十七話:赤玉

 反町さん……か。


『野球部に、入らないか?』


 部活に誘ってくれたのはあの人だけだったな。

 まぁ、入らなかったけど。

 家が学校まで離れているのもあった、それに迷惑をかけると思う。

 暴行事件とか……。



「……む?」


「手当です。 少し血が出てますよ?」


 男子生徒の手が俺の少しケガをした腕を包む。

 暖かい。 淡い暖かな光が僅かに輝く。


「はい、治りました!」


 上目遣いで微笑む男子生徒。

 大きな瞳にゆるふわな髪、えくぼがキュートな可愛い系男子。

 これがあざといというやつか!


「え? んん??」


 俺はその男子生徒に視聴覚室の守りを頼む。


 反町さんを助けにいくつもりだ。

 先ほどの咆哮の正体。 

かなり危険そうな奴のようだし、協力して倒せればいい。


 しかし、俺のジェスチャーは伝わらない。


「……あそこを守れってこと?」


「……そう」


 背の高い美人さん。 

 僅かに警戒しているようだが、俺の伝えたいことを理解してくれるとは、グッジョブ。


 俺は逆の入口。 二人が屋上に入ってきた方へ歩き出す。


「一人で……? 僕も行くよっ!!」


「……邪魔」


 一蹴する。

 魂の抜けたように呆ける男子生徒。

 女子生徒を守って戦っていた度胸は認めるが、正直、役に立ちそうに思えない。 

 一緒に来るより視聴覚室の防衛を頼みたい。



++++++++++++++++++++++++++

 メニュー


 鬼頭 神駆


★魂魄

 魂魄ランク:ノーマル

 保有魂魄:41ポイント

★スキル

 スキル購入

 スキル:【自然治癒力強化Lv.1】

 固有スキル:【ガチャLv.1】

★魔法

 魔法購入

 魔法:【】

★マップ

『千棘のマーマンロード支配地域』

★称号 

【*****の発見者】【ママーミーの天敵】


+++++++++++++++++++++++++++


 

 移動しながらメニューを確認。

 なんか称号増えてる。


【ママーミーの天敵】


獲得条件:短時間内に大量のママーミーを討伐。

特殊効果:魚系に対し追加ダメージ。


【*****の発見者】


獲得条件:???

特殊効果:固有スキル獲得。


 

 タップすると情報が表示された。


「……」


【*****の発見者】はブラックアウトする前に見えたナニカのことかな? 今では、霧がかかったように思い出せない。 まるで思いだせば俺の心が壊れてしまうのを防ぐように。 そんな不思議な感覚がある。


 魂魄ポイントは41。

【槍術Lv.1】【身体強化Lv.1】を10ポイントずつで購入。

残りは21ポイント。 他に使えそうな物はないか。 一覧を片っ端から見ていて、一つ気になったことがある。


 【槍術】と同じような【斧術】や【盾術】の方が購入に必要なポイントが多い。 逆になぜか【忍術】のようなマニアックそうなスキルも、10ポイントで購入が可能だった。


 個人の才能? もしくは熟練度か。 ジェイソンの忍者特訓が活きているのか!?


「……ちっ」 


 なんとなく買うの嫌だけど、【忍術Lv.1】も購入。

祖父・ジェイソンの喜ぶ笑顔が目に浮かび、なんとなく嫌なんだが。


 残った10ポイントはガチャに回そう。


 屋上から三階。 三階から二階へと駆け足で移動しながら、ガチャを回す。


 現れるウインドウ。 

 筐体のレバーを下げる帽子を被った猫。

 コロコロと落ちてくるカプセルの色は赤。


「おお!」


 白ではない。 外れではない演出はわかると最高だね。


 どこからか光の羽が舞い散り、開かれた赤いカプセルから眩い光が発せられる。 過剰エフェクト! これはレアきたか!?


「うおおっ!?」


 ウィンドウから溢れる光が俺の体を包み込む。

まるで変身ものヒロインのように、キュィーンと体にフィットしていく。 やがて眩い光は収まり、俺は黒のタキシードを着ていた。


「……」


 なんでタキシード……!?


 しかもシンプルなやつではなく、乙女ゲームの執事が着そうな服、執事服っぽいタキシードだ。 チャラついたチェーンもついてる。

 オーダーメイドのように、背が高く肩幅も広く筋肉質な俺にぴったりと、それでいて動きを阻害しない柔軟さを持っている。 

 なんと質の良いタキシードだろうか! ってそうじゃないよ。 もっと強力そうな武器プリーズ!!


――バァアン!!


「!?」


 凄い音が。

 中庭の窓ガラスが揺れてる。

俺は二階の東と西をつなぐ廊下を進む。


「!」


 そこから下を見下ろすと、反町さんがピンチだった。


 窓ガラスに打ち付けられ、腕はへし折れても敵を睨みつける反町さん。

そんなあの人に止めを刺そうと敵が歩み寄っていた。


(なんだアレ……)


 棘つきよりもさらに棘が多く、スラっと背が高い。

 両肘の太い棘は強力そうだ。

 得体の知れない恐怖。 体の芯から震えがくる。


「バケモノが……」


 そう、バケモノ。

反町の呟きのように、明らかな規格外バケモノ


 そのバケモノを前にしても反町さんは睨みつけていた。

自身の最期を確信してもなお、睨みつけその口角を上げる反町さん。

 バケモノはその姿を無機質な瞳で見つめながら近づいている。


「……」


 俺は気づけば飛び降りていた。

二階程度の高さ、飛び降りても問題ない。

 狙うのはバケモノ。

 その脳天。


「千枚兜通し」 


 落下の勢いと骨矛を回転させた貫通力、それに腕力と背筋力を乗せた突き技。 ジェイソン直伝の忍術技を繰り出した瞬間、骨矛の先が怪しく光りを放った気がした。


「キオッッ……!?」


 脳天を穿つ。


 決まった!?

 反町さんに気を取られていたおかげか、必殺の一撃がバケモノに決まった。 頭蓋骨を粉砕し青緑色の液体と脳漿をぶちまける。

 俺は反町さんの目の前に降り立った。


「なに……?」


 驚きの表情を見せる反町さん。

 腕、大丈夫か!?

 骨が見えちゃってますけど……。


「死神……いや、鬼頭か……?」


「……」


 死神って……酷くない!?

 心配して損したっ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る