後日談② みーちゃんライブ 

 とある冬の日。


 俺たちは大規模コンサート会場にやってきていた。


 会場の入り口には長蛇の列!


 雪がちらつくようなとても寒い日だったが、そんなの関係なしに熱気むんむんの二人が隣にいる。


心春こはるちゃん見て見て! グッズ売り場でTシャツとバッジ買っちゃったよ!」

「えぇええ! 私が並んだときは売り切れてたのに羨ましぃいい!」

「えへへへ、一緒に使おうよ!」

「こ、琴ちゃん!」


 心春こはるが目にうるうると涙をためている。


 そう! 今日は三人で約束していたみーちゃんライブの日なのだ!


「どれどれ!? どのTシャツ買ったの!?」

「これこれ!」


 琴乃ことのが持っていた紙袋からそのTシャツを取り出して、心春こはるに広げて見せる。


「可愛いでしょ?」

「あっ、これ一番いらないなって思ったやつだ」


「台無しだよ!!」


 あまりにも忖度なしに答えるので、思わず二人の会話に割って入ってしまった。

 つい心春こはるの頭をポカンと叩いてしまった。


「いったー!」

「お前ってやつは……」

琴乃ことののセンスもまだまだね」


 心春こはるが楽しそうに笑っている。


「大体なによ! 一人だけクールに振舞ってて! みーちゃんに申し訳ないとは思わないの!」

「寒いんだよ! 琴乃ことのからもらったマフラーがなかったらとっくに凍え死んでるわ!」

「これ見よがしに琴乃のマフラーを自慢してーー!」

「してねーよ」


 心春こはるにいちゃもんをつけられた。


 大体、マフラーを自慢するというのなら今の二人の方が羨ましい! 


 琴乃ことの心春こはるの首には、赤いチェック柄のマフラーが巻かれている。。


 なんと! 一本のマフラーを二人で仲良く巻いているのだ!


 さ、三人で来たのに、それをやられると俺としての立場は……。


 今の二人の間に混ざれるとも思ってないけどさ!


「うぅ~、もうこのまま帰りたくない。ずっとこの時間が止まってほしい」

「列に並んだままで時間を止めるな。殺す気か」

「列に並んでいる最中もライブ中なんですー。それが分からない素人はこれだから」

「よく分かんないから素人のままでいいや」

「少しはのってきてよ~~!!」


 心春こはるが俺の胸をぽかぽかと叩いてきた。


 今日の心春こはるはいつもよりテンションが高い!

 念願のみーちゃんライブにきて頭がおかしくなっているのだ!


 ……まぁ、それも当然かもしれない。

 こいつにとっては、ようやく叶った夢の時間なのだから。


「ほら! 琴乃ことの、これ持って!」


 心春こはる琴乃ことのに色とりどりのサイリウムとみーちゃんの顔写真入りのうちわを渡す!


「おぉーーー! 心春こはるちゃん準備が良い!」

「そんなのみーちゃんファンとしては当然でしょう」


 二人の楽しそうなやり取りにほっこりする。


(寒い寒い言ってないで、俺も二人を見習わないとな……!)


心春こはる! 俺にもサイリウムくれ!」

「あなたのはないわよ」

「なんでや!」


 琴乃ことのとの対応の違いに涙が出てきた。




※※※




「うぅ……ぐすっ。良かった、マジで良かった」

「良かったね! 心春こはるちゃん! 私、最後のアンコールのときは涙が出てきちゃった!」

「うん。みーちゃんマジで尊い……もう一生ついてく」


 ライブが終わり、三人で帰路つく。


 興奮冷めやらぬ二人がずっとこの調子で話をしている。

 ライブが終わった直後、心春こはるは号泣、琴乃ことのも目に涙をためていた。


 最後には二人で抱き合って、思う存分にコンサートを楽しんでいた。


「一生どころか二生ついていってるけどな」

「その私たちにしか分からないジョークやめてくれる!」


 心春こはるが笑いながら俺に答える。


 もちろん、俺もコンサート自体にはとても感動していたのだが、もっと別の所で胸がいっぱいになってしまっていた。


「来年! 来年も来ようね!」

「絶対行く!」


 二人がそんな約束をする。


「私の誕生日のとき、毎年三人でお出かけしようって言ってたもんね!」

「も~、そんなこと言ったら毎年みーちゃんで決まりじゃんか!」

「私、温泉とかも行きたいんだけど!」

「じゃあ一回じゃ足りないじゃん!」


(良かったなぁ……)


 昔、美鈴みすずが言っていた「大きくなった琴乃ことのと一緒にライブに行きたい」は今日ここで叶ってしまった。


 でもその夢は今日で終わることなく、また新しい夢になって続いていくようだ。


「なによ、今更泣いてるの」

「いや、みーちゃんのライブ思い出したら泣けてきちゃって」

「ふんっ、ようやくみーちゃんの真の良さが分かったらしいわね!」


 そう言えば、心春こはる美鈴みすずかもしれないと思ったきっかけは、心春こはるの携帯についていたみーちゃんストラップが心のどこかで引っかかったからかもしれない。


 そう考えると、俺はみーちゃんにもっと感謝しないといけないな。


「来年も来ような」

「うん! またチケット取り頑張るから!」


 心春こはるが満面の笑みで俺に答える。


 前世でも現代でも、同じ人が俺たちに力を与えてくれる。

 叶うならみんな健康で……これがずっと続けばいいなぁと思った。


「よーーーし! またチケット取るの頑張るぞーーー!」

「更新連打はちょっとどうなのかなぁ……」

「え゛っ!?」

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