八話:更衣室

 何かが移動している。


「ん?」


 階段の窓から見える景色。

学校の横を流れる幅十メートルほどの川。

その横のサイクリングロードを魚頭たちが移動していた。


(帰ったのか?)


 どこに?

そもそも奴らはどこから来たのか。 まぁ正体は一切不明なのだけど。

 向かっている先には池のある大きな公園。

そこが奴らのアジトなのだろうか。


コンコン。


「……」


 鍵の閉められた家庭科室。

ドアには魚頭がひっかいたような傷が出来ているが、壊れてはいない。


 ノックをしてみたが返事はない。 

 キーが無ければ鍵は中からじゃないと掛けられない。 どうやら居留守のようだ。 


(魚頭が鍵を閉めたりは……ないよな?)


 敵の知能がどの程度か、これまた不明だ。

 俺を無視してヘコヘコ腰を振っていたあたり、あまり良くないと思う。


「……四体」


 更衣室の前を四体の魚頭がうろついている。

俺はバックからキャスターを取り出す。 椅子やテーブルの下についている、コロコロ回って移動させるのに便利な部品だ。 


「ふっ!」


 投擲。

 足を上げ一歩踏み込む。

 背筋と肘の旋回から生み出されるエネルギーを効率的に指先へ。 

 放たれるキャスター。 揺れる魔球の如く、魚頭へと命中した。


「キィッ!?」

 

 魚部分の頭部に命中。

魚頭は吹き飛ばされるように倒れ、黒い煙となっていく。


>>魂魄獲得 1ポイント


 遠距離攻撃は有効。 

 それに遠距離からでも魂魄は獲得できるようだ。


「ふっ! ――あ」


「キコォオオオ!!」


 残念、二投目は外れた。

雄叫びを上げ急接近する魚頭。

 やっぱりちゃんとした投擲武器じゃないから精度が悪いな。



>>魂魄獲得 1ポイント

>>魂魄獲得 2ポイント

>>魂魄獲得 1ポイント


「む?」


 迫りくる魚頭を撃退する。

姿はほとんど一緒だったのに、一匹だけ魂魄を2ポイント貰えた。

 謎だ。


ガチャ、ガチャ。


 更衣室のドアにも鍵がかかっている。


コンコン。


「……」


 返事は無い。 やっぱりここも居留守か。

 

 更衣室、向かいの水道。

蛇口を捻ると水が出た。

 乾いた喉を潤す。 


「ふぅ……」


 疲労を感じる。

ちょっとだけ休憩しよう。

 机ランスを壁に立てかけ、手を握り離し繰り返す。

学ランが少し暑い。 けれど脱がないほうがいいかな。 できるだけ厚着しておきたい。


 カチャ。


「む?」


 休憩しながらも。辺りを警戒していると。

更衣室の鍵が開いた音がした。


「……鬼頭?」


 僅かに開いたドアから、二人の女子生徒がこちらを窺っている。

俺のことを知っているようだが。 


「ちょっと! 木実はどうしたの!?」


「ちっ……」


 勢いよく出てきた褐色肌の体育会系ガール――友人A。

短めのポニテにナイチチ。 たしか、陸上部の期待の新人だったか。 

 部活で鍛えられた声量。 そんな大声を出したら、奴らが来るぞ?


「あっ!」


 案の定、奴らの足音が聞こえてきた。 俺は邪魔な友人Aを更衣室に押し込む。


「……む?」


 声におびき寄せられた魚頭たち。

しかし、なんだか普通の奴と違うのが混ざってる。


「キコォ……」


 ソイツは無骨な骨の槍を持っている。 形状的には矛と言ったほうがいいか。

 体格も他の個体より大きく、肩幅が特に広い。 なんか棘みたいな骨が突き出しているし……。

 放つ存在感。 危険な敵だと、体が一つ震えた。


「キコォオオオオオオオ!!」


「くっ……」


 その個体の雄叫びに、他の魚頭たちが一斉に突撃してきた。


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