五話:ガチャ
屋上へ向かう。
(いや、敵が地上だけとは限らないか?)
東校舎四階には屋上と教室が一つある。
視聴覚室。
大きなスクリーンにプロジェクターを使って特別授業をしたりする場所だ。
屋上で救助を待つ案はやめよう。 俺は木実ちゃんを抱きかかえたまま視聴覚室に入り鍵を閉めた。
木実ちゃんを抱きかかえたまま……?
「……」
そうだった。
先ほどから俺は天使を抱きかかえているのだ。 なんということでしょう。 この柔らかさも、甘い良い匂いもすべて我が天使のものだったのか。
ちょっとだけ、すえた臭いとアンモニア臭もするが、木実ちゃんの物だと思えばそれすらも受け入れられるような気がする。
俺はド変態かっ!?
「ん……あの、鬼頭君。 ありがとう……」
「……脱げ」
「ふぇっ!?」
うん。 これはダメだ。
木実ちゃんを長机の上にちょこんと乗せた。
涙目で顔を赤らめる木実ちゃん。 お礼を言ってきた木実ちゃん。 脱げと言う俺っ!
「あぅぅ……」
木実ちゃんはその巨乳の前で両手を交差させ、視線を左右に泳がせている。 凄い困ってるいるのが一目で丸わかりだよ。
違うんです。 下着とか濡れたままだし、上着も嘔吐でちょっと汚れちゃってるし。 着替えたほうがいいよ、って言おうと思ったんですよ!
俺のバッグしか持ってこなかったから、体操着ぐらいしかないけど。 洗ったばっかりだから汗臭くないよ!
「え、エッチなこと……するの?」
「は?」
いまなんと?
我が天使は今なんとおっしゃったのだ?
その可愛らしい唇は不思議な動きをしていた。 読唇術がうまくできないぞ。
「ダメ……だよぉ……」
さらに腕を体に押し付ける。 膨らみが強調され俺の視線が釘付けに。
「うぅ……葵ちゃんの言う通り、鬼頭君は野獣さんなんだね……私もう食べられちゃうんだぁ……」
男はみんな野獣だけど、俺は違うよ!!
誰だ、天使に変なことを吹き込んだのは……。 葵、たしかいつも一緒にいる背の低い小学生みたいな友人Bがそんな名前だったか。 眠たげな眼でぼうっとしているイメージ。 俺を野獣扱いするとは……きっとむっつり変態に違いない。 淫乱ロリに毒されちゃだめだ、木実ちゃん!
「……脱げ」
「はぃ……」
観念した様子の木実ちゃんがブラウスに手を掛ける。
俺はバッグから体操着とタオルを取り出し、近くの机にそっと置くとドアの方へと移動した。 野獣ではないが、生着替えなんてみたら正直我慢できるわけないし。 健全な男子高校生で童貞だもの。
「……」
しかし、あの魚頭はなんだったんだ?
冷静に考えると異様すぎる。 頭を踏み潰したら煙になって消えてたし。
(それに、あの通知音……)
目覚めた時と、魚頭を倒した時に頭の中で静かに響いた。
(ガチャと……魂魄ポイント? なんだかよく分からないが、確かに聞こえた)
ガチャは禁断症状だろう。 たまに夢の中でもガチャしてるし。 あぁ、そろそろ無料ガチャの時間だ。 でもスマホ使えないし、どうしよう?
「え?」
なんだこれ?
ガチャがしたい。 そう思ったら、いや、念じたらか? 目の前にウィンドウが現れた。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
ガチャ(レベル1)
★ノーマルガチャ
★リミテッドガチャ(ガチャレベル3解放)
★スキルガチャ(ガチャレベル5解放)
※ノーマルガチャ 一回 10魂魄
リミテッドガチャ 一回 100魂魄
スキルガチャ 一回 1000魂魄
一日一回、ノーマルガチャ無料
++++++++++++++++++++++++++++++++++
どこのソシャゲだよ。
そう思いつつも、俺は試しに空中をタップする。
ウィンドウのノーマルガチャの部分だ。 得体の知れない恐怖よりも、何が起こるのか? その好奇心が俺の指をつき動かす。
「おぉ……」
それは見慣れた光景だった。
俺が最近よくやっているスマホゲーム。
そのガチャの演出によく似た光景がウィンドウに描かれる。
帽子を被った猫が手招きするかのように筐体のレバーを下げると、白のカプセルがコロコロと落ちてくる。
「ゴミ……」
ハズレだ。
演出の途中で当たり外れが分かるのはどうかと思う。
「うお!?」
画面のカプセルが開けられると同時。
目の前に物が現れた!
俺はびっくりしながらも、反射的にそれを取ってしまった。
「ど、どうしたの? 鬼頭く……ん??」
パンティだ。
白と青のシマシマおぱんてぃ。
俺が握りしめるそれに、木実ちゃんが絶句する。
「……はけ」
「う、うん……」
これは邪神の罠だ。
俺は邪神に弄ばれているに違いない。
俺の体操着を着ている木実ちゃん。
長袖の上着だけでお尻までカバーできている。
見える白い太もも。 渡されたシマシマのパンツを素直に装着している。
ということは、さっきまでノーパンで体操着を着ていたのか……。
濡れた下着は気持ち悪いから、仕方ないよね!
木実ちゃんに限ってそんな趣味があるはずがない。
「ありがとう、鬼頭君。 でも、なんで女物なんて……」
「……」
俺の趣味ではないですよ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます