十五話:叩き落とす
視聴覚室。
「木実っ!」
「ミサちゃん! 葵ちゃんも!」
抱き合う三人。
新垣先生はハブだけどいいのか?
また泣いちゃうぞ?
「お、鬼頭君!? 怪我してるの? 服が……」
学ランがボロボロ。
シャツも血だらけで、骨矛にやられたところは穴がひどい。
「治ってる……? ほんとにオーガ??」
チビ女――葵が服をペロリと捲る。
まだ腹は痛むし、傷も酷い痕だ。 普通に考えて塞がってるだけで異常だけど。
俺は机ランスを手に教室を出る。
「鬼頭君」
心配そうな表情をする木実ちゃん、いや、みんなか。
「……護る」
先ほどの咆哮に、学校全体に響く振動。
木実ちゃんの願い、『みんなを助けてほしい』を完遂するのは難しいだろう。 契約は失敗。 残念だけどしょうがない。
でも、俺は木実ちゃんを護る。 それは変わらない。
「甘……」
飴を一つ。 弁当をかっ食らいたい腹具合だけど、これから戦うのにそれは吐いちゃう。
俺は階段の上で奴らが来るのを待つ。
階段上からすべて叩き落とす。
ここなら棘つきが来ても、階段が邪魔で射線を取れない。
近づけば最優先で殺す。
「ふぅ……」
作戦とも呼べないが仕方ない。
せめてもしもの時の非常経路があればいいのだけど。
「ん?」
屋上。
何か音がした気がする。
西校舎四階は屋上と視聴覚室。
そういえば、反対側からも屋上へ行けるんだった……。
――ガリッッ。
俺はなめていた飴をかみ砕いた。
覗いた屋上には生徒が二人。 それに大量の魚頭たちが進入してきていた。
「くうっ!?」
「九条さん!!」
女子生徒が魚頭の爪を浴び倒れた。
庇うように棒を振り回し叫ぶ小柄な男子。
「うあああああああああ!!」
俺は机ランスを構え走る。
今にも魚頭たちは一斉に飛びかかろうとしている。
――間にあえッ!
「ぬぅああッ!!」
「キコ!?」
机ランスをフルスイング。
あっけにとられる男子の前に躍り出た俺は、魚頭たちを蹴散らす。
両手で持った机ランスを巧みに使い、蹴りを織り交ぜ、魚頭たちに悲鳴を上げさせる。
「キコッ!?」
吹き飛ばした先頭の魚頭は、大きく宙を舞う。
曇天の空の下。
俺は戦い続ける。
「!」
懲りずに突撃してくる魚頭の後方。
棘つきが見えた。
俺は机ランスを下から突き上げるように押し出し、魚頭たちの上に放り投げる。 俺の胸元も無い身長の奴らが長机を受け取ったところに、俺は疾駆した。
「コォ!?」
「ええっ!?」
勢いのまま全力で空を飛ぶ。
骨矛を大きく振りかぶる棘つき。
左手が空中の俺を狙い定め、右手に構える骨矛を射出する。
その顔は馬鹿な獲物を見るように、ニヤついていた。
空中じゃ躱せない?
はっ! なめんなよ!!
「――シッ!!」
叩き落とす。
両手を握り締め拳を振り下ろす。
高速で飛来する骨矛を、空中で斜め上から叩き落とす。
思い出すね、ジェイソンの特訓を!
扉を開ければ射出される弓矢。 目隠しされ投げつけられる熱湯入りヨーヨー風船。 踏み込んだ瞬間足元の床が跳ね上がったり……。
『神駆! それぐらい躱せねば、NINJAにはなれんぞ!!』
忍者フリークめっ!
「はぁっ!!」
「キコォオオオオ!?」
二投目は投げさせない。
回し蹴りを、棘つきに喰らわせる。
「お?」
地面に叩きつけられた棘つき。
黒い煙を上げながら消え、骨矛を残した。
今残るんだったら腹に穴が開いたときにお願いしたかったが……。
まぁ、少々短いが使わせてもらおう。
「はっ、はは!」
突く、突く、突き刺す。
無機質な瞳の魚頭たちを、ひたすら突き殺す。
うん。 机ランスより使いやすい。
「キコォ……」
「凄い……!」
三十体ほどか。
十分も掛からずに殲滅した。
「ふぅぅ……う?」
男子生徒が倒れた女性の胸に手をやりながら、こちらを見つめている。
なぜやつはこの状況で乳繰り合っているのだ? 可愛い顔をして肉食系なのか??
「……服部。 もう大丈夫だから……」
「あっ、うん……」
ラブコメ臭が。
女子生徒が立ち上がり、男子生徒が駆け寄ってくる。
この二人、女子の方が背が高く凛として、男子の方が背が低く可愛い顔立ちをしている。 あべこべカップルか?
「ありがとうございます! 助かりましたっ」
「……ありがと」
子犬のような笑顔を向けてきた。
俺を怖がっている様子はない。 まぁ状況がこんなだし、普通のバケモノがでたら俺なんてただの顔が怖い人だしな。 あれ、これ俺のリア充ライフ始まるんじゃないか?
「お願いします! 反町さんを助けてください!!」
「?」
俺の腕にしがみつく男子生徒は、必至な顔で懇願する。
「お願いします!!」
しまいには、屋上で土下座する男子生徒。
「……」
土下座暴力はやめてほしいね……。
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