五十四話 玉木は驚いた


 玉木は驚いていた。


(この子……! なんて大胆なのっっ!?)


 清純そうな見た目や言動とは裏腹に、目の前で繰り広げられるインモラル。 玉木は、テニスウェアを脱ぎ捨て鬼頭の膝の上でその豊満な双丘を揉みしだかれる木実を、再評価した。

 この子は侮れない……! と。


「あっ、んんっ……はぅん!」


「……」


 薄暗い視聴覚室に響き渡る嬌声。

 カタカタッカタカタッ、と軽快なリズムで椅子の足が床に音を立てる。 鬼頭の大きな手でも包み切れない豊満な双丘の揺れに合わせて音は鳴る。


「――ふぉおおお!?」


「っ! どうしたのっ、シンク君っ!?」


 突如、鬼頭が跳ねた。

 これまでの戦況は鬼頭が圧倒的有利だったはず。

 木実は耐えるのみで、徐々に頬は赤らみ表情は淫らになってきていた。 それなのにどうしたことか? 

 形勢は逆転。

鬼頭は一気にピンチに陥った。


「んふぉっ! んふぉっっ!!」


「んっ、くぅん、あっ」


 鬼頭の膝の上で木実が大きく跳ねる。


(何が起きているの!?)


 やがて戦いは終結を迎える。

 結果は明らか。

 鬼頭の圧倒的敗北である。


「――ほおおおおおおおおっ!?」


 鬼頭は稲妻に貫かれたようにのけぞり奇声を上げた。


「ああっ、あ……れ? ……鬼頭君??」


「……」


 なんて恐ろしい子……!

 玉木は新たに木実を再評価した。



◇◆◇


 

 朝陽が眩しい。


「ん……?」


 朝陽? 

 俺は随分と長く寝ていたようだ。

 寝たのは二十四時前だったはず。

 深夜の襲撃は無かったのかな?


「!」


 動けない。

 そう思って横を向くと、長い耳の玉木さんが寝ていた。

 まさかの添い寝である。

 俺の上腕二頭筋を枕にするようにして、眠っている。

 美麗な寝顔にドキッとした。


「っ!?」


 反対側。

 そこには天使の寝顔が。

頑張って首を伸ばせばキスできそうなほど近くで、木実ちゃんが眠っている。 やっぱり俺の腕を枕にしているのだ。


 どうやら俺はまだ眠っているらしい。


 いやいやだって、ありえないから。

現実でこんなこと、ありえないからっ!


「スゥ……スゥ……」


「ぉにがひらひゅん……えっひなのは……らめぇぇ……」


 布団の上で川の字。

 毛布が一枚。

 三人一緒になって寝ている。


「……」


 落ち着け。

 落ち着け、俺! ようく思い出してみるんだ。



 そう、昨日は結局三人で視聴覚室に寝ることになった。

 三人分の布団を運び込み深夜の襲撃に備えて早く寝ようかなと、窓の外を眺めていたら、木実ちゃんは近づいてきて言ったんだ。


「今日もありがとう、鬼頭君。 みんなを助けてくれて、ありがとう!」


 天使の笑みだった。

 そしてさらに続く。


「私にできるのは、これくらいだから……」


 おっぱい契約。

 ご褒美タイムだ。

テニスウェアをヌギヌギした木実ちゃんは、俺の膝の上にちょこんと乗っかった。

 下着姿の彼女に見とれて俺は止めることができなかった。

 それに、【ブラックホーンリア】のSPの回復についても試したいと思っていた。 処女の性エネルギーでどの程度回復するのかを。


(木実ちゃんは間違いなく処女)


 そうに決まっている。


 そのこともあり、俺は彼女から契約の報酬を受け取った。

 彼女の胸を揉みしだいたのである。

 まぁ……気づいたら気を失ってしまったのだが。

 どの程度SPが補充できたのか気になるな。

 【ブラックホーンリア】は優秀すぎる。 まだまだ使い方も考えないとだし、SPについても調べたい。



「ふにゃ……」


「んん……」


 しかし動けないなこれは。

彼女たちが眠っている間は動けない。

 

「……」


 まっ、起きるまでは柔らかな感触を堪能してますかね。

少しぐらい肘を押し付けても、バレないよね……?




◇◆◇



 二人が起きたので朝の見回りがてら、ブラックホーンリアの性能チェックに出かけた。 無料ガチャを引いていないことを思い出したので、ガチャっと一発やってみる。 

 しかし残念。 本日の無料ガチャは白だ。

 

「お……?」


 出てきたのは鞄だった。

特に飾り気もない肩掛けの茶色い鞄。


(まさかな……)


 そんな馬鹿な。 そう思いつつも俺は、その鞄に一つの期待を込めた。 

 マジックバッグ。 そんなアイテムが白から出るはずは無い。 いやしかし、意外とレアリティが低いとかもあるのか?


「何か……」


 ふと手に持つ槍を見た。

 ゆうに二メートルはある槍だ。

 おもむろに鞄を開けて突っ込んでみる。


「――入った!?」


 スルスルと。

 長い柄までスッポリと鞄に収まった。

 まさかのマジックバッグに俺は驚きの声を上げた。


「おぉ……」


 取り出せる。

 入れたら取り出せない呪いの鞄でもないらしい。


「ふむ」


 ちょっと試してみてすぐに分かった。

これは容量無制限重量無視のマジックバッグ、というわけではない。


 この鞄には十個しか物は入れられない。

でも袋とかに入れておけば一つとしてカウントされるようだ。

鞄の口より大きい物はダメ、重量はきちんと存在する。

 時間停止があるかは不明。 

 

 まぁ白からならこんなものかな。

 むしろ高レアリティでマジックバッグが出るかもしれないと思うと、ワクワクするぜ!

 

「お」


 SPはだいぶ回復している。

 一瞬だけ発動させて足場として使う。 宙を進むのは自前の脚力。

これでも随分と使い勝手がいい。 スキル購入で脚力強化でも買おうかな。

 ブラックホーンリアの能力で一気に上空へ。

 敵影を発見。

 その後は空を蹴りながら滑空し、魚頭の集まる場所に近づく。


「……祭壇か?」


 猫が言っていた領土を広げるための印だろうか?

 魚頭たちは不気味なオブジェの周りで祈りを捧げている。

 もちろん、本当に祈りと言えるような清らかモノではないのだが。


「いやぁあああああああっ!?」


「ギャーーーー!!」


 殺戮の宴。

 醜悪な怪物による拷問、強姦、処刑。 凄惨で残酷な儀式が行われている。 領土の拡大には生贄が必要だとも言っていたな。


「胸糞悪い」


 上から見た限り、リーダー型はいなそうだ。

 棘つきはいるけど、機動力を手にした俺には問題ではない。

 俺は呟き、急速接近。

 磔にした人を鋭い爪で切り裂こうとしていた魚頭の頭部を、槍で一突き。 


「キコォ!?」


「キカゥウウウウウウウ!!」


 ワラワラと集まってくる魚頭。

 俺は槍を構え、ブラックホーンリアの爆発的機動力を以ってまとめて串刺しにする。


「はぁっ!!」


 縦横無尽。

 棘つきの投げ槍を躱して、二投目は構えることも許さない。


「キコォ……」


 魚頭たちの儀式場は、あっという間に魂魄の狩場に変わった。

 もちろん狩るのは俺だ。

 俺は早朝の魚頭狩りに精を出す。


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