二百六話:会議の後は

 3者から中間距離にある場所の建物。

 公共の施設らしく簡素なトレーニングジムと会議室などのある建物にて会議中。

 一緒に来た人たちは建物を守るように護衛をしている。


 席に座り飲み物が配られ、各自の自己紹介を簡単に済ませていた。


「『田中 誠』です。 クラフトワークスの代表者になっていますが……鹿野さんに譲りたいんですよね、本当は」


 30代くらいの男性、『田中 誠』さん。

 なんだか疲れた顔をしている。 苦労してきたのだろうな。 急に1800人も増やしてごめんね?


「ははは、自分は現場にいる方が性に合いますから。 田中さんは上手くやってますよ」


 ミサのお父さん、鹿野警部補はだいぶ顔色が良くなった。 

 瀕死の重傷だったけど、神々の祝福の効果は凄いな。

 ゴブリンに囲まれて籠城戦をしていた精神的な負担もなくなったし、トップから降りられたのも大きいか。

 40代くらいなのかな?

 魂魄ランクの影響で若返っている可能性もあるから、もはや年齢は見た目じゃわからん。


「一ノ瀬さん。 君の声に、大勢が救われた。 勇気ある行動に感謝を、ありがとう!」


 立ち上がり一礼する鹿野警部補。


「……はい」


 黒髪ロングにとっては苦い記憶かもしれない。

 少し困ったような表情で握手を交わす。


「えっと、じゃあ今後の話しなんですが……」


 睨み合う九条先輩とツインテに挟まれる服部先輩。

 

「君が領主なの? 弱そうだね!」


「服部は強いよ」


「えっ!?」


「え~?」


 首を左右に動かしながら表情をコロコロ変えている。

 ツインテに襲われたら服部先輩はすぐ死ぬぞ。


「んー……」


「強さにも色々ありますから、美愛さんも領主やりたいですか?」


「絶対イヤッ!」


 まぁツインテも俺タイプだよね。

 脳筋タイプ。

 コミュ障ではないけど、内政とか苦手そう。

 剣技に全振りして人斬りとかバッドステータス持ったキャラだよきっと。


「若いっていいですね……」


「そうですなぁ」


 きゃいきゃいする若者たちをおじさん達が見守る。

 

 会議とは言っても親睦会のようなものでもある。

 現状報告から始まり、魔物の情報交換、そして【猫の手】について。


「私たちが市役所に立てこもれたのも、あの不思議な店があったからです」


「僕たちも、だいぶお世話になっているよ」


 未だ【猫の手】を完全には信用していない黒髪ロング。

 しかしそれもまぁ……世界をめちゃくちゃにした奴の勢力なのだから当然か。

 便利だからと盲目的に信用してしまうのは危険だ。

 利用する程度にすべき。 まぁ現状は最大限利用しないとやっていけないけどね。

 東雲東高校は食料生産を頑張っている。

 回復薬や装備も自分たちでまかなえればいいのだけど。


「生命線を相手に委ねるのは危険ですが……まずは領地化ですね。 自給自足はその後に考えましょう」


 そう結論付けた。


「街道整備は……」


「ああ。 こちらが主導で行おう。 二方のおかげで、だいぶ魔物の被害は抑えてもらってるしな」


「助かります!」


「それに自動車もバラせば色々と部品が取れる。 今後に備えて素材は集めておきたい」


 鹿野警部補が方針を決め、田中さんが頷く。


「念話魔法を持っている方が3人いるのは都合が良かったです。 今後は連絡を密に行いましょう。 特に魔物の動向については要注意です。 敵の支配地域を増やさせないようにしなければ……」


 黒髪ロングも気づいているのだろうか?

 ここでは言葉にはしなかったが、俺のほうをチラッと見た。


 

「わぁ、おっきな卵!」


「大きいですね」


 難しい話しは終わり。

 【猫の手】で交換できる食料の話しをしながら雑談。


「藤崎市かぁ。 あそこは自衛隊があるけど、どうなんだ?」


「あまり上手くいってないみたいだよ」


「そうか……世界はどうなってしまってるんだろうなぁ……」


 日本の自衛隊は優秀だが、基本的には災害の起きた場所に他所の基地からピストンで物資や人を大量に送る作戦だ。

 世界規模、日本中で同じようなことが起こってしまうと、うまく機能しないかもね。

 自分たちでどうにかしないと。


 

「ではまた! なにかあればいつでも言ってくれ!」


 手土産を持たせた『クラフトワークス』の面々が去っていく。

 俺も黒髪ロングに会いに行く約束をうまく取り付けられて、まぁ全然嫌じゃないんだけど、解散の流れになった、のだが……。

 

「美愛さん?」「九条さん?」


 残った剣士二人はヤル気満々だった。




◇◆◇



 真剣・・を構えた少女が二人向き合う。


 すでに言葉はない。

 刀を持ち向き合えば解る。

 強者だと。

 張り裂けるような殺気は鋭く冷たく空気を張りつめさせる。


「っ!」


 八双の構えで待ち構える九条に、美愛は中段の構えのまま歩み寄る。

 間合いに入り美愛が刀を打つ瞬間。


「――――『飯綱いずな斬り』」


 神速。

 九条の構えていた刀が雷が落ちるように美愛の刀を叩き落した。

 美愛も反応していた。

 しかし九条のまるで居合のような剣筋が美愛の天才的な感覚を超える。

 

「仙道さん……弱くなった?」


「っ……」


 痺れる手を震わせる美愛が目を見開く。

 

 二人は剣道の試合で何度も戦ったことがある。

 それは九条の敗戦の歴史だ。

 才能の差を感じ挫折を味わった。

 何度も。

 でも彼女は剣を捨てなかった。

 イメージの中の美愛と戦い続けた。

 自身と向き合い続けた。


 世界が変わっても常に『己の剣』と向き合い続けた少女がついに勝利する。


「私が、……強くなった?」

 

 自身の手に持つ『無刀無限』を握りしめ、服部へと微笑む。


「く゛や゛し゛い゛ぃいいーーーー!!」


「はいはい」


 大粒の涙を流す美愛は再戦を叫び、お嬢様たちに取り押さえられ帰っていった。


「やったね、九条さん!」


「うん」


「わぁっ!?」


 長身の九条に抱きしめられる小さな服部先輩を、神駆たちはニヤニヤと見守るのだった。





 

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