五、お節介と不思議な気持ち

「ふぅ……。これくらいでいいかね」


 おこんは額の汗を拭き、一休みした。


「さあ、次は食事の準備だね」


 お紺は台所に立つと、料理を作り始めた。


「まったく……いつも適当なものしか食べていないんだろうね」


 お紺はぶつくさ言いながら、手際よく調理していく。お紺から見た佐助さすけは、不健康そうで、あまり生活に余裕がなさそうに見えたのだ。

 しばらくすると、美味しそうな匂いが漂ってきた。その香りに誘われたかのように、玄関が開く音が聞こえた。


(……いけない!早く戻らないと!)


 お紺は急いで絵に化けると、何事もなかったように元の場所に戻った。

 帰って来た佐助は、部屋に入るなり目を丸くした。


「なんだ?まるで、誰か来たみたいだ……」


 散らかっていた部屋が綺麗に片づいており、食事まで用意してある。


「どういうことだ?まさか幽霊でも出たんじゃ……」


 佐助は恐る恐る卓袱台ちゃぶだいに近づくと、畳に腰を下ろした。


「まぁ、いいか……いただきます……」


 箸を手に取り、食事を口に運ぶ。


「うまい……」


 久しぶりにまともなものを食べたため、自然と涙が出てきた。


「……ごちそうさまでした」


 佐助は手を合わせると、絵の方を向いた。お紺はドキリとしたが、平静を装った。


「……お前は、いつ見てもきれいだな。今日な、誰がやったかは知らないが、家の中が綺麗に掃除されていて、おまけにうまい晩飯が用意されていたんだ」


 佐助は嬉しそうに続ける。


「綺麗な家でうまい晩飯を食べると、まるでお前と夫婦になった様な気分だ。こんな事が、毎日続くといいな」


 そう言うと、佐助は満足そうに眠りについた。

 お紺は嬉しいやら恥ずかしいやらで、複雑な気持ちになっていた。

 これまで、お紺はいたずらばかりしていたため、誰かに褒められるようなことはほとんど無かった。そのため、こうして優しくされると、どうしたら良いかわからなくなってしまう。


(まったく……調子狂っちゃうね)


 絵から女に化けたお紺は苦笑した。だが、悪い気はしなかった。

 むしろ、佐助の「夫婦になったような気分」という言葉を受けて、急に意識し始めてしまった。


(えっ……?あたしってば何を考えて……)


 お紺は顔を赤くした。


(いやいや、夫婦だなんて……)


 そう思っても、佐助の笑った顔や優しい言葉を思い出すと、胸がドキドキしてしまう。


(うぅ……なんて男だい……)


 お紺は悶々もんもんとしながら夜を過ごしたのであった。

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