五十七話


 俺たちは大型スーパーに物資強奪にやってきた。

 あっ、違う。 

 誰か困っている人がいないか、助けにやってきた。


「ん……」

 

 自動ドアは破壊されていて、駐車場には野犬たちがたむろしている。

 魚頭のように祭壇を作ったりはしないが、物を口で運び円状に並べられていた。 あれが野犬たちの印なのか?

 

「グルルッ……!」


 こちらに気づいた野犬たちは一斉に警戒態勢。

 唸り声を上げ、突撃してきた。


「「「ガルアッ!!」」」


 双頭の野犬はいないみたいだな。

 でも角のある赤黒はいる。


「っ……」


 野犬の群れに震える玉木さん。

 無理もない。


「シンク君!」 


 俺は一気に駆け、殲滅する。

 放置された車も足場に赤黒へ一直線。


「ヘッ、ヘッヘッ――っ!」


 驚いた赤黒が周囲の野犬に指示を出す。

 その叫び声に一斉に野犬どもが襲い掛かってくる。


『リィイイイイイイイイイ!!』


 一刀両断フルスイング

甲高い音を立て横薙ぎに振るった黒いチェーンソー型武器は、野犬も車もまとめて切り裂いた。

 SR【ヴォルフライザー】。

 最初はうるさい音なんだが、振り続けると回転が上がり音が澄んでいく。

 それに比例して火力も上がる。


「――ガッ!?」


 突進してきた角あり赤黒を、角ごと真っ二つに切り裂いた。



 店の中に敵の気配ない。 人の気配もないけれど。


「臭い……」


「う~ん……」


 入口に入るとすぐ、野菜の腐った臭いがしてきた。

 ここの大型スーパーは野菜の品揃えが良かった。 空調設備が止まっているせいで、腐ってしまった物もあるのかな。 もやしとか足がはやいからなぁ。


「平気な物も結構あるわね」


 ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ。

 カレーでも作るか?


「カレーが食べたくなっちゃうね……」


 カレーいいよね、カレー!

 木実ちゃんが食べたいなら作りましょう。


「わわっ? ほんとにこんなに入った……」


 白ガチャから出てきたアイテムバッグのような鞄。

 百連ガチャで二個目が出た。 具現化されているのか譲渡できたので、ミサに渡した。 女子四人の中だと一番体育会系なので、それなりに量も運べるかな。


「ふぇぇ……」


 しかし野菜を詰めたらすぐに音を上げた。

 重量がそのままってのは、人力だと微妙だな……。


「任せて!」


 玉木さんが豊満な胸を張る。

 精霊魔法。

 神秘的な淡い光にエルフの彼女は包まれる。


『風の精霊、少しだけ力を貸して、ウィンドフォース』


 玉木さんの詠唱と共に緑色の光がミサを包み込む。


「うわわっ!?」


 ミサは跳ねて驚く。


「ふふ、大丈夫よ? 風の精霊が重量を軽減してくれるわ、それに身体能力も少しだけ上がるの」


 精霊魔法便利だな。


「シンク君にも掛けてあげるねっ」


 玉木さんは俺にも精霊魔法を掛けてくれるようだ。

 何故かボディタッチをしてくる。

 

「こうした方が掛かりが良いのよ?」


 ならしょうがないな。

 俺は嫌じゃないし、――ふぁっ!?


「少しジッとしててね??」


 玉木さんは、俺の胸に両手を優しく添えて額をくっつけた。

 近い! 急すぎてビックリですよ!!


「「「……」」」


 待ってる三人の視線が痛いんですけどっ!?


「はい、出来ました。 もう離れてもいいわよ?」


 密着状態で見上げてくる玉木さん。 どこか悪戯気で満足そうな笑みを浮かべている。


 心臓がドキドキしてたのバレたのかな?

  

 

 生存者は無しか。

 広い店内には誰もいない。 野犬も駐車場で戦っているときに全部外に出てきたようだ。 カートと鞄に物資を詰めるだけ詰む。

 

「……」


 火事場泥棒。

動いてもいない監視カメラを気にした。

誰も見ていないのに周りが気になる。


 木実ちゃんは何も言わない。

 賛成ではないんだろうけど、手伝ってくれて嫌な顔もしない。

しかし精神的には良くないよなぁ。


(ふむ……)


 店ではなく災害物資の置いてある場所から貰ってくればいいのか。

 そうすれば強奪ではなく支援を受けたことになる。


 ちょっと遠いけど、自衛隊か大きな避難所に行ってみよう。

 明日は遠征でもしてみますか。


「どうしたんです? 鬼頭君」


 ニヤりとする俺に、木実ちゃんは首を傾げた。


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