百二十三話:
「ぐぉおおおおおお!?」
反町の巨体が沈み膝に土をつける。
固有スキル【金剛仁王】を発動していなければ、その金砕棒ごと切り刻まれていただろう。
神駆を除けば間違いなく東雲東高校で一番の怪力を持つ男が力負けした。
「散開! 防御は回避に専念して! エリートになっていない人は後方支援にっ!」
後方にて槍を持つ服部が声を張る。
槍の穂先には赤い布がぐるぐると巻かれている。
領主になったことで『猫の手』から貰った装備である。
気前の良いアメショの猫主人。 胡散臭い笑みで槍をプレゼントする。 タダより怖い物はないのだが、服部は笑顔で受け取った。
「『勇気の旗』ッ!」
「『精霊よ、皆に力を貸して、ウインドフォース』」
服部の持つ槍からスキルの赤いバフが、玉木の精霊魔法から緑色のバフが飛ぶ。
都合三種のバフが重ねがけられる。
反町の【金剛仁王】にさらに上乗せだ。
「っおおおおおおおおおおお!!」
「ギョオ?」
漲る力でザンギを押し返してみせた。
「はぁっ!」
「おらぁっ!」
チャンスを窺っていたいた生徒たちが強襲する。
リーチがあり薙ぎ払いがしやすい大剣が男子生徒たちに人気だ。
某狩りゲーの影響か、はたまた神駆の影響か、男心をくすぐるのが大剣である。
振りかぶりの豪快な一撃がザンギに直撃する。
「「っっ!?」」
硬い。
跳ね返される大剣。
攻撃した手が痺れる。
致命的な隙をザンギのまん丸の瞳がみつめる。
「ギョイ」
ゴゥと音を立てギザギザの骨剣が振るわれる。
誰かの悲鳴が漏れた。
死の一撃が学生に迫る。
「ぐぅうううううううう!!」
割って入った反町。
重い一撃に防御が耐えられない。
わき腹をギザギザの骨剣が抉る。
「「反町さんっ!!」」
無慈悲にザンギが回る。
「がぁっ!?」
ギザギザに肉を抉り取りながら骨剣を引き寄せる。
さらに回転を利用した横なぎの一撃が反町に迫る。
「『――ウィンドショット!』」
ザンギの追撃は玉木の放った風の弾丸に遮られる。
生徒たちが反町を抱え撤退した。
「……魔法は効くみたいだね。 少し考えがあるんだけど――」
遠距離からの投擲も効果は見えない。
槍によるヒットアンドウエイもザンギの硬い皮膚を貫けない。
頼りは玉木の精霊魔法。
「できるかな?」
「……やってみるわ!」
面白いことを考えると、玉木は服部を再評価した。
若干、可愛い顔であざとく神駆に近寄り仲良くしている服部に嫉妬していた玉木。
お姉さんたちがカップリングを楽しんでいるのを聞くたびに、残念シンク君はおっぱいが大好きなのよと心の中で訂正してしまうくらいには、警戒していたのだ。
「無茶したのがバレたら怒られそうだなぁ」
服部は前に出る。
その槍の穂先には赤い布を巻いたまま。
「でも頑張らなきゃね」
成長著しい領主様は生徒たちの間をうろちょろする。
その小さな体を利用しザンギの視界から消えては現れる。
(……ナンダ?)
赤い布をグルグルに巻いた槍の穂先が移動する。
まるで無数の槍戦士がいるかのように錯覚する。
(小賢シイ術ダ)
まとめて薙ぎ払えば良い、とザンギが骨剣を振り回す。
生徒たちはゆっくりと後退していく。
「『集れ踊れ、荒ら荒らしく、大きくなれ』」
風の精霊はフェアリードレスに集まり、
「『――――ウィンドストームッ!』」
風の刃を纏う暴風がザンギに向かう。
しかしザンギに動揺はなくギザギザの骨剣を上に構えた。
「ギョ?」
狛犬像の黒炎弾。
「もう一つ!」
さらにもう一体の狛犬像からも黒炎弾が放たれる。
神駆が野犬の中継拠点から持ち帰った狛犬像は2体いた。
裏門へと配置されており、ザンギは誘導されていた。
「――」
だが動揺はない。
水の属性であるザンギは火炎には強い。
「行けぇ――――――!!」
だが黒炎はザンギには当たらなかった。
風の精霊が黒炎弾を飲み込み吸収する。
無数の黒炎刃が暴風となってザンギを襲う。
「「「おおおお!!」」」
野犬の中継拠点、黒炎の怪物との対戦を事情聴取のように聞きまくっていた服部。
当然、葵と玉木の合体魔法のことも聞いている。
魔法の可能性。
精霊魔法の特性かもしれないと検証を立てていた。
見事命中。
格上であるザンギにダメージを負わせることに成功するのだった。
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