七話:邪魔

 視聴覚室の扉を開けると、赤い瞳が見えた。


「ふっ!」


「キコッ?」


 机ランスを突き出す。

二メートル近い長机の角が、魚頭の顔にめり込んだ。

そのまま階段を落ちて煙となっていく。


>>>魂魄獲得 1ポイント


 やっぱりこの通知音も気のせいではない。

 魂魄。 ゲームで言うところの経験値みたいなモノだろうか?


「ちっ……」


 物音を聞きつけた魚頭たちが階段を駆け上がってくる。

 近寄らせない。

この周辺の敵はすべて倒す。 木実ちゃんの安全は最優先だ。


「はっ! はあっ!!」


 机ランスは欠陥品だ。

無駄に重いせいですぐに腕に乳酸が溜まる。 つまり疲労の蓄積が凄いのだ。


 それでも階段上の位置から繰り出す、長武器は強力。

襲い掛かる魚頭たちを軒並み突き落としていく。


 連続する通知音。 煙を上げ消えていく魚頭。

 こいつら、弱い。 鋭い爪は危険だが、耐久力は最低だろう。

獲得する魂魄も一ポイントだけだし、雑魚なんだろうな。


 と、ゲーム感覚で殺戮していくと、登ってくる魚頭がいなくなった。


「大丈夫……、鬼頭君?」


「……出るな」


「わ、私も行くよ!」


「……邪魔」


 申し訳ないけど。

守りながら戦うのは難しい。 自衛のできない木実ちゃんを連れていくわけにはいかない。 


 俺の不躾な『邪魔』という言葉に、魂が抜けたように呆ける木実ちゃん。

 ごめん、口下手なんだよ!


「うぅ……気を付けてね?」


「……」


 もちろん。 慎重に行く予定だ。

『行ってくるよハニー。 そのおっぱいをしっかりと守っているんだぞ?』

 そんな妄想を込めた視線を木実ちゃんに向けると、彼女は両手を交差させて頬を赤らめた。


 俺は慎重に階段を下りていく。


「うっ……」


 そして最初に見てしまった光景に、思わず吐きそうになった。


(死体は消えないらしい……)


 魚頭の死体は消えたが、生徒たちの死体は残っている。

 無残に食い散らかされた死体。 いたぶったような形跡の残る死体。 残虐な遊びを施された死体。 俺は吐きそうになるのを必死でこらえた。


「ふぅ……」


 三階へと下り右手には扉の閉められた家庭科室。

左にはクラブなどで使う教室がいくつかある。

 そしてその左の教室から嫌な音が聞こえた。


「ああっ、いやっいや――助けてっ! ああ゛っああっ!!」


 覗いた教室。

 やっぱり。

 その予想通りの展開に嫌になる。


「んんっ、んっ、だめぇ、だしちゃ――」


 制服を引き裂かれた女子生徒。

 茶髪にギャルメイク。 拘束から抜け出そうと長い髪を振り乱すが叶わない。 魚頭五体に囲まれ床に寝かされ、暴行されている。 奴らの青い体色の下半身は人間の男のようにそそり立ち、腰を振るう同族の終わりを鑑賞しながら待っているようだ。


 俺は隙だらけの後ろからそっと近づくと、今も犯されている女子生徒と目が合った。

 口をパクパクさせ、今にも俺に助けを求めてしまいそうな、そんな表情を見せた。


「――助けてぇええええええ!!」


「っ!」


 忍び寄った意味が無くなった。

慌てて、机ランスを思いっきり近くの魚頭に突きつける。


「――ギッ!?」


「キゥ!」


「キキゥ!!」


「カァゥ!」


 一体撃破。

残りの三体が奇声をあげ襲い掛かってくる。

 もう一体は女子生徒相手に腰を振るのに夢中だ。


「ぬぅぅん!!」


「「キッ!?」」


 俺は突き出した机ランスを戻さず。

横薙ぎに振るう。 腰と背筋、それに腕力をもって、横にスイングする。  鋭い机スイングが魚頭二体を打ち飛ばす。 


「キカゥウウ!!」


 爪を振りかぶり激昂する魚頭。

奴らにも仲間意識のようなモノがあるのだろうか?


「らっ!」


 スイングした勢いを利用し、後ろ回し蹴りを喰らわせる。

強烈な一撃が魚頭の腹部を捉え、後方へと弾き飛ばした。


「……」


ブン。


 仲間が四体倒されても腰を振る魚頭に、机の角を落とす。

魚頭は果てたかのようにビクンと震えて、黒い煙と消えていった。


「うぇっ、うぅ……! 遅い、遅いよぉお!!」


 魚頭から解放された女子生徒は床にうつ伏せて、泣いていた。


 『みんなを助けてあげて』それには被害者のアフターケアも含まれているのだろうか? だとしたら契約破棄させてほしい。 


「……」


 なんと声を掛ければいいのか……。

まったく分からない俺は、カーテンを外して女子生徒に掛けて逃げるのだった。


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