五十八話

 眠れない。


「……」


 代わりに純潔の巨乳乙女二人は爆睡だ。

【純潔判定眼鏡】で確認したので間違いない。

 俺の腕枕で二人は安心した寝顔をみせている。

 こんな状況で安眠出来るとは、流石は俺の筋肉。


「んっ……」


「スゥ……スゥ……」


 さっきまで三人でワイワイしていた。

 玉木さんとも打ち解け合えたようで良かった。


 ちょっとトイレ。

二人を起こさないようにそっとどかし、またぐらで寝ている葵を放り投げゆっくりと立ち上がる。


「ううぅ……にゅぅ……」


 体育会系ガールのミサは端っ子で唸っている。

 筋肉痛か? 野菜も詰め込めばかなりの重量だからな。

ポーション、いや、少しマッサージでもしてやるか。


「ほう」


 これはなかなか、しなやかで良い筋肉だ。

 起こさないように優しく丁寧で丹念に。

 明日は結構な距離を歩くから、筋肉痛ではつらいだろう。


「ふにゃぁ……」


 うむ。 

 よくほぐれた。

 これで大丈夫だろう。


「トイレ」


 ついでに見回りもしてくるかな。




◇◆◇



 なんだアレ?


「……壁?」


 ブラックホーンリアを使い上空に上がる。

 今日の目的地、自衛隊の駐屯地のある方角に目を向けた。 

 高校の横を流れていた川は、大きな川へと流れ込む。 そこには橋が掛けられているのだけど、その真ん中では車を積み重ねて壁のような物が作られていた。


「ふむ」


 バリケード。

 怪物の侵入を防ぐため、そう考えるのが妥当か?

だとしたら壁の向こう側はまだ無事なのかも。 

 ちなみにこの辺りは『獄炎のケルベロス支配地域』とマップでは表示されている。


「……」


 俺はゆっくりと下降していく。

 朝の町は静か。

 時折、野犬の戦闘音らしき音が聞こえる。 人と戦っているのか、それとも怪物同士で争っているのか? 


「ふぅ……」


 空はいつもより澄んでいる気がした。

 煙や車の排気ガスが少なかったからだろうか。

 澄んだ朝の空は蜜柑色に染まり始める。

 朝陽はゆっくりと顔を出す。

 

「お」


 怪物を発見。

 即、サーチアンドデストロイ。

 皆を起こすのは悪いからな。 静かに上空から忍び寄り一気に弱点を攻撃。 双頭の間を【ヴォルフライザー】で斬りつける。


「「――ガァッ!?」」


 悠然と朝の町を闊歩していた双頭の野犬は、断末魔の悲鳴を上げ真っ二つになった。 

 後には赤黒い魔石を残す。

 猫の万屋で高く買い取りをしてもらえる、ありがたいドロップ品だ。


「次――んっ?」


 さらなる獲物を探すため上空へ。

 俺は辺り一面を見渡し、不思議な物を発見した。


「なんだアレ……?」


 大きな公道。 野犬たちがやってきている場所だ。

 そこに見慣れない建物があった。

 漆黒の大聖堂カテドラル

 以前は無かった。

 だってあんな物、道路の真ん中にあったら邪魔すぎるだろう……。


(めっちゃラスボスいそう……)

 

 ちょっと行って覗いてくるか?

 ブラックホーンリアのSPもかなり回復している。

 むしろ今までにないくらい漲っている。

 何故か知らないけど。 


「シッ!」


 疾駆。

俺は空を駆ける。

一直線に突き進めばすぐだ。


「――っ!?」


 急停止。

 目の前を上空へと抜ける、黒い炎球。

 熱波が肌を撫でた。


「二発目っ!」


 これ以上の侵入を拒むように、複数の黒い火球が放たれる。

 放っているのは赤黒い野犬だ。

 双頭の野犬以外でも炎を吐くタイプがいるらしい。


「っ……」


 撤退。

 ちょっとした興味本位だったし、無理はしない。

しかし、遠距離型の吐息か。 厄介だな。


 炎対策が必要だ。



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