十六話:死神

 先手は反町。


「――ふッツ!!」


 フルスイング。

 得物は違うがバットスイングのように横薙ぎに振るう一撃。

 反町が購入したスキルは【身体強化Lv.1】【棍棒術Lv.1】【自然治癒力強化Lv.1】の三つ。 

 

 強化された身体能力は元々柔軟である反町の性能をいかんなく発揮し、踏み込み下半身から生まれたエネルギーを上半身、特に腰を中心として支柱を振り回す回転エネルギーとして生まれ変わる。

 もしこれでボールを打ったのなら、軽く場外ホームランになるだろうナイススイングだ。


 しかし。


「なっ!?」


 反町のスイングに対して異形の魚頭は拳を振るう。

 衝撃に後方へと吹き飛ばされたのは反町。

 段差を転がり掲示板のある少し開けた場所へと体を滑らせた。

 

「痛っ……」


 手の痺れ、手首の痛み。

 反町は知らないが、【棍棒術】がなければ支柱は破壊され手首も痛みでは済まなかっただろう。 僅かなスキルの特性により致命傷を免れている。


「くっ……」


 反町は異形の魚頭を睨みつけるが、相手の瞳は変わらない。

 学校内へと二人を追った魚頭たち。

反町は二人を逃がすための時間を稼ぐ。

 裂帛の咆哮が、中庭側のガラス張りの壁を震わす。


「こいやっ、おらぁああああああああ!!」


 虚勢かもしれない。

 しかしその咆哮は、異形の魚頭を足止めすることに成功させる。


「コァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「っ!!」


 猛攻。

 棘つきの両腕。

 鋭い爪が左右から反町を襲う。

支柱で防ぐたび、反町の巨体がブレた。

 

 異形の魚頭の放つ重圧に耐えられる者が、現状でどれだけいるだろうか? 


 反町は目を離さない。

 傷を負い、捌ききれない攻撃に痛みを我慢して、その眼光はチャンスを狙っている。


 虎視眈々と威圧を放つ。


「! ――っらあああああああ!!」


 偶然か、または【棍棒術】の影響か。

 爪による攻撃をうまくいなし、大きく相手の体勢を崩させる。


 風切り音を上げ、バドミントンの支柱を下から上に打ち上げた。


――ガキィン!


 異形の魚頭は防ぐではなく、支柱を迎え撃つ。

その肘にある太い棘が硬い物を打ち付け合う音をだし、もう片方の肘は反町を襲う。


「ぐぅあああああああああ!?」


 反町の右腕が明後日の方向を向く。

 折れた。

 武器を落とす反町はさらに蹴り飛ばされる。


 激しく背を中庭側の壁に打ち付け。 割れるガラス面。 後頭部からの出血。 気を失いそうになりながらも反町は睨みつける。


「バケモノが……」


 ゆっくりと自分に歩み寄る異形の魚頭バケモノ


「はっ……死神が笑ってやがる……」


 朦朧とする意識の中、反町の見た死神はたしかに笑っていた。 

 

 二階から飛び降りるタキシードを着た死神。 その手に持つ白い矛は異形の魚頭を狙いすましている。 


「千枚兜通し」


 鋭く回転させた矛。

 それは異形の魚頭の脳天を穿つ。


「キオッッ……!?」


 降り立った死神は容赦なく矛を突き刺す。


「なに……?」


 タキシードを着た死神。

それは反町ではなく、異形の魚頭に微笑んでいた。



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