百三十話:千棘のマーマンロード ③
ガラガラと崩れ落ちる音が続いている。
『――――』
朦朧とする意識の中で確かに聞こえた。
彼女の声に胸が弾けるように脈打つ。
いつだってそうだ。
反射といっていい。
俺は、息を吹き返した。
>>>SSR【エポノセロス】の損耗率が一定に達した為、装備解除されます。 修復が完了するまで装備はできません。
「――――っあ!?」
淡い光が消え天井は落ちてくる。
体中が痛い。
言うことを聞かない。
このままだと、生き埋めにされるっ!
「≪ベルセルク≫ッ!」
ヴォルフガングの指輪から青い炎が俺を包み込む。
「っぐうああああああああああああ!?」
激痛に激痛が重ね掛けされる。
体中をこねくり回し細胞一つ一つを作り変えるように。
俺は青い炎に渦巻かれながら跳躍した。
ガラガラと残骸が降ってくる。
「っ!」
あきらかにオーバーキルな一撃。
市営の大きいマンションが丸々瓦礫の山になった。
俺の居た場所だけが守られていた。
『エポノセロス』の効果だろうか?
柔らかい光に守られていたのを感じた。
「……やってくれたな」
痛みが殺意へと変わっていく。
胸の中心。
青い炎は渦巻き『ブラックホーンオメガ』と共鳴し、バトルスーツに文様が現れる。
疾しる蒼炎は狼のように揺らぐ。
心臓が激しく脈打ち脳が限界を超えんばかりに活性化する。
発生した脳内麻薬は快感を生み、脊髄を通し全体へと広がる。
氣が満ちる。
「さぁやろうぜ」
土煙の向こうに奴はいる。
ダアゴン……『千棘のマーマンロード』だと思うが、とにかく距離を詰めて戦わないと話しにならない。
しかし硬い鱗に覆われて攻撃も通らない。
防御の要だった『エポノセロス』も大破して使えない。
どうすればいいんだ?
「うるせぇ。 叩きこめ、何度も、何度でもッ!」
青い炎が心臓を焼く。
泣き言は許さないと。
燃え盛るように全身にプレッシャーをかけてくる。
「ひき殺せッッ!!」
大剣を持ち歩む。
自分の手で切り開く。
それしかないんだ。
そうして生きていくしか……。
(……)
心が侵されていく。
暴力と殺意と怒り、怨嗟の念が浸食してくる。
(……あ)
淡い水色の光が優しく包みこんでくれた。
暖かく優しい光だ。
いつだってその光は俺を導いてくれる。
男の人生にはなかった救世の光。
「……ふぅ」
浸食しようとしていた意識が遠のくを感じる。
冷静にけれど体は熱い炎を纏ったまま。
≪ベルセルク≫が体に馴染む。
髪が伸びた。
青銀の柔らかい毛が垂れてくる。
イヤーカフを操作して後ろに流す。
首を回しゴキゴキと音がなる。
体は痛いが、それ以上に全能感が押し寄せてくる。
「……倒すッ!」
決着をつけるッ!
◇◆◇
『ギィイ……』
魔力の欠乏だ。
本来ならありえない。
たとえ全力の
しかし異世界の魔界とは環境が違う。
『嗤ウ者……ヤッタカ?』
世界は改編されたが魔力はまだ希薄だ。
魔王が活躍するには満ちていない。
そもそも自身で拠点を捨てリンクを切っているのだ。
無理をして飛び出したダアゴンは無謀すぎた。
いや、人類を舐めすぎた。
その報いは受けなければならない。
『――――ッ!』
馬の嘶きが聞こえた。
「――『千枚兜通し・改』ッ!!」
『ギィコ!?』
青い稲妻のように漆黒の機馬から青い人狼が降ってきた。
両手に持った漆黒のオーラを纏う大剣を回すように回転させていた。
螺旋を描く。
貫通力を高めた一撃がダアゴンの鱗を突破した。
「っく!」
しかし神駆の必殺の一撃をダアゴンは鱗逆立てて防ぐ。
流れた大剣はダアゴンの顔に傷を負わせた。
『ギィ!?』
「……男前になったな?」
ボコボコと泡を立て傷は修復していくが遅い。
その傷を見て『嗤ウ者』はニヤリと口角を上げる。
『ギィイイイイイイイイイイイイッ!!』
激高したダアゴンが矛を構える。
「うるさいっ、吠えるな!!」
疾駆する。
青い光の残像を残し彼我の距離を一瞬で潰す神駆。
ダアゴンは焦ったように矛を投げるが捉えきれない。
『ギィアッ!?』
空を蹴りその柔軟な下半身の筋肉の脈動を活かし縦横無尽に襲い掛かる。
『エポノセロス』が使用不可になったことで、全力攻撃へと舵をきった神駆。
笑いながら敵を切り刻む。
彼本来の戦い方に戻った。
「はぁあああああああああああああ!!」
気圧されていたのかもしれない。
ダアゴンの圧力に。
圧倒的な生命としての
咆哮を上げる神駆は『ブラックホーンリア』の立体起動力でダアゴンを翻弄する。
『ギィ!!』
ダアゴンも応戦する。
腐っても脳筋戦士だ。 幾多の戦場で部族を従え戦ってきた誇りが制約に雁字搦めにされた体を無理やりに動かす。
しかしまるで鎖繋がれたように重い体は本来の動きをみせない。
「遅ぇえええええ!!」
連撃、連撃、連撃。
最小の動きで大剣を振るう神駆。
気づいているだろうか?
模倣していたツインテ『仙道 美愛』の動き。
左右の連打が一筋の剣戟に昇華しようとしていた。
『――――ッギ』
何度も、何度も、何度も。
攻撃を振るうたび『ヴォルフライザー』の奏でる音は鋭く高く洗練されていく。
纏う漆黒のオーラが増え黒い粒子は舞い『ヴォルフガング』に吸収されていく。
胸に渦巻く青い炎が燃え盛る。
『ブラックホーンオメガ』の文様はまるで青い狼がはしるように流麗に煌めく。
『――――――――』
剣戟の嵐の中、『千棘のマーマンロード』ダアゴンは屈辱にギザギザの歯を擦り合わせていた。
ギ、ギ、ギ、とした不快な音も神駆の奏でる音に搔き消される。
ダアゴンはその鱗が弾き飛ばされても血が飛び始めても決して目をそらさない。
狙っている。
獲物を捕らえ穿つ、その瞬間を。
「いりゃぁあああああああああああ!!」
『嗤ウ者』。
『ギィイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!』
決着をつけよう。
ダアゴンの体から千の棘が飛び出した。
鱗は矛となり周囲すべてを貫く。
攻撃に転じていた神駆は回避できない。
無数の矛が迫りくる。
「っ」
迫りくる不意の矛。
危機的状況に集中力が限界を突破する。
神駆は感じた。
神の奇跡を。
(死ねない、死にたくない、死ねるっかぁあああああああああああああああッッ!!!!)
死にたくないと願う神駆は、死の矛に向かって疾駆する。
青い稲妻のようにその体躯を縮め回転させながら。
大剣ごと矛を撫でる。
「『虚空回転斬り』ぃいいいいいいいいッ!!」
神駆の攻撃を幾度なく防いできた硬い鱗は存在しない。
『――――ギ』
研ぎ澄まされた漆黒の大剣は『千棘のマーマンロード』を両断する。
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