29. 同級生大戦争

 ――俺が告白してから一ヶ月ほどが経った。


 楽しい日常はいつもより早く過ぎていき、いつの間にか琴乃ことのが楽しみにしていた文化祭がやってきた。

 

 あれから、特に何かが変わったわけではない。

 

 琴乃ことの心春こはるはたまに喧嘩するし、オフクロが余計なことをしてドタバタしている日常もいつも通りだ。


 香里母さんさんとも、将人まさとのおかげで普通に接することができている。


 ちなみにこの前、将人まさとと母さんが初めて夫婦喧嘩をした。

 原因は海外製の高い育毛剤を勝手に買ったことだった。


 心春こはるの妹もたまにうちに遊びにくるようになった。


 ただ……一つだけ大きく変わったことがある。


唯人ゆいと君、私たこ焼き食べたいなぁ……」


 琴乃がもじもじしている……。


 琴乃ことのが俺に対してしおらしくなってしまった!

 琴乃ことののぐいぐいがどこに行ってしまったのだ!

 

「あーんしてみたいなぁ……」


 そうは言ってもこんな風に言いたいことは言ってくるんだけど……。


「じゃあたこ焼き買いに行こうか」


 今日は文化祭当日。

 教室でいつもの四人で文化祭のどこを回るか話し合っていた。


 ちなみに俺たちの関係はまだ誰にも話していない。

 他の人に理解される関係ではないので話すかどうか迷ってはいる。

 けど、隠し事は嫌なので段々とみんなに打ち明けていければいいなぁと思っている。


「兄さん! 私もたこ焼き食べたいです!」


 しかし! 既にそのことに勘づいている女子が一人いる!

 義妹の結奈ゆいなだ!


 結奈ゆいなはピアスをすることをやめた。

 黒く戻した髪の色は、金髪の名残が少しだけ残って茶髪っぽくなっていた。


琴乃ことのがそんな風にうじうじしてると、兄さんのこと取っちゃうからね」

「そ、それはダメだよ!」

「前に言っていた卒業したらすぐに結婚はできなさそうだよね」

「うっ」

「そもそも戸籍上は正式な家族になれないよね? 良かった~、私は兄さんの正式な家族なので」


 薄々じゃなかった! 完全にバレてる!

 何から何まで筒抜けだ!

 絶対に密告者は琴乃ことのだ!


「義妹だなんていう棚ぼたに甘えちゃって!」


 琴乃ことの結奈ゆいなの会話に心春こはるが混ざってきた!


 地味ーーに煽りをいれてくる!

 誰かこいつの口を塞いでくれ!


「事実ですもん」

「むっ」


 心春こはる結奈ゆいなの間で火花が散りはじめた!

 ついにこの二人の間でも戦争が起きるようになってしまった。


「兄さんはもっと真面目な人だと思ってました」

「ごめん……」

「正直、がっかりも軽蔑もしました」

「それを言われると返す言葉もない……」

「でもいいんです。兄さんと私はずっと家族なんですから。私がずっと家族として支えてあげますから」

「えぇえ!?」


 ゆ、結奈ゆいなが俺に謎の宣言をしてきた!


結奈ゆいなちゃんってダメンズにハマる才能ない?」

「ダメンズってなんですか?」

「えっ!? 知らないの!?」


 心春こはるが死語を出して勝手にダメージを受けていた。

 俺も勝手にダメ男にされてダメージを受けた。




※※※




 教室から出て、四人で文化祭のお店を片っ端から回っていくことにした。


 昔はもっと小規模な文化祭だったのだが、今は様々な露天や出し物で学校中が賑わっている。


「全方位に無差別ダメージを与えるのやめろ」

「そんなつもりはないんだけどな~」


 心春こはるはいつもこんな調子で前と変わった様子はない。

 昔のこともちゃんと覚えているし、木幡こはた心春こはるとして楽しそうに毎日を過ごしている。


「それにしても、うちのクラスはあんなんで良かったのかな?」

「……良かったんじゃない?」


 心春こはるがぼそっとそんなことを呟いた。


 うちのクラスの出し物はなんとただのバルーンの展示会!

 教室に動物のバルーンが飾っているだけのなんとも味気のないクラス出し物になってしまった。


 ぶ、文化祭に積極的なやつがいないとこうなってしまうのか……。

 まぁ、そのおかげでこうして落ち着いて色々見て回れるわけなのだが。


 来年はもっと文化祭の話し合いに積極的に参加してもいいのかもなぁ。


「ゆ、唯人ゆいと君! たこ焼き買ってきたからあーんしよ?」


 琴乃ことのが露店で買ったたこ焼きを大切そうに抱えている。


「学校では恥ずかしいからダメ。それに歩きながら食べるのも良くないし」

「えぇえええ!?」

「大袈裟に声出してダメなものはダメ」

「ケチ……」


 俺がそう言うと琴乃ことのが大人しく引いた。


 ちょ、調子がくるうなぁ。


 前までの琴乃ことのなら無理矢理口に放り込んでくるくらいやっていたのに、最近はずっとこの調子だ!


琴乃ことのがやらないなら私がやってあげようか?」

「今のやり取り聞いてたよな?」

「いいから! はい、あーーん!」


 心春こはるが俺の言葉を無視して、無理矢理、熱々のたこ焼きを俺の口に突っ込んできた!


「あふぃ! あふぃ! あちちちちち!!」


 反射的に吐きだしそうになったのを、なんとか口の中ではふはふして留める!

 一度口に入れたたこ焼きを、公衆の場で吐きだすわけにはいかない!


「あはははは! 熱々のおでん食べてる芸人みたい!」

「ふ、ふざけんな!」


 舌を火傷しそうになりつつも、何とか飲み込むことに成功した。


「あっ、ふーふーするの忘れてた」

「気づくの遅すぎない!? ただのテロリストじゃねーか!」


 琴乃ことのと違ってこいつは本当に本当に全っっ然変わってない!

 むしろ少しは変わって欲しい!


「はい、兄さんこっちもありますよー」


 結奈ゆいなもこっちにたこ焼きを差し出してきた。

 こ、この二人にみたいに邪険には扱えないので、釣られて口を出してしまった。


「もぐもぐ」

「美味しいですか?」

「美味しい」

「ちゃんと冷ましましたから」


 その言葉聞き、ぎろっと心春こはる結奈ゆいなのことを睨む。


「ず、随分、積極的になられたことで」

「別に普通です。兄妹だからこれくらいします」

「普通はしません!」


 心春こはるが本当に嫌そうな顔をした。

 あっ、こいつ前世では実の兄がいるもんな……。


「ふんっだ。唯人ゆいとと恋人なのは私なんだから」

「むっ……」


 ま、またしても二人の間で火花が散っている。


「あ、あのぅ……」


 その様子を見た琴乃ことのがおずおずと俺たちに声をかけてきた。


「「なに!?」」


「私も唯人ゆいと君の恋人なんですけど!」


 こ、琴乃ことのまでこの戦争に参戦してきてしまった!


唯人ゆいと君と心春こはるちゃんは私のこと一番大切って言ってたし! だから私が――」


 け、結局いつも通りこうなるのね……。

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