二十一話:トイレ

 【処女神の加護】

 獲得条件:処女神の気まぐれ。 (おいおい、お漏らし嘔吐でお姫様抱っことか、最高だね!)

 特殊効果:固有スキル獲得。 夫以外の者から貞操を守護する【甘美なる稲妻】自動発動。



「……」


 私はその説明文の上半分を見なかったことにした。


 どうやら私が得た固有スキルは称号のおかげらしい。

 【聖水】ってなんだろう?


「ふぇ!?」


「どうしたの? 木実」


「んっ、んん゛……。 ちょっとトイレに行きたくて……」


「……そっか。 そこでする?」


「しないよぉ!?」


「だよね」


 困った。 急にオシッコに行きたくなってしまった。

 教室で漏らしてしまってからずっと行ってなかった。

 あぁ、私、教室で……。


「ん、少し待ってて。 三階のトイレまで見てくるから」


「はい、ありがとうございます」


「先生も行きます!」


 九条先輩とカオリンが下の様子を見に行った。


「ん……」


 そんな二人を見つめる葵もそわそわしてる。

 

「う〜ん? 葵、そこですれば?」


「しない。 リサと違う」


「なにぉーー!」


「ちょ、ダメっ、――やぁっ……」


 相変わらず二人は仲がいいね。

 でもお腹掴むのはやめてあげてね、出ちゃうよ?


「大丈夫。 魚頭はいない」


 戻ってきた九条さん。


「先生はどうしたんですか?」


「教室の方に行ったよ。 まだ危ないかもしれないって、言ったんだけどね?」


「そう、ですか」


 先生は自分を責めていた。

 教室に残るように言ってしまったこと。

 自分だけ逃げたように助かってしまったこと。


「行こ?」


「うん」


 トイレは階段を降りてすぐの場所にある。

 女子トイレの扉を開いて中に入る。

 私は急いでショーツを脱ごうとした。


「えっ!?」


 脱げない。

 不思議な力で脱げない。

 鬼頭君に貰った縞々パンツが脱げないーー!?


「やっ、……もう、出ちゃ……ぅ!」


 我慢の限界。


「――――!」

 

 なんで脱げないの……。


 私はまた、下着を濡らしてしまった。

 鬼頭君、もう一枚持ってるかな?



◇◆◇



「む?」


 何か聞こえたような?


「はぁはぁ……。 これ以上は、治らないみたいです……」


 大粒の汗を流す服部慎之介。

 反町さんを手当していたのだが、完治とはいかないようだ。


「ふぅぅ……あれれ……」


 体力の消耗。

 スキルも無限に使えるわけではないのか。

 ふらふらする服部は隣のベッドに横になってしまった。


「九条さん……むにゃむにゃ……」


 寝言。

 使いすぎると寝ちゃうのか?

 怖いな。


「……」


 俺も腹が減ってめまいがする。

 血を失った影響と、自然治癒の代償かな。

 肉。 肉汁たっぷりのステーキが食べたい。


「先生ぇ……た、助けてくださっっ!?」


 血みどろの生徒が入ってきた。

 今、魔女は保健室にいない。

多少の応急処置ならできるぞ、俺は!


「ひぇええええええええ!!」


 カチャカチャと、医療器具を取り出していると。

 血みどろの生徒は逃げ出していった。

 どうやら俺に保健医は無理らしい。 白衣でも着ようか?


「うぇえ……先生っ――ぴえええええ!?」


「……」


 怪我人も叫んで逃げる。

 あぁ。 腹が減ってイライラしてるからかな。

 いつもより少し顔が怖いかもしれない。


 俺は保健室を出た。

ドアの入口に不在の表札を掛けて。



「……ひどいな」


 校庭の様子を見に来た。

 ブルーシートの上に寝かされる生徒たち。

あるいはブルーシートを掛けられる者たち。



 校庭の中央にはピラミッドのように積み上げられた机と椅子。

 不気味な祭壇。

 机を並べ歪な木像が飾れたそこには、血の痕が残っている。


 奴らは一体なにがしたかったのか?


グルル、グウルルルゥ〜〜。


「……腹減った」


 忙しく働いている保健室の魔女。

手伝おうかとも思ったけど、俺が行っても逆効果になりそうだしな。

 大人しく弁当でも食べるか。

 

 しかしこんな状況を前にしても食欲があるって、俺、おかしくないか?

 スプラッター映画を見ながら食事のできるタイプでは無かったはずだけど。

 

「……」


 俺はゆっくりと校舎に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る