五十三話

 どうしよう……。


「わしの孫を婿にどうかのぉ~~? 土地はあるんじゃよ、土地はのぉ」


「なにをいうとるんじゃ。 おまえんとこの土地なんぞいつ川が氾濫して無くなるか分からんじゃろ」


「カカカッ! それよりわしの孫の方が良いですぞぉ、良いナスをもっておるんじゃあ!!」


「アマミク様にナニをいっとるんじゃ! この色ボケ爺ッッ!!」


 元気になってしまった。

お年寄りのおしゃべりは止まらない。

 あぁ、おばあちゃん。

杖で殴るのはやめてあげてください。

 

 体育館の端っこで、私はお年寄りたちに囲まれている。


「おいっ、見たか?」


「ん、【笑いオーガ】か? 帰ってきてたな」

 

「いやっそうだけど、そうじゃねぇよっっ! あいつが連れてた女だよ!!」


 体育館に急いで入ってきた男子生徒。

 【笑いオーガ】、鬼頭君の話に私の耳は傾く。

お年寄りたちの会話は念仏のように左から右に流れていく。


「超美人! しかも、チョ~~~~スタイル抜群の、――エロフッッ!!」


 男子生徒の興奮した絶叫は、体育館に木霊した。


「あっ、木実!?」


 私は走り出す。

 

(鬼頭君!)


 彼を探して、彼が一番よくいる視聴覚室を目指した。

 タッタッタッ、と。 階段を駆け上がる。

 

「雪代さんっ!?」


 すれ違った服部先輩が何事かと叫ぶ。

 ごめんなさい。 急いでいるんです。


「!」


 ドアを開けて屋上に出ると、鬼頭君がいた。

 香ばしい匂いが風で運ばれてくる。

 机を並べ食事をしているみたい。


「はーい、シンク君。 あ~んっ」


「……」


 鬼頭君は凄い美人に『あ~ん』されていた。

 際どい服装。 緑玉色エメラルドのショートヘア。

 それにニコニコ微笑む美人の耳は長かった。


「鬼頭君……」

 

 その人、誰ですか?



◇◆◇


 

 ママノエは踊る。


『キュィ!キュィ!』 


 断末魔の悲鳴を上げバーベキューコンロの上で焼かれていく。

 甲殻類を焼いたときのような匂い。

 食欲をそそる香ばしい匂いだ。


「はーい、シンク君。 あ~んっ」


 玉木さんは自分の体の変化に少し戸惑っていたけど、すぐに受け入れた。 まぁ耳以外は、ちょっと美人度が上がって胸も大きくなっただけだしね。 

 差しだされたママノエ。

 虫だ。

 寄生虫だぞ。 

 魚頭に寄生するデカイ虫。

 それは今こんがりと焼かれて、俺の口に運ばれた。


――もきゅり。


「美味い」


 見た目に反し、エビのようで美味い。

 醤油が欲しいな。


「美味しい? よかったわ」


 玉木さんはニコニコと微笑む。

 俺と目が合ってもそらすどころか微笑むとは、流石大人の女性。

 

「鬼頭君……」


 ピシリと、俺は固まった。

 その声は我が天使のもの。 間違えようがないが、今まで聞いたこともないようなドスの利いた声である。


「……」


 ギギギギ、と音が出そうなほどぎこちなく。

 俺は声のした方へと向き直る。


「その人は、誰ですか?」


「あら? シンク君の知り合い?」


 俺を挟み、木実ちゃんと玉木さんが出会う。

 火花が、雷鳴が、得体の知れない何かが迸った。


「「「……」」」


 何故かみんな無言で、ママノエの断末魔の悲鳴だけが屋上に響いていた。



 

 運動後はタンパク質を取ること。

 ジェイソンの教えである。 なんか筋肉の回復がなんたらと言っていた。 訓練の後はいつも相撲取りのように食べていた。 我が家のエンゲル係数はうなぎ登り。

 コスパの良いママノエは最高だね。 見た目は最悪だけど。 


「えっ? クラスメイト?? ……シンク君って高校生だったの!?」


「はい。 私と同じ十五歳ですよ?」


「二十歳くらいかと思ってたわ」


 相変わらず俺を挟んだまま、二人は会話を始めた。

 葵とミサも合流しBBQ大会の始まりである。


「えっと、鬼頭に助けられて気づいたらエルフになってた、ってことですか?」


「そうよ」 


「はい、鬼頭君。 ……あ~ん」


 木実ちゃんが割りばしで生焼けのママノエを掴み上げ俺の口に運んでくる。 

 『それもうちょっと焼かないか?』 なんて言えない。 恥ずかしそうに頬を赤らめて『あ~ん』してくれている木実ちゃんに言えるわけがないではないか!


もきゅきゅ。


「……美味い」

 

「よかった!」


 木実ちゃんの手料理ならなんでも美味いです。


「ふ~ん……」


 パチッと炭の跳ねる音。

 日は暮れて、電気の通わない町はすでに暗い。

 怒涛の三日間は長くて短い。 幻のようだ。

 

「エルフ……胸、大きく?」


「そうね、前よりも大きくなった気がするわ」


 葵の瞳がキラキラしていた。

 魔法少女なら貧乳もありだろう?


「ふぇぇ……うまい……」


 大きな瓶に満杯にあったママノエも食べつくした。

 最後まで嫌がっていたミサも、もきゅもきゅと食べていた。

 保存食だけでは、やはり腹が減るのだろう。

 食料は終わりBBQはお開き。

 ささっと片づけて寝るとしよう。

 

「ん? シンク君は体育館で寝ないの??」


 俺が行くと、皆怖がるからね。


「じゃ私もそっちで寝ようっと」


「!」


「シンク君と一緒が、一番安心できるものっ」


 玉木さんはそう言って腕を取った。

 柔らかな感触は鮮明に伝わってくる。


「だ、ダメですよっ!? 二人っきりなんて、ダメですっ!!」


「あら? どうして??」


「そ、それは……その、あの、ダメなんですっ!!」


 木実ちゃんが玉木さんにからかわれている。

 友人A・Bは援護せず静観のもよう。


「わ、私も一緒にいます! えっと、約束もありますからっ!」


「ふ~ん? いいんじゃない??」


 なんですと?

木実ちゃんと一緒に一晩過ごすだと!?

 玉木さんもいるから二人っきりではないけど。

えっ? 巨乳美女二人と一緒にってことではないですか。

 巨乳に挟まれて川の字で寝るのかな……?


「……」


 眠れる気がしないねっ!

 

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