30. お父さんから大好きなあなたへ
「
文化祭を一通り見て回り、四人で屋上で休憩をしていた。
辺りにはちらほら、カップルらしい学生の姿が見える。
「どうしたの?」
「ちょっと渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
この屋上は俺にとって特別な場所になっていた。
美鈴と付き合った場所。
美鈴へのプロポーズが成功して初めて、みんなにお祝いしてもらった場所。
美鈴と再会した場所。
そして今の俺が好きな人に告白したところ。
「
「えっ!? 別にいいですけど……」
「えっ? どうしたの?」
「
俺は
「どうしたのこれ?」
「
「何でそれを私に渡すの?」
「昔の俺の気持ちも
この日記帳には、俺が感じた気持ちを素直に書いていた。
題は“お父さんから大好きなあなたへ”
自分が消えてしまうと思ったときに、父親としての
「まぁ、
「……分かった」
……が、すぐに手が止まった。
「今は見ないでおくね」
「そっか」
「今の私は見ちゃダメなような気がする」
「もしかして後悔してる?」
「後悔? 何を?」
「私たちに告白したこと」
「まさか」
「私、今が一番幸せだよ?」
俺だって幸せだ。
当然、後悔だってしていない。
でも、大好きなこの子にそういう自分がいたことも覚えていてほしかった。
家族だからとか異性としてだからとかそういう関係性からくるものだけじゃなくて……。
――ただただ純粋に
「
「どうしたの?」
「愛してるよ」
今日も俺はこの子にその言葉を伝えた。
いつまでも昔の自分に引っ張られててはいけない。
だって俺はみんな幸せにするって誓ったんだから!
そのために現代に転生したのかもしれないのだから!
※※※
◆
日記の中身が気にならないといえば嘘になるけど、これは今の私は見てはいけないような気がした。
私が大人になった時に見るべきなんじゃないかなぁと直感で思った。
「なんか湿っぽくなっちゃったな」
「わ、私ね……!」
最近の私は、前みたいに
今、私は寂しそうな顔をした
言わないといけないのに私の口は全然動いてくれない!
「わ、私!」
「どうした? 落ち着いてからでいいよ」
私は……!
私は全部含めて……!
「
何か言わないと……!
お父さんの娘だった私が……!
「私……!」
口が上手く回らない!
気持ちだけが焦って、何も出てこない!
そんなことしなくても、お父さんはお父さんだよって!
私はどっちも大好きで、どっちの恋人になれて嬉しいって言わなきゃいけないのに!
もう一度、今が一番幸せだって言わないといけないのに!
「
「どうした?」
「私ね!」
「だ、だから落ち着けって」
頭がぐるぐるする!
心臓が飛び出るかと思うくらいに胸が高鳴っている!
「私っ!」
自分が思っていることをちゃんと
「
自分の素直な気持ちを唯人君に伝えないと!
私を支えてくれたみんなに恩返ししたい!
そんなみんなに私は幸せになってほしいと思っている!
今度こそ
私はそのことを
「私は! 私はっ!」
私の気持ちを!
私の純粋な気持ちを――!
大きく息を吸い込む。
お腹に力を入れて、私がいつも思っている言葉を口に出した!!
「私っ!
――屋上に、静寂が走る。
あれ?
わけがわからなくなりすぎて、変な言葉を出してしまった気がする。
混乱しすぎて、自分で何を言ったのか全然分からなくなってしまった。
いつも思っていることが口から出たはずだけど……?
「……」
「……」
「……」
「ぷっ」
その静寂を破ったのは、
「あははははははは! なんでこのタイミングでそれなんだよ!」
「ち、違うの! ただ思ったことが」
「あーーお腹痛い! どんなタイミングで……」
私の顔は真っ赤になっていたと思う。
「あはははははは!」
「も、もーーー! 笑い過ぎだよ!」
「ほら、こっちおいで
「えっ?」
私は恐る恐るその手の中に入っていく。
昔とは違う、少し大人のぎゅーだった。
「えへ、えへへへへへ」
つい表情が崩れて、声が出てしまった。
好きってパワーって本当にすごい!
どんなつらいことでも乗り越えていけそうな気がする!
お父さんから大好きなあなたになるように……これから頑張らないといけないなぁ。
「ふへへへへ」
「だ、大丈夫か
「えへへへへ!
第三章「同級生大戦争 ~今の俺vs昔の俺~」編 完
「現代に転生したら前世の娘が同級生だった件。娘がぐいぐいくるが攻略しません、攻略もさせません。」 後日談に続く!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます