百二十一話:


 予想外のガチャ結果に戸惑う。


「なにこれ? どうなってるの?」


 それはガチャアイテムを受け取ったミサも同じだろう。

 不思議そうに手足を動かして確かめている。

 各箇所についたメタリックなアーマー部分は動かせるようだ。

 ヘルムの後ろからポニテのようにコードが出ている。

 ほう、ヘルムは口元を出す状態と目元まで出す状態、それにフルフェイスの3パターンあるらしい。

 首から肩へのアーマーも収納状態にもできるのか……いろいろと細かいな。

 

「もらっていいの?」


「うむ」


 戸惑いながらもバトルスーツを試していたミサ。

 どうやら気に入ってくれたようである。

 おそらく全能感に包まれているはず。

 初めてバトラータキシードやブラックホーンリアを装備した時に感じた感覚と一緒だろう。

 

 バトルスーツと繋がりを感じる。

 だけどその所有者がミサになっていることもわかる。

 彼女の魂魄と繋がっている。


「この為に、頑張ってくれてた? ……嬉しい」


 喜んでいるのが伝わってくる。 

 すまん。

 正直ガチャ欲に溺れて連れまわしただけなんだ。

 

「えへへ」


 クルクルと回るミサ。

 そんなに気に入ったのか?

 デザイン的にはSFチックで男心をくすぐるものだが、なんとなく可愛いもの好きそうな彼女も気に入ったらしい。


「あれ、繋ぎ目が……脱げないよ?」


 首回りやブーツなどガッチリとスーツとくっついているのでどうやっても脱げない。

 アーマー部分が取り外せればいけるか? 

 まぁ『装備解除』すれば大丈夫だけど。

 どうなるんだろう?

 俺に戻るのか、ミサに戻るのか、試してみたい。


「『装備解除』」


「『装備解除』? あっ!?」


 ちなみに『装備解除』で解除しないこともできる。

 最初は問答無用で解除されるので保険室の魔女に食べられかけたのもいい思い出だ。

 こればかりは慣れが必要だ。

 目の前ですっぽんぽんのミサ。

 装備解除すると元に来ていた服がどこかに消えるので気を付けたほうがいい。

 今回はそもそもバスタオルはベッドに落ちていたが。

 彼女は慌ててバスタオルで隠した。

 消えたバトルスーツは黒い粒子となって彼女に取り込まれた。


「装備、……『ブラックホーンバニー』っていうんだ」


 いろいろ見えてしまったが怒られなかった。

 教えていないのに装備の仕方は分かったようだ。

 『ブラックホーンバニー』。

 ブラックホーンにもシリーズがあるのかな?

 ヴォルフガングのように危険な能力はないといいが……。


「『装備解除』、……って、バスタオルどこ!?」


 だから気をつけろと……言ってないな。 思っただけだった。


 

◇◆◇


 

 神駆とミサが出かけてから3日目の早朝。

 東雲東高校に敵襲を知らせる警報が鳴り響く。

 いつもの魚頭たちの襲撃かと、防衛を担当する者たちが準備に動く。

 

「急げ急げ!」

「ちゃんと防具をつけろよ!」

「ポーションも忘れずにのぉ」


 電気のない暮らしになると朝が早い。

 昨日が夜間の見張りでなかった者たちはすでに朝食を済ませ動き始めていた。

 万屋『猫の手』にて手に入れた装備と防具、まだ全員分はないが、共有スペースには十分な数が置かれていた。

 ノービスシリーズであればそれほど高いクレジットではないのだが、どうしてもポーションや食料に使ってしまう。 領地化に向けて1万クレジットを貯めていたというのもある。

 領地化は達成した。

 これからは装備の充実にも力を入れられるだろう。


「頑張ってね!」

「おう!」


 掃除や洗濯をしてくれている女生徒に声を掛けられて、男子生徒たちのやる気が上がる。

 朝からかったるいなとか思っていたのに元気溌剌である。

 声を掛けられただけで「あの子、俺にきがあるんじゃね?」とか盛り上がっちゃうのが男子高校生なのだ。 男の子とはわかりやすい生き物なのだ。


「なんだアレ?」


 魚頭の群れが見えた。

 いつもと同じ光景。

 だけど、その中に異質なモノが混じっている。


「わかんねぇ、だけどなんかヤバイ」


 ヤバイものへの危機感が人一倍強い東雲東高校生。

 そのセンサーに引っかかる特大の警報。


「反町さんを呼んできてくれ! 服部にも連絡してッ!!」


 防御を固める。

 いつもは群れて走ってくる魚頭たちがゆっくりと歩いて向かってくる。

 それもまた異様で気味が悪い。

 

「なんだありゃ……アーチ?」


 魚頭たちが向き合いながら槍のようなものでアーチを作っている。

 まるで英雄の歩く道を作るかのように。

 そのアーチから一体の怪物は現れる。

 開戦の咆哮と共に。


『――――ギョォアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


 東雲東高校中に響き渡る怪物の咆哮が、そこいる者たちの魂魄を震え上がらせた。

 

「中継拠点を取ったから、怒ってるのかな……?」


「服部!」


「はっ、関係ねぇさ。 襲ってくるなら返り討ちにしてやるだけだろが!」


「反町さんっ!」


「うふふ……二人で2泊もどこにいってるのかしらぁ? シンクくん帰ってきたら少しお話が必要よね、うふふ……」


「闇落ちエルフさんっっ!?」


 異変を感じ役者たちが集まってくる

 神駆不在の中、激闘の幕が切って落とされた。



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