六、正体がばれてしまい……

 それからというもの、おこん佐助さすけが仕事に行っている間に、絵の姿から女に化けて家事をするようになっていた。

 そして、佐助が帰って来る前に絵に戻る、という日々を繰り返していた。


(ふふ……すっかりこの暮らしにも慣れてきたわ)


 お紺はそう思いながら、洗濯物を畳んでいた。



 一方、佐助は仕事を終えて家に帰って来ると、家の中が綺麗に掃除されていて、ご飯の仕度が出来ていることを不思議に思っていた。それも毎日である。


(いったいどういう事だろう? まさか村の娘の誰かが、やってくれているのだろうか?)


 次の日、気になった佐助は仕事に行くふりをして家を出ると、すぐに戻って家の様子を見ることにした。


(さて……誰もいないな)


 辺りの様子を伺うと、そろりと戸を開けた。


(よし、入るぞ……)


 足音を立てないように慎重に歩き、奥の部屋へと向かった。そして、こっそり覗く。


(……ん?あれは……)


 そこには一人の美しい女の人がいて、家の中を掃除したり、料理を作っていた。驚いた佐助は、思わず声をかけてしまう。


「あの、あなたは一体誰なんですか?」


(しまった!見つかった!!)


 お紺は焦った。人間の女に化けていたところを見られたのだから、すぐに化け直せば良かったのだが、驚いて咄嵯とっさに動けなかった。


(ど、どうしよう……)


 お紺は動揺した。

 だが、いつまでも黙っているわけにもいかない。何か言おうと口を開こうとした時、佐助が先に口を開いた。


「耳……」


「え……?」


 佐助の言葉に、お紺は思わず自分の耳に触れた。そして気づく。キツネ耳が出てしまっていることに……。おそらく、驚いた拍子に出てしまったのだろう。


「あぁっ!!」


 お紺は慌てて耳を引っ込める。


「あなたは……もしかして……」


 お紺は観念して、正体を明かすことにした。


「あんたの思う通り、あたしはキツネさ……。絵に化けてたんだよ……。今まで騙してて悪かったね……」


 お紺はバツの悪そうな表情を浮かべた。

 だが、そんなお紺とは対照的に、佐助は嬉しそうだ。そして、お紺のほうへ歩み寄ると、彼女の手を両手で包み込むようにして握った。

 お紺は突然の出来事に驚いた。


「ありがとうございます!僕のためにここまでしてくれて……」


「いや……別に大したことじゃないよ……」


 お紺は照れ臭くなってうつむいてしまった。


「そんなことはありませんよ!本当に感謝しています」


 佐助は笑顔で言った。その様子からは、心から喜んでいるのだと伝わってくる。


「あなたのおかげで、僕は幸せです」


 佐助はそう言って微笑むと、お紺に抱きついた。


「ちょっ……ちょっと!?」


 お紺は慌てるが、振りほどけなかった。


「ずっと一緒にいてください」


「……わかったよ」


 お紺は少しだけ頬を赤らめて答えた。

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