五十六話:俺の眼鏡はたぶん天下を取れると思う

 食事は大切だ。

 普段の生活ではもちろん、災害によってまともな食事をとれないことは誰にでも起こりえる。 美味しい食事は心にゆとりを、栄養ある食事は体に活力を与えてくれる。


「うぇっ!? そ、そんなの、私は食べないわよっ!」


「ば、馬鹿っ!? は、早く。 ――謝れッッ!!」


「痛っ!?」


 世界が変わって四日目の昼。

 現在俺は東雲東高校の校庭にて、食料配給を行っている。

 というのも、防災倉庫にあった備蓄食料が尽きたのである。 かなりの量の食料があったはずだが、全てを体育館に運び込んでいたわけではなく、卓球場などのある一階に運んでいた食料は野犬や魚頭の襲撃でダメにされてしまった。


 配給の列に並んでいた非処女の女子生徒は、『キュィ!キュィ!』と断末魔の悲鳴を上げて焼かれている食材を見て暴言を吐いた。

 すぐに近くにいた非童貞の男子生徒が、女子生徒の頭を殴り土下座をさせる。


「食うか、喰われるかだ……!」


「やぁぁ……」


 男子生徒は土下座させた女子生徒の口を手で掴み、生焼けのママノエをねじ込んだ。 生焼けの方がうまいのだよ。 女子生徒は苦し気にイヤイヤをして涙目に。 鼻をつままれ両目を閉じて咀嚼する。 


もきゅきゅ。


「ふぐぅ……おいしいですぅ……」


 二人は謝りながら配給を受け取り去っていった。


 【死神の晩餐会】そんな呟きが聞こえてくる。

 おかしいな……? 俺の善意の無料奉仕が、なぜそうなるの。

ママノエを買いに走ったり串焼きをセットしたり、こうして火の番までしているのですよ。 

 ママノエの踊り食いでもさせたろかっ!


「ありがとうございます……鬼頭君。 み、みんな喜んでいますよ?」


「……」


 担任教師の処女の新垣先生が声を掛けてきた。

 先生は彼氏いないのかな。 男が苦手なタイプなのかもしれないね。


「その眼鏡、良く似合ってます……」


 そうかな?

 どこからかインテリヤクザとか、筋肉眼鏡とか囁き声が聞こえるけど。

 俺は今、前にガチャで出したメタリックなフレームの眼鏡を装着している。 百連ガチャのアイテムを整理しながら思い出してつけてみたら、とんでもアイテムだったのである。


「目、悪かったの?」


「クール系オーガ」


 ミサと葵。 眼鏡越しに彼女たちを見ると、一つの情報が映し出される。 

 『処女』。

 男を見れば『童貞』かどうか分かる。 俺をみればきっと『童貞』と頭の上に表示されるだろう。


 恐ろしい眼鏡だ。


 エア処女とか一発で見破れる。

 世が世なら天下を取れるアイテムかもしれない。

それはないか……。 なんにせよ【ブラックホーンリア】のSP補充に役立つ。 どうやって性エネルギーを集めればいいのか、それは別問題だけども。


「はい、どうぞ」


「はーい、こっちも焼けたわよ」


 木実ちゃんと玉木さんも手伝ってくれている。

 二人の上に表示される情報は一緒だ。

 俺はなんだかほっこりとした気分になった。


「なんなんだコレ……」


「栄養はあるらしいぞ?」


「家に帰りたい……母さんたち、無事かなぁ……」


「自衛隊まだかよっ」


 この三日間は近隣の人達がそれなりに避難してきていた。

しかし今日は学校へと避難してくる人たちがいない。

 救助も来ない。

 家族を心配する生徒たちや家に帰りたがる者も多いようだ。


(ジェイソンとか、心配するだけ無駄だな……)


 むしろ生き生きとしているだろう。


「……」


 情報が欲しい。

 テレビもネットもないと、こんなにも情報不足になるんだなぁ。


「オーガ、狩り行こ?」


 葵か。 そういえばパワレベの約束だったな。

 魔法はもう買えたんだろうか?


「まだまだ足りない」


 さいですか。


「……おう」 

 

「やった」


 フード越しに上目遣いで見つめてくる。

 うむ。 表情は分かりづらいけど、目は輝いているな。

 食料配給が終わったら、犬でも狩るかね?



◇◆◇



 風は舞う。


『風の精霊、集れ踊れ、ウィンドショット!』


 回転する緑色の球。 野球ボールほどの風の魔弾。 

 詠唱した玉木さんの手から放たれ、野犬にまっすぐに飛んでいく。

 速度は十分に速い。 しかし、距離があったため野犬は横に飛んで魔弾の軌道から外れる。


「――キャィッ!?」


 穿つ。

 カーブボールのように曲がり追尾した風の魔弾は、野犬の頭部を直撃する。 パァン! と、真っ赤な血飛沫が宙に舞った。


「うん。 やっぱり追尾してくれといいわね」


 精霊魔法。

 玉木さんの魔法だ。 流石はエルフである。 彼女の周りを淡い緑色の光が浮いている。 精霊なんだろうか?


「凄い……!」


 木実ちゃんたちはまだメイスで止めを刺すだけだ。

 メイスで野犬と戦えば、一対一でも勝てるかどうか怪しいところ。

 遠距離で戦えるようにしたいね。


「へゃぁああああ!」 


 それでもメイスの扱いは上手くなったと思う。

 構え振り下ろす鉄の塊がきっちりと、押さえつけた野犬の頭をとらえる。

 最初の頃のような不安はあまりない。


「……くる」


「っ、どっち!?」


 犬耳が団体の気配を感じ取る。

 突き当りの丁字路から野犬の団体。


「……むこう」


「任せて!」


 そう言って、玉木さんは両手を前に突き出し詠唱を始めた。

 風が舞う。 ワンピースの裾は舞い踊り、視線誘導が発生する。


『風の聖霊、烈風の弾丸、疾駆する風波――エアリアルウェーブ!!』


 圧倒的中二詠唱!

 しかし効果は絶大だ!!


「「「ガルァッ!?」」」


 無数の風の魔弾が野犬の集団を蹴散らした。


「やったわ!」


 玉木さんは双丘を揺らし喜び、木実ちゃんたちは唖然としていた。

 そして再起動したように喋り出す。 


「魔法凄いな……」


「私も欲しいです!」


「魔法!!」


 俺も欲しいです。


 ガチャでパンティー出してる場合じゃないぜ……。





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