十八話:金髪の青年

 魚頭のバケモノが消えていく。


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「お」


 後には緑色の石を残した。

 翡翠ではなさそう、なんか怪しい雰囲気が漂っている。


「ふぅっ……ふぅっ……」


 反町さんが危険だ。

 呼吸は荒く、腕は折れて骨が見えているし、頭から血も出ている。

 一刻も早く病院へ連れていくべき。


(この近くだと……歯医者か動物病院しかないな……)


 動物病院ならなんとかなるだろうか?

 救急車は無理だろうしなぁ。


「助かったぞ……ありがとう、鬼頭……」

 

「……」


 とりあえず保健室に連れていくか。

 百キロはありそうな巨漢を背負い、俺は保健室を目指す。


 保健室は一階ですぐそこ。

 あの男子生徒を呼んで、手当をしてもらうのもアリかな。

 木実ちゃんたちは無事だろうか?



◇◆◇



「鬼頭君……」


「オーガ、心配?」


「怪我してたよね? 無理してるんじゃないかなって……」


「傷塞がってたよ」


 さすがオーガ! ってそれは鬼頭君に失礼だよ、葵ちゃん……。


「鬼頭に変な事されなかった、木実?」


「されないよ」


 脱げって言われた時はびっくりしたけど、着替えろってことだった。

体操着も貸してくれたし、下着も……。

 なんで持ってたのかな? 

不思議だけど気にしたらダメだよね。


「雪代さん……先生には言いずらいことでも相談して大丈夫よ?」


 カオリン、新垣先生は特に鬼頭君が苦手みたい。

 他の男子生徒は平気そうだけど、鬼頭君と目が合うとすぐにそらしていた。


「大丈夫です。 ……鬼頭君、優しいですよ?」


「えー?」

 

 ミサも鬼頭君が苦手みたいだ。 女子供でも容赦しないとか、絶対人殺してるとか、根も葉もない噂を信じちゃってる。 噂は当てにならないのにね。


「わっ」


「……」


 戦いの音。


 魚の頭をした変な生き物。

 田中君が殺されてしまって、あの瞳が私を見つめていた。

 無機質な瞳の奥に見えた欲望。 

 あいつは人を、――私を。


「屋上の方……」


 閉じられらたドアの向こうで、鬼頭君が戦っている。

 私との約束の為に?

 わ、わたしのおっぱいの為に??


「……」


 違うよね。

 きっと約束がなくても、鬼頭君は戦ってくれたと思う。


『……護る』 

 そう言ってくれた彼の背中は頼もしくて。 

 前に助けてもらった時と一緒だった。



 高校の合格発表の日。

 受かったことが嬉しくて、近くの公園で両親に合格したことを伝えていた私は、不合格だった子に襲われてしまった。


 私も悪かったんだ。 嬉しくって、落ちてしまった子のことを考えていなかったから。 襲ってきた子は私を怒鳴りつける。 凄い剣幕だった。 私は縮こまってカバンを必死に抱きしめていた。


「――ぷゲラッ!?」


 颯爽と現れた金髪の青年。

 猫の首根っこを掴むように、怒鳴りつけていた子を運んで去っていく。


「……あっ」


 私はその後ろ姿をぼうっと見ていた。 助けてくれたお礼も言えずに。 


「あっ」


 入学して一緒のクラスになって、私はすぐにわかったよ。

 鬼頭君は覚えてないみたいだったけど。

 いつかお礼を言いたいなって。 でも挨拶ぐらいしかできなくて……。


 

コンコン。


「!」


 鬼頭君!?


「あっ、木実!」


 私は鍵を開けた。

 ドアを開けて彼を迎え入れるために!


「みんな! もう大丈夫だよっ――わぷ!?」


「ふぇ!?」


 私のおっぱいに飛び込んできた。

両手が私の胸を鷲掴み押し上げる。

 まさかっ、こんなみんなの前で約束を!?


 と、勢いよく飛び込んできたのは鬼頭君じゃなかった。


「ご、ごご、ごめんさない!」


 鬼頭君には似ても似つかない男の子と、冷たい視線を向けるカッコいい女性だった。


 

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