二百九話:運命の出会い
避難所における集団生活はストレスだらけだ。
「節水? なんでだよ、井戸から水くんでくればいいだろ?」
「枯れちまったらしいぜ」
「マジかよっ!?」
日本では災害マニュアルはしっかりしており、特にストレス対策は入念に組まれている。
しかし長期間における日本全国の災害など想定できていない。
まして魔物が存在する世界など論外だ。
「川から水汲んだらダメなんか?」
「煮沸とかしないとダメなんだじゃないか?」
「自衛隊しっかりしろよ、マジでさぁ……」
聞こえてくる悪意の籠った声。
疲弊しきった自衛隊員たちに追い打ちをかける。
彼らに落ち度などない。
日夜魔物と命がけの戦闘を行い、駐屯地の維持に努めている。
守られている人たちは自衛隊員たちに報いているのだろうか?
「聞いたか? 街に行った連中、みんな大ケガして帰ってきたって」
「だから無理だって言ったじゃん! 絶対、復旧したら書き込むわ」
「自衛隊、無能☆0」
口だけの奴らほど声と態度はでかい。
「飯これだけ?」
「あいつらだけいっぱい食ってんじゃないの?」
「もっとよこせよ!」
ああ、皆殺しにしたい。
「うぅ、ダメだ。 やめろ、うるっさい。 あぁ、そうだよ、そうだよなぁ? ああああ、やめてくれ――――やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「おい!? 佐藤隊員、大丈夫かっ!?」
「誰か来てくれ! 錯乱したっ!」
心を病む者も多い。
800人以上いた自衛隊員たちも半数へと減っていた。
戦闘による負傷が一番多いが、精神を病んだ者も多かった。
限界だった。
「山木が……? 意外だな、あの人は……最後まで、不器用に生きる人だと思った」
「そうっすね、不器用っすよね、あの人」
「ああ、だがそれがいい」
「……そっすね?」
この人、大丈夫かな?
色黒の筋肉マッチョで笑顔が眩しい、年齢は山木と同じくらいで独身。
山木の信頼する隊員リストに載っていた人物だ。
勧誘活動を始めた寺田は思った。
この人、そっち系じゃないか?と。
しかしこの筋肉マッチョは有名だ。
近接戦闘では駐屯地随一の人物だったはず。
優秀な戦力の前には趣味趣向などどうでもいい。
「私も行こう」
「よろしくっす!」
たとえ敬愛する先輩の尻が危険に陥ろうとも、知ったことではない。
「おまえ、なかなか可愛い顔してるな? 名前は?」
「寺田っす! あっ!?」
失敗したかもしれない。
寺田はそう思いながら、勧誘活動を秘密裏に進めるのだった。
◇◆◇
ゴミが散乱し腐臭を放っていた校舎は清掃されて綺麗になりはじめていた。
「ほんとおっさん、教師みたいだよね~うざ~」
ブー垂れながらも掃除するギャルたち。
スカートは短く中が丸見えだが誰も気にした様子は無い。
無人の街から強奪してきた下着を適当に使い捨てにしているのでそこそこ綺麗だ。
「綺麗な場所の方がいいだろう? ほら、手を動かせ」
「えーこう? こうして欲しいの?」
「こら、はしたないからやめなさい」
「あはは、また夜にねっ」
最初こそ警戒されていたが、魔物からピンチを救ってくれたこともあり今では打ち解けている。
無理に駐屯地へと誘うようなこともない。 一度断ってからはその話もしなくなった。
回収した物資に関しても駐屯地には魔物に襲撃されダメになっていたと報告していた。
報告したのは寺田だが、真面目な山木では顔にでそうだったので。
「山木っち。 大丈夫っしょ? ちゃんと寝たほうがいいっしょ。 あいつらにつきあってたら、眠れないっしょ?」
「ははは……。 まぁ、頑張るさ」
「おい、さぽ! 山チンに媚を売るなよ、クソビッチ!!」
「売ってないっしょ!」
漢・山木は大人気だ。
ついにモテ期が来たらしい。
どこぞの異世界系ハーレム主人公張りの夜を過ごしている。
「しかし、水が自由に使えるのはありがたいな。 鬼頭君のおかげだ」
完全に自由というわけではないが、一日出し続けても魔石10個も必要はなかった。
これなら維持も問題ないだろう。
冷たく美味しく、なんだか体も元気になる。
「【猫の手】で購入したのか? それとも魔物から……?」
彼くらいの戦闘力があれば……。
超大型を笑いながら倒す神駆を思い出し、山木は手を握りしめる。
いつか自分もああなりたいと。
「はぁぁ……。 お兄さん……」
ベランダの手すりに腕をかけアンニョイにため息をつくギャル。
「彼女は大丈夫なのかい?」
「問題ないっしょ」
クソビッチのくせに乙女ぶりやがってと、悪態をつくさぽに山木は苦笑いをする。
「学校の雰囲気良くなったっしょ、ありがとう山木っち」
それはただのお礼だった。
ただただ心から思ったことを口にしただけの何気ない一言。
「……ああ、当たり前のことをしただけさ」
そんな彼女たちの当たり前が山木の心を救ってくれた。
山木だけじゃない。
気さくに屈託なく笑い元気に必死に生きる彼女たちに、同行した隊員たちも癒された。
葛藤はあった、不安も。
しかし決断して良かった。
山木は彼女たちを守ると決めたのだ。
「お兄さん……。 ――んっ!? なんだアレ?」
「どうしたっしょ?」
「なんか、変な集団がこっちくる」
「なに!?」
新たな魔物かと、山木はベランダの手すりに身を乗り出し外を見た。
そして目に入ったのは黒づくめの集団だ。
こちらに向かってやってくる。
接敵する魔物を瞬殺して。
「どうしよう!?」
「落ち着け! 皆には校舎の中に入るように指示を頼む!」
「わかったっしょ!」
『藤崎女子高校』に駐在している自衛隊員たちが、校舎のグラウンドに集まる。
その手には各自近接装備を持っており防具も着けている。
中には【猫の手】で購入した装備に身を包んでいる者もいた。
何度か神駆が訪れており物資を融通してくれたのだ。
もちろん対価として素材と魔石を提供している。
「忍者!?」
謎の黒づくめの集団。
それは忍者であった。
もうまごうことなき忍者集団だった。
「忍者だ」「忍者」「なんで忍者?」
混乱である。
「……えっと?」
一人のガチムチ金髪モヒカン半裸が前に出る。
「我らは服部首領の元に集う、『鬼兜組』だ。 孫からこちらの護衛任務を承った」
「はぁ」
「なに、悪いようにはせんので心配するな」
山木はどこか見覚えのあるような顔だちの流暢に喋る外人を相手にどうすればいいか戸惑う。
隊員たちと顔を見合わせていると。
「あの……ひょっとして、お兄さん、鬼頭さんの?」
「うむ。 神駆の祖父だ」
「お爺ちゃま!?」
危険かもしれないから校舎に入っているように命じたのに、前に出てきていたアイリが発狂する。
校舎から「空気よめ!」とヤジが飛ぶ。
おかげでシリアスな空気は離散してしまった。
どちらからも笑いが零れる。
相手も緊張していたのだろう、忍者たちも緊張が解けたようだ。
それによく見ると忍者の顔立ちも若い。
学生かもしれない、というか東雲東高校の生徒かと、山木は少し落ち着いた。
「山木です。 よろしくお願いします」
「うむ。 ジェイソンだ。 よろしく」
二人は握手を交わす。
「ほう。 お主、見どころがあるな」
これは後に最強の忍者と称される、漢・山木の運命の出会いだった。
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