九十九話:

 

 そろそろ無言コミュ障がきつくなってきたのでお暇しようかな。

 あまり期待されても困るし、ずっとここにいるわけでもない。

 俺には帰る場所があるのだ。


「なぁ、どうやったらそんなに強くなれるんだよ?」


 帰りますよと、空気感をだしつつ大剣を装備し出口へと向かう。

 雰囲気が伝わったのかモーゼの如く人の波は割れ歩きやすい。

 唾を飲み込む音が聞こえるほど静かになっていた。


「……」


「どうすればあんたみたいになれる?」


 そんな中で出口に二人の人物がいた。

 若い男女の二人だ。

 若いといっても自分よりは年上だと思うけど。

 迷彩服を着ていないから避難してきた人だろう。

 

 俺みたいに……?

 コミュ障になりたいわけじゃないだろう。 見ず知らずの人に気軽に話しかけてくるなんて陽キャに決まってる。コミュ強者だ。

 怖い目つきも筋骨隆々の体格も隔世遺伝だから。ジェイソンのせいだから。

 

 若い男性は真剣な目つきで俺を見て、もうひとりの女性は凍るような視線を俺に向けている。

 敵意は感じないけど、怖いよ?

 

「戦え」


 かつていじめられていたころの俺は、恵まれた体格があっても、ジェイソンの特訓で強くなっても、戦うことができなかった。 相手を傷つけることを恐れたのか、傷つけられることを恐れたのかはわからないが、明らかに自分より弱い相手にビビっていた。

 ナイフで刺され血を見た瞬間に、どこかのネジが吹っ飛んだ。

 ようは切っ掛けだ。

 怪物だって全部が手に負えないほど強いわけじゃない。

 格闘技の経験がなくたって協力すればなんとかなる。

 東雲東高校が良い例だ。

 

「っ!」


 駐屯地で感じたこと。

 おそらくここの避難してきた人たちは自分たちで戦っていない。

 ぬるいんだ、空気感が。

 リアルを感じていない。

 そのうち勝手に収束するだろう、自衛隊がなんとかしてくれるって思ってるんだろうなぁ。

 まぁそうなるといいねとしか俺には言えないけれど。 


「戦え」


 だからどうすれば強くなれるかなんて答えの決まった質問をする。

 

 

◇◆◇


 

 心臓を鷲掴みにされたように呼吸ができなかった。

 

「はっ、はっ、はあぁ……」


 男が去ると、重圧は消え呼吸ができるようになった。 

 横を通り過ぎる際の存在感が違いすぎる。

 怪物なんて目ではないほどのプレッシャーだった。

 

「……戦え、だってよ」


「……」


 こっちは戦えるように強くなる方法をきいたのにな。

 ……結局それしかないんだろうな。

 俺だって戦いたいが、この駐屯地じゃ無理だ。

 前に一般人から臨時隊員として採用した奴らが装備もって逃げ出して大騒ぎだったからな。

 しばらく一般人なんて戦闘に参加させてくれないだろうな。

 よくて荷物持ちとかだろ。


「どうする?」


 答えの決まっている質問を俺は彼女にした。


「戦うわ」


 即答だった。


「そうか。 つきあうぜ?」


 復讐に取りつかれた彼女の答えは決まっている。

 彼女を守ると決めた俺の答えも――決まっている。


「追いかけるか?」


「ええ」


 断られたらどうするかな?

 ……戦うしかないよな。

 それしかないんだから。





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