六十三話
ぐでんぐでんになったツインテをおぶって戻ると、黒髪ロングが青い顔をしていた。
目が合うと静かに話し出す。
「……念話が入りました。 内容は東雲市街地の避難所が崩壊、それに伴い救援を要請するものでした」
「……」
念話ってテレパシー?
スキルか魔法だろうか。
「【念話魔法】を所持している者同士であれば離れていても会話ができます。 持っていない人にでも一方的に送りつけることは可能ですが、相手とリンクを結ばないといけません」
神魔法キタコレ!
それさえあれば俺の無口もおさらば!?
「男性の方とのリンクはちょっと、……恥ずかしいので」
「?」
試しにやってみてと、指でチョイチョイ指示をだすが、リンクしてくれない。 恥ずかしいってなんだろう?
「話を戻します。 市街地を襲っている魔物はとにかく数が多いらしく、逃げ延びた人々もまったく身動きができない状況のようです」
黒髪ロングは持っていた弓をぎゅっと握りしめる。
「西から侵攻してくるエネミー、奴らは厄介です。 民家に侵入し隠れ潜み、なんでもある物は武器として使ってくるんです。 ……それに捕まえた人たちを痛めつけ弄び凌辱を行う。 奴らを野放しにはできません!」
まっすぐと俺の瞳を見つめた。
「お願いします。 私に、力を貸してください」
美人に頼まれると断りづらい。
特に目を見て話してくる相手には。
「うむ」
「! ありがとうございます!!」
黒髪ロングは初めて笑みを見せる。
力を貸すのはいいんだが、木実ちゃん達をどうにかしないと。
この学校の方が防衛力高そうだから拠点を変更してしまおうかな?
見つけられなかったけど、温泉もあるみたいだし。
「あ……」
「うぅ……」
俺はおぶっていたツインテを降ろし、黒髪ロングにジェスチャーゲーム。
「分かりました。 ……美愛ちゃんは頑丈ですが、あまり無理しないであげてくださいね?」
反省しております。
吐かれなくて良かったよ。
俺はいったん東雲東高校に戻る。
黒髪ロングは、戻ってくるまでに準備を整えると言っていた。
ブラックホーンリアで空を駆け、一気に帰還する。
直線距離で言えば五キロほどしか離れていないので割とすぐに着く。
「なるほど。 でもここの人たちは大丈夫なのかな?」
戻った俺は四人に説明。
希望する人がいれば護衛して連れていくけど。
服部主導で東雲東高校も要塞化が進んでいる。 厳しい状況なのになぜか仲が良く、まるで共通の敵でもいるのかのように一致団結して頑張っている。 よっぽど野犬や魚頭が怖いんだろう。
反町さんと九条さんもいるからまぁしばらくは大丈夫かな?
「いく」
「葵……」
葵の家は市街地でお店をやっているらしい。
いつもの無表情とは違う、焦りを感じる無表情だ。
俺たちは作戦に参加するため拠点を移動する。
◇◆◇
黒髪ロングは【念話魔法】で招集をかけた。
魔法持ち同士じゃないと念話できないみたいだが、かなり便利な魔法で重要なものでもある。 一定以上の規模の組織なら所有している可能性が高い。 それなら援軍も呼びやすい。
やっぱり俺も最優先で購入しよう。
そしてしばらくして、自衛隊が来たらしい。
「罠かぁっ!?」
色とりどりの髪色をしたヤンキーみたいな奴らが、部屋に入ってきた。
自衛隊って随分とガラが悪いんだな。
まぁせっかく来てくれたし、ママノエ串でもいかがっすかね?
「……らっしゃい」
「キェエエエエエェッ!?」
ニコリと笑って出迎えると。
なぜか恐慌状態で逃げ惑う自衛隊。
疲れ顔の黒髪ロングにママノエ串を渡したときのような状態。
まぁ食べたら美味しいって涙を流してたけど。 別に無理矢理口に突っ込んだわけじゃないよ? ちょっとお願いしただけ。
「ひぃぃぃ……!?」
尻もちついて後ずさるとか……メンタル弱すぎ……。
絶対偽物だろ。
混乱に乗じて悪さをするつもりの輩か? 許さないぞ。
俺は威嚇を込めて睨みつける。
「っ!?」
叫び声は一瞬で止み、会議室の全員、心臓が止まったように静まった。
五月蠅いのは火で炙られるママノエくらいである。
「……では、作戦会議を始めましょう」
これ幸いと、黒髪ロングは作戦会議を始めた。
◇◆◇
「あっ、シンク君! 温泉最高だったよぉ~~♪」
「!」
湯上りエルフ。
浴衣ではないのが残念。
でも腕に抱き着いてきた玉木さんから、石鹸のいい匂いがした。
「お疲れ様です、鬼頭君。 ……温泉、気持ちよかったです」
湯上り木実ちゃん。
すっぴんですか? 結婚してください。
「鬼頭、会議はどうだったの?」
ポニテをほどいたミサは、髪をタオルで拭きながら聞いてくる。
もうすでに俺には慣れたようで、怯えた様子はない。
「……明日、朝」
「出発? 具体的な作戦とかは?」
「……」
作戦はシンプル。
黒髪ロングを指揮官に敵を殲滅するだけ。
それだけの能力を黒髪ロングは持っている。
自衛隊たちも文句はないらしい。
「ん……」
葵は元気がない。
みんな家族の安否は分かっていないけど、実際に危険な状況だと聞かされたら無理はない。
木実ちゃん達も気持ちが分かるのだろう、寄り添い励ましている。
温泉も元気づけようと無理矢理に連れて行ったのだ。
「格差社会……」
胸を押さえ意味不明な呟きをしているが、ほんとに家族を心配しているのかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます