワを脱ぎ捨てる為に。


 鬼気迫る。


 練武場に張りつめる空気に周囲は気圧されている。

 彼女たちでは相手にならないだろう。

 オーバーワークな美愛に誰も声を掛けられず、委縮してしまっていた。


「少しは休めよ、美愛」


「……エビちゃん」


 だが釣り目の長身ガールが声を掛ける。

 薙刀部主将『戎崎 春子』だ。

 美愛と同じくスポーツ特待生。

 才能ある薙刀使いだ。


「相手、してよ」


「嫌だよ。 私はこれから寝る」


 美愛は汗で張り付き垂れる前髪から目の前の大きい女を見る。

 恵まれている。

 女子にしては大きい体格。

 身長だけではない、しっかりとした骨格は小柄で華奢な美愛には羨ましい。

 薙刀を持つ彼女となら良い訓練ができるのに、と美愛は恨めしそうな瞳で彼女を見つめる。


「ねぇ、ねぇえ」


「誰だよ、落ち込んでるとか言ってたの……」


 落ち込んでいたのは事実だ。

 一度も負けたことのなかった相手に敗北したのだ。

 悔しくてその晩はずっと泣きわめいて再戦を胸に誓った。

 ただ、嬉しくもあった。


「あー……悔しいけど、いいよね! 茜ちゃんいっぱい戦ったんだろうなぁ……羨ましい!」


「意味わからん」


 ライバルの出現。

 久しく心躍る相手のいなかった、『仙道 美愛』の魂に火が点いた。

 戎崎は理解できないと、「起こすなよ? 美愛も寝ろ」とだけ告げて奥の部屋に眠りに行った。

 他の者たちも解散していく。

 練武場には美愛だけが残った。

 ふぅ……と、美愛は大きくため息を吐いた。

 

(パパも寂しかったのかな?)


 道場で父の背が時折みせていたのは寂寥感だったのだろうか。

 だとしたら辛いだろう。

 誰かが倒してあげないと、そう美愛は思った。 娘にしかわからない感覚だろうか。 理解は難しい。 


 父が娘を愛しているように、娘もまた父を愛している。


「美愛お姉様、お客様ですわ」


「ほーい?」


「ベルゼお兄ちゃんですわ」


 走ってきたボブツインテールの後輩が来客を知らせる。

 その名前に、美愛の瞳が大きく見開く。


「ベルゼ君っ、キタああああああああああッーー!!」


「うるさいよ! 眠れないだろ!!」


 胸が躍る。

 大きく息を吸い込み、美愛は走り出した。



◇◆◇



 「ベルゼ君っ、どこ連れてってくれるの? ねぇこれデート? 初デートぉおお!?」


 テンション高いし五月蠅いし、汗くさいんだが?

 引き受けたのは失敗だったかもしれん。

 全然落ち込んでる様子がないのだが……?


「バイクっカッコイイね!」


 『ブラックホーンシャドウ』の黒い車体をナデナデするツインテ。

 嬉しそうに車体に青白い光のラインが流れる。

 『ブラックホーンシャドウ』も気に入ったのか喜んでいるようだ。

 処女以外でも荷台なら乗せてくれるが、搭乗部は処女じゃないと嫌みたいだ。

 どうやって判別しているのかは不明であるが……ニオイ?

 

「陽キャ……」


 魔法使いの格好をした葵が呟く。

 『神鳴館女学院付属高校』にはママさんが避難しているので会いに来ていた。

 おっぱいの大きいおっとりママさんだ。

 彼女のモノを見れば、葵の将来も明るい……かもしれない。

 似ない場合もあるのだろうか? 巨乳になる葵が想像できないのだが。

 いや俺は全然貧乳でもいいと思うけどね。 


「ツーリング旅行? お泊りなんて、そんな……パパに怒られちゃうよぉ!?」


 3人だし大丈夫じゃないかな?

 葵も一緒に行く、新装備の試運転に付き合う予定だ。 魂魄集めも手伝う約束だしね。

 葵にプレゼントしたトランクケースは小さくなり背負っている。 中に入っていたローブととんがり帽子を被りスタッフを手に持てばちびっ子魔法使いの完成だ。

 前衛2の後衛1パーティか。

 もう一人欲しいな。

 スリーマンセルよりもフォーマンセルが好きだ。 


「頑張る……」


「魔法使い……中学生? 小学生かな!? 小っちゃいのに戦えるの~~?」


「コイツ、嫌い……」


 パーティメンバーの顔合わせは最悪だ。

 

 陽キャ、陰キャ、コミュ障……。 

 誰か助けて。



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