三十九話


 朝日の射しこむ部屋で。

 帽子を被った猫は、レバーを引く。


「白か……」


 今日の無料ガチャ。

 朝一ガチャは当たりが出やすい、そんなジンクスは無いらしい。

 ガチャウインドウが閉じると、アイテムが出現する。


「お……?」


 小さい。

 金色の指輪。

 文字のような模様の入った、かっこいいゴールドリング。


「おぉ」


 ちょっと俺の指には小さいかなと思ったけど、指にはめようとすると大きさが変化した。 

 魔法の道具なのか?

 試しに装着すると、なんだか力が湧いてくるような感覚。


「……」


 つけたり、外したりが可能。 どうやらこれはタキシードとは違って、具現化されているようだ。

 力が湧くといってもそれほど劇的な変化ではない。 強力なアイテムではないのだろう。


 俺はお借りしていたスウェットを脱ぐ。

 左腕の怪我はまだ完治していない。

顔や手の軽いやけどは治った。 足の裏はもう少しか。

 タキシードを着ていた時の方が、治りが早い気がする。


「装着」


>>>R【ガードドッグイヤー】は修復中です。

>>>SR【バトルタキシード】を装着しますか?


 修復も早い。

 さすがSR、もしくはタキシード自体の性能か。

 体にベストフィットする着心地。 他の服なんてもう着れないぜ……。



「おはよう。 鬼頭君」


 天使は今日も可愛い。

朝一で木実ちゃんに会えるなんて。

 彼女の笑みはいつも通り。 昨日のことを怒ってはいなそうだ。 


「……おう」


「服……?」


 彼女は、不思議そうな顔をする。

 昨日は大破して素っ裸だったから。

そりゃ、不思議に思うよね。 


「……」


 葵とリサはまだ寝ている。

 ソファーで抱き合いながら。

服がはだけて、あまり見てはいけない状態だ。

リサの日焼けした太ももと、白いお尻のコントラストが目の毒だな。

 

 俺の視線に気づいた木実ちゃんは、慌てて毛布を掛ける。



◇◆◇



 ガチャ。と、ドアのカギを開けて外に出る。

 野犬の姿はなし。 人の姿もなし。

 庭を通り、道路へ。

昨日の戦闘の跡か、アスファルトは僅かに黒く焦げている。


「お」


 道路には、朝日をキラキラと反射させる場所がある。

 ガラスの破片ではなく、野犬のドロップ品だ。


 小石のような赤紫色の石や、赤い犬歯。 道路にチラホラと落っこちている。 双頭の野犬のドロップは回収したが、他は全然回収してない。

 学校に戻りながら回収していこう。


 武器がない。

 骨矛は砕け散った。

なかなか使いやすい武器だったんだが。

 猫の万屋で買うのもありかな。



+++++++++++++++++++++++++++++++

 メニュー


 鬼頭 神駆


★魂魄

 魂魄ランク:ノーマル

 保有魂魄:83ポイント

★スキル

 スキル購入

 スキル:【自然治癒力強化Lv.1】【槍術Lv.1】【身体強化Lv.1】【忍術Lv.1】

 固有スキル:【ガチャLv.1】

★魔法

 魔法購入

 魔法:【】

★マップ

『獄炎のケルベロス支配地域』

★称号 

【*****の発見者】【ママーミーの天敵】【ワイルドドッグの天敵】


++++++++++++++++++++++++++++++


 メニューの確認。 

 魂魄がたまっている。

 ガチャかスキルの購入か、もっとためて魔法でもいいな。


 スキル一覧にはレベル二のスキルは載っていない。

まだ覚えられないからなのか。 もしくは購入ではないのか。


「それ、集めるの?」


 木実ちゃんも、ドロップ拾いを手伝ってくれる。

 彼女は昨日と同じテニスウェアを着ている。 着替えも用意せねば。

テニスウェア姿は好きだけど、衛生面的にね。

  

「――っっ!?」


 木実ちゃんがドロップを拾うたび。 スカートから縞々パンティーが見える。 俺があげた縞々パンティーだ。


 これが、早起きは三文の徳ってやつか!


 どこから敵が現れるか分からない。

俺は注意して、彼女がドロップを拾うのを見守る。

 そう、これは決して覗いているわけではない。


 彼女を見守っているのだ!


「あっ!」


 俺の視線に気づいた彼女は、慌てて手でスカートを押さえた。

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、それでも彼女はドロップ拾いを続ける。 隠すという行為が、よけいに色っぽいのであった。



◇◆◇



 万屋【猫の手】。


「いらっしゃい、人族。 本日は何をお求めですかな?」


 帽子を被った猫は、カウンターの向こうから声を掛けてくる。

 店内には俺たちだけ。 

 高校に帰る前に、もう一度来ている。

 葵とリサは猫が苦手なのか、俺の背中にかくれんぼ中だ。


「武器と食料」


「はい。 武器と食料ですね。 武器は何をお望みで?」


「槍系」


「ふむ。 ではこれはどうでしょう?」


 ゴトリと、カウンターに置かれた槍。

 長い。 骨矛は短かったけれど、置かれた槍は二メートルほど。


「どうぞ」


 俺は槍を手にとってみる。

 分厚い柄は長くずっしりと重い。 先には鋭い穂先。 装飾の類は一切なし。

 なんというか、変哲のない槍だ。


「うちで一番安い武器シリーズですね。 ノービススピア。 ノービスシリーズの一つで、大量生産された安価が売りの初心者用の武器です」


 お値段はこれほどと、猫が器用に肉球のついた手でソロバンを弾く。


「買った」


 安いは正義である。


「毎度、ありがとうございます。 お支払いは、魂魄で?」


 俺はカウンターの上に、昨日のドロップ品を転がす。


「ほう。 さっそく犬狩りですか。 色を付けて買い取らせて頂きますね?」


 査定はすぐに終わり、猫はコインを数枚革製のカルトンの上にのせてよこした。 コンビニなどにあるちゃちなキャッシュトレイではなく、味のあるカルトンだ。


「しめて百二十クレジットですね。 ノービススピアの五十クレジットを引いて、七十クレジットのお返しです」


 だいぶ高く買い取ってもらえた気がする。

よっぽど犬が嫌いなのか。

 コインが三枚。 『50』『10』と書かれているので分かりやすい。

 裏面には肉球の絵が描かれている。


「あとは食料ですね。 現在、こちらの店舗でお売りできるのが『ワイルドジャーキー』と『ママノエ』の二種類となっています。 クフフ、もっとたくさん商品を売っていただけると、取り扱う品物も増えていきますよ?」


 変な笑い声を上げる猫。

背中の二人がくっつく。  


「ワイルドジャーキーはなんとなくわかるんですが……。 ママノエってどんなのですか?」


 木実ちゃんは猫をあまり怖がっていないようだ。

 

「ママノエはこちらですね」


「きゃっ!?」


「っ!」


 カウンターに置かれた保存瓶。

中には虫が蠢いている。 

 木実ちゃんは悲鳴を上げた。


「こちらはですね、ママーミーに寄生する魔虫でして。 非常に栄養価の高い魔虫なのですよ。 魔界でも現在注目されている栄養食です」


「はうぅ……」


 見た目は最悪だが。

五センチほどの平べったいダンゴムシ。 色は色素の薄いエメラルド。

 黒だったら完全にアレだよ。

 

 ママーミーって魚頭だよな? 

あいつら、こんなのに寄生されているのか……。


「お試し価格。 この量でなんと、十クレジットですよ! 貴重なタンパク質。 運動の後にはぜひ、このママノエで栄養補給を!」


「ひうぅ……」


 木実ちゃんに力説する、楽しそうな猫であった。



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