二百八話:満月
今夜は満月だ。
「綺麗ねぇ……」
周囲に人工的な明かりはなく、月の光だけが地上を照らしている。
月の存在を以前よりも大きく感じるね。
「バックムーンだね」
「バックムーン?」
「7月の満月だよ。 ネイティブアメリカンが付けた名前らしいよ」
月とか興味なさそうなミサの意外な知識。
ちなみにバックは雄鹿という意味で、新しい角が生え変わる時期だからそう名付けたらしい。
よくわらかんが良いネーミングセンスだ。
俺は会員証を取り出し念じる。
会員番号はNO.1。
神秘商人で5万クレジット使うと発行してくれる。
デフォルメされた黒猫だけとシンプルながら高級感のあるカード。
クレジット残高も記載されている。
『6万2千クレジット』。
目標の6万クレジットを達成したので、彼女たちを連れて神秘商人の元へ。
結構大変だった。
さぽにお礼としてもらった分と、ジェイソンたちも結構溜め込んでいたのをもらったりしてなんとか。 上手い狩場が無くなってしまったからなぁ……。 魚頭無限狩りはボーナスステージすぎた。
満月の明かりを受け止め、会員証が光る。
「わっ!?」
目の前に光の輪が広がり、中は夜空のように真っ暗でキラキラと星が光っている。
神秘商人へと繋がるゲート。
手を入れてみると空間はぐにゃっと揺れる。
抵抗なく入れる。
「ドキドキするわね!」
「はい!」
「……」
未知への好奇心、得体の知れないものへの恐怖。
ゲートを興味深そうに観察する玉木さんと木実ちゃん。
魔法使いのローブを身に纏った葵が背中に隠れる。
プレゼントしたトランクケースに入っていた物だろう。
腰には杖を差している。
トランクケースは背中に背負っているようだ。 大きさ変わった?
「いらっしゃい、人族」
独特の香り。
ゲートを潜れば一度来たことのある高級店だ。
エキゾチックな香油の香り、店主である女性の蠱惑的な声。
ただの挨拶なのに耳がゾクゾクとする。
「わぁ、お洒落なお店ですねぇ」
「ありがとう、人族」
雑多な【猫の手】の店内とは違い、綺麗に陳列された店内は高級感が漂っている。
置かれている物もアクセサリーやポーションなどだ。
人形のように整った顔立ちの店主がにこりと微笑みこちらを見ている。
観察するような視線。
頬には猫の髭のような逆三角形の模様。 夜の闇のように美しい黒髪に一房の黄金。 豊満な胸元を隠さないドレスは危険物だ。 身に着ける豪華なアクセサリーなどその双丘の前には霞んでしまう。
うん、魅了はされていないからお尻捻るのはやめようね、葵とミサ。
女子は男子の視線に敏感すぎないか?
俺が分かりやすいだけだろうか……。
「ふふ、久しぶりね? 2度目の訪問はあなただけよ。 それにしても、彼女がいっぱいね?」
絶倫ねぇ~と、妖しく瞳を輝かせる。
一部を凝視する視線を遮るように彼女たちが前に出た。
「あらあら、味見はできそうにないわね~、残念。 ふふ、ゆっくりしていってね?」
悪戯気に笑う店主。
「シンク君! 絶対一人できちゃダメよ!?」
「そうです! 危険ですシンクくん!」
「……最後の一滴まで……搾り取られるよ?」
遊ばれてるなぁ。
まぁ一人で来ることはないと思うけど。
香油やアクセサリーなどがメインぽいし。
そういえば【猫の手】だと指輪とかの装備は無かったな。
「2万クレジット!? ミサちゃんっ、あなたこんな高いものねだったの!?」
「えへへ」
「えへへ、じゃないわよ!」
「ぎゃーー!?」
なるほど。
3人ともミサにあげた指輪の値段を知らなかった模様。
玉木さんにお仕置きされるミサ。 南無……。
「無理しないでくださいね、シンクくん」
「うんうん」
「あ、こっちも可愛いですよ!」
俺のふところを心配してくれる二人。
指輪もたくさん種類があり値段もそれぞれだ。
ただし、機能で言えばやはり『エンゲージメントリング』なのでは?
ミサにあげてみんなにあげないという選択肢もないだろう。
「3つ」
「あら、やっぱり男は甲斐性よね。 一つ2万クレジット、合計で6万クレジットね」
残高が2千クレジットに減ったよ。
まぁまた魔物を狩ればいいだけの話。
彼女たちの笑顔はプライスレス。
うーん!
みんなから向けられるこの歓喜と尊敬と親愛の感情が気持ちいい。
やっぱりプレゼントは大事だよね。
男は黙ってプレゼント。
「ふふ、イチャイチャするのはお店から出てからにしてね? はい、こっちはサービスよ。 それと利用額が10万クレジットを越えたからカードに星を追加するわね」
「お?」
シンプルな会員証に銀色の小さい星マークが追加された。
「いっぱい貯めると、『いいこと』が起こるかもね?」
舌なめずりしながら『いいこと』という女店主から俺は全力で引きはがされた。
「ふふ、いい彼氏ね。 これからも御贔屓に、人族」
◇◆◇
『監禁王の洋館』、プールサイド。
「「「……」」」
月明りに照らされる彼女たちの前に片膝をつき、指輪を嵌めていく。
魔道具でもある指輪は彼女たちの指に嵌ると、その大きさを調整しジャストフィットした。
「綺麗……」
三人とも手をかざし指輪を見ていた。
月明りに照らされてキラキラと光っている。
うん、比喩的な表現ではなく、本当に光っている。
透明な魔力だろうか?
「ワープ使うの、魔石か月の光で充電しないといけないみたいだよ」
充電ではないと思うけど、まぁニュアンス的に言えば充電か。
また魔石か。 需要が多いな。
「おまけ……香油? 甘い香り、桃みたい」
サービスで貰ったのはアロマポットと香油だった。
花のつぼみのようなそれはインテリアとしても優秀だ。
どこかに飾ろうかな。
「ありがとう、シンク君。 大切にするね」
「シンクくん、……ありがとうございます」
「シン、大好き」
高すぎると戸惑っていたけど3人とも喜んでくれてよかった。
みんな目元が少し潤んでいる。
今までいろいろあったけど乗り切れてよかった。
「うむ」
「ふふっ」
「シンクくんらしいです」
気の利いたセリフは言えないのだ。
「あ、月の光で光るんだ~」
貰ったアロマポッドが月の光を吸収し発光している。
ミサが香油を垂らすと辺りに甘い桃のような香りが広がった。
甘すぎない上品な香りだ。
「いいですね」
「んっ」
水の音。
静寂の中で、甘い香りに包まれ癒される。
静かに時間は流れていく。
「ねぇ、シンク君……」
プールサイドに設置された屋根付きのベッド。
広めのそこにえちえちエルフたんに連れられて行く。
いやいや、玉木さん?
みんないますよ?
「もう、だめ。 我慢っ、できないの……」
そういって首に手を回してくる玉木さん。
いつもより甘えん坊さんだ。
どうしたのか? これが指輪効果というやつか!?
「ぬ!?」
気づけば他の三人もベッドに……!
満月に見守られながら五人でベッドの感触を確かめるのだった。
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