後日談① 妹たちの休日
ピンポーン
晩秋の休日、朝から玄関のチャイムが鳴った。
将人と香里さんは朝からお出かけ中。
俺はキッチンで朝食の準備中だった。
「
「はいはーい」
外から元気な声が聞こえてきた!
「木幡こころ! ごさいです!」
この声は
「ど、どうしたの? こんな時間に?」
「遊びにきたの!」
「一人で来たの?」
「ううん! 二人できた!」
「二人?」
「小鳥おねーちゃんときた! 小鳥おねーちゃん恥ずかしいからって今隠れてる!」
玄関から聞こえてくる声に、フライパンを回していた手がピタッと止まってしまった。
※※※
「と、とりあえずご飯食べてく? 朝ごはんまだでしょ?」
「食べる!」
「食べます!」
小鳥ちゃんが膝元にこころちゃんを乗っけてソファーに座っている。
どうせ俺と
「食パン焼く? そのまま食べる?」
「
「こんなの誰でもできるから!」
お、俺は少し小鳥ちゃんに苦手意識がついていた!
というのも、小鳥ちゃんが俺のことを意識しているというのが伝わってくるからだ!
俺のやることなすことなんでも凄い凄いとおだててくる!
「小鳥おねーちゃんがね、どうしても
「こころ!」
こころちゃんに暴露される小鳥ちゃん。
小鳥ちゃんがこころちゃんのほっぺを引っ張っていた。
そのやり取りがとても微笑ましいのだが、こちらとしては更にやりづらい……。
「今日は
「まいてきた!」
「まく?」
「牛乳大丈夫だよね?」
「大好き!」
「それでまくって?」
「多分、今頃迷ってると思う!」
あぁー、まくって撒くってことか。
最近の五歳児ってそんな言葉知ってるんだ。
そ、それにしてもあいつ小学生と五歳のコンビに撒かれるとは……。
「
「へ、へぇ~」
も、もうその言葉だけでおおよそのことは察してしまうが、当たり障りのないよう会話を続けことにした。
「な、なんでだろうね~」
「わかんない! 多分、心春お姉ちゃんは唯人君んちが嫌いなんだと思う!」
こころちゃんが元気に答える!
純粋さが怖い!
「そういうこと言っちゃダメでしょ!」
小鳥ちゃんがこころちゃんのおでこをぺしっと叩く。
「ここは
「ご、ごめんなさい」
「わ、私は唯人さんの家好きですけどね……」
「小鳥お姉ちゃんは
「家がって言ったの!」
だ、誰か助けて!
俺はどういう顔をしてここにいればいいんだ!
「あはははははー」
隣にいる義妹が引きつった笑みを浮かべていた。
※※※
“二人の妹はうちで匿った。今すぐうちに来るべし”
俺と結奈ではこの場は耐え切れん!
歩く火薬庫だろうがなんだろうが今は
「
「お、俺に聞く!?」
朝食が終わり、そんなことを思いながら三人で居間でくつろいでいると、小鳥ちゃんがおずおずと俺に声をかけてきた。
「
「小学校の勉強なんて兄さんでも大丈夫でしょ」
隣にいる結奈がつーんとしている。
こういう態度を
「わ、私、
「
「
なんてこったい。
小学生の妹にまでやつの頭の悪さがバレていたとは。
さすがの
「毎週ここに勉強に来てもいいですか?」
「ま、毎週!?」
小鳥ちゃんの純粋できらきらした視線のビームが俺にふり注がれる!
眩しい!
あまりにも眩しすぎる!
「じゃあこころもくるーー!」
こころちゃんも便乗してきた!
「毎週は無理じゃないですかー? だって兄さんデー――」
「こらこら!」
「こ、こういうのはちゃんと言った方いいですって!」
「で、でも! こんな小さい子に!」
「こころちゃんはともかく、小鳥ちゃんはなぁ……」
小鳥ちゃんのほうを見ると、俺と結奈のやり取りをじとーとした目で見つめている。
さきほどのキラキラビームが漆黒色に沈んでいた。
普通に怖い……。
「最近の子は成長が早いと言うかなんというか……」
「それ、一歩間違えればセクハラですからね」
「どこが!?」
ピンポーン
そんなことをしていたら再び玄関のチャイムが鳴った。
※※※
「全く! 二人ともいきなりどこかに行っちゃうんだから!」
走ってきたのか、額には汗をかいている。
「……」
「……」
あれ?
小鳥ちゃんもこころちゃんも
「二人とも聞いてるの!?」
「私たちもう子供じゃないもん」
小鳥ちゃんが珍しく反抗的な目をしている!
「ま、まだ子供でしょ!」
「コンビニに買い物くらい行けるって。ねー、こころ」
「行ける!」
小鳥ちゃんとこころちゃんが結託している!
「あ、あんまりお姉ちゃんのこと心配させないでよ!」
「お姉ちゃんは昔から心配しすぎなんだって」
「で、でも……」
「これから毎週、
「えぇえええ! なんでそうなったの!?」
「勉強教えてもらうことになったの」
俺はその視線から全力で目をそらした!
「
「お前にだけは言われたくねぇえええ!」
「はぁ……。小学生って結構ああいう手を使いますよね」
隣のソファーに座っている
「ああいう手?」
「小学生の頃って、“勉強”って言葉つけると割と何でも許されてたなぁと思って」
「あー、あるある。俺も文房具買うからって言って自分の小遣いにしてたっけ」
「お姉ちゃんに妹の気持ちは分からないんだ!」
「私だって妹だったんだけど……」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんでしょ!」
(……)
際どい会話をしているが、多分誰も気づかないだろうなぁ。
「ゆ、
「分かりました」
「ここは私と兄さんの家なんですから、来るときは私に許可を取ってからにしてください」
「「なんで!?」」
「……はぁ」
思わずため息が出てしまった。
「こころちゃん、庭で遊ぼうか」
「うん! 庭で遊ぶ!」
俺はこころちゃんを連れて、この場から退散することにした。
妹たちの騒がしい休日はまだまだ続きそうだった。
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