二十話:僕、食べられちゃうんですか?

「不思議ね?」


 そう言って、保険の先生は離れた。

 何故か俺の玉を一撫でしていったけど、……不思議だ。


「脱げないと、トイレもできないんじゃない?」


「!」


 たしかに。

 どうすんのこれ!?


「「あっ」」


 脱げた。

 『装備解除』そう念じたら。 

 俺は一瞬で全裸になっていた。 


「もう、いけない子ね♥」


 元の服はどこに!?

 俺は急いで『装備っ、装備!!』と念じた。


>>>SR【バトラータキシード】を装着しますか?


 なんで着るときだけ認証式なんだよっ。

 脱ぐ時もそうしてくれよ!


 俺は再度タキシードを装着した。

着た時と同じく光に包まれるように。


「凄いわ。 マジック? どうやってるのかしら……??」


 下着に白衣をきた保健室の魔女が興味津々だ。

上から下までなめ回すように俺を見ている。 


「ねっ。 もう一度、ヤッてみせて……?」


 かがんだ状態で、上目遣いに言ってくる魔女。

 いやいや、この状態で解除したらマズいですよね!?

 と、廊下を走ってくる音が聞こえた。


「葛西先生! 来てくださいっ、怪我人がいるんですっぅう――!?」


 俺と先生を見て固まった生徒。

 入口の方からは下着姿の先生が俺の股間に顔をうずめているように見えなくもない。 これはイカン。 またあらぬ誤解が増えそうだぞ!?


「はーい、すぐに行くわね。 どこに行けばいいかしら?」


「あ、ああ、校庭と、卓球場のほうにも……」


「わかったわ」


 俺の顔を見て逃げるように去っていった生徒。

 

「うふふ、マジックはまた後にでも見せてちょうだい。 そうね、今日の夜にでもどうかしら?」


 そう言って、片目ウインクする魔女。


 あっ、この先生、ガチでダメな奴だ。

 保健室の魔女、葛西先生はちゃんと服を着てすぐに出て行った。 

 俺は反町さんを残して保健室を出る。 【手当】を使っていたあいつを連れてこよう。


 あのバケモノを倒したおかげか、魚頭たちは撤退したようだ。

 校内に魚頭の姿は無く、僅かに生徒や教師が動いて現状を確認している。 


「ううっ、どうしてこんな、惨いことを……」


「うえぇぇ……」


 第一波は相当の数の魚頭がなだれ込んだ。

 逃げ遅れた、三階の被害が特に酷い。 まぁどこの階も相当な被害なんだが。 

 人的被害の割には破壊された場所は少ない。

 窓ガラスぐらいで、ドアや壁などはほとんど破壊されていない。

魚頭は爪の攻撃力だけはあった気がしたけど。


「?」


 三階の東と西を繋ぐ通路。 

棘つきの骨矛が刺さった床が直っている。

 いや、直りかけている。


(なんだこれ……)

 

 ジクジクと。 細かな粒子が集まり、ゆっくりと元の形に戻ろうとしている。 

 それを見てふと思ったのがスキル。 スキル一覧にあった、自己再生だ。

 名称は違うかもしれない、自己修復とか。 けれど、更衣室のドアにあった爪の後も修復したように消えていた。


「……」


 まぁあんなバケモノが現れるし、壁が自己修復しても不思議ではない、のか? 


「鬼頭君!」


 おお! 我が天使よ、無事でしたか。

 視聴覚室へと着くと、一目惚れしてしまいそうな笑顔で近づいてくる、木実ちゃん。

 あぁ、困る。 そんな笑顔は俺以外の前ではダメぞ、こいつぅ!


「お帰りなさい……!」


 ぐうかわ。

 今にも俺に抱き着こうとしていたに違いない木実ちゃん。 胸の前で手を合わせ、上目遣いで『お帰りなさい』だと……?   

 どうか、結婚してくれないだろうか?


「お帰り、無事で良かった! えっと……反町さんは?」


 あざとい系男子も無事か。

 木実ちゃんに変な事してないだろうな?


「……保健室」


「――無事なんですね!? 良かった!!」


 無事と言っていいか分からないけど。

 救急車が早く来てくれないと危ないと思うし。

 あぁ、そうだ。 こいつに【手当】してもらわないと。


「……こい」


「はひっ!?」


 俺はチョイチョイと指で付いてくるように指示を出す。

 竹刀を持っている女生徒に守りを頼むとジェスチャーすると、サムズアップしてくれた。 なんと有能な人材かっ!


「「……」」


 保健室へと向かう。

 あれれ? なんか凄い震えて、青い顔してるけど。

 どうした?


「ぼ、僕、……食べられちゃうんですか?」


「」


 何故?

 俺にそっちの気はないぞ!

 もちろん、食人鬼でもないぞ!!


「ごめんなさいぃ! ほんとに、わざとじゃないんですぅーー!!」


 よくわからんが、無視でいいや。

どうせ友人Bあたりにからかわれているのだろう。

 マジでアイツ、後で一回お仕置きしよう。



◇◆◇



 鬼頭君。 

無事で良かった……。

 私はまた、行ってしまった彼を見送る事しかできない。


「なんで鬼頭……タキシードだったんだ?」


「タキシードオーガ」


「校則違反……」


 二人でどこに行ったんだろう?


「保健室。 たぶん服部に、反町さんを治療させに連れて行ったんだろうね」


「服部君に?」


「うん。 ……手当が使えるから。 メニューはもう開いた?」


「「「?」」」


 カッコいい女性、九条さんの言葉に私たちはキョトンとした。

 メニューってなんだろう?

 

 あっ。


「うわっ!?」


「……!」


 皆にも出たんだ。

驚いて空中を見つめている。

きっと私と同じように、不思議な画面が見えているんだ。


++++++++++++++++++

 メニュー


 雪代 木実


★魂魄

 魂魄ランク:ノーマル

 保有魂魄:0ポイント

★スキル

 スキル購入

 スキル:【】

 固有スキル:【聖水】

★魔法

 魔法購入

 魔法:【】

★マップ

『千棘のマーマンロード支配地域』

★称号 

【処女神の加護】


+++++++++++++++++


 ゲームのような画面。

 スキルに魔法……。 これで私も戦えるようになるの?


「……スキルを手に入れるには、奴らを倒さないといけない」


「う……」


「ムリ……」


 そうなんだ……。

 あの魚の怪物はまだいるのかな?

 

「……っ」


 教室の出来事を思い出すと、体が震える。 お腹が痛くなってくる。 足に力が入らなくなる。


「木実……」 


 それでも。

 震えて待っているのは嫌だから。 


「……私、――戦うよ!」


 

 大切な人を心配して、震えて待つのは嫌だから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る