28. 琴乃vs心春 FINAL ROUND 後編

◆ 古藤ことう琴乃ことの ◆



 心春こはるちゃんがいつもとは違う厳しい目つきで、私を見ている。

 いつものほんわかしている心春こはるちゃんとは別人みたいだ。


(お父さんがいなくなっちゃうかもか……)


 私がずっと探していた家族……。

 もう会えないと思っていた大切な人……。


心春こはるちゃん、実は私ね」


 私も真剣にその眼差しに応えることにした。


心春こはるちゃんたちがそうだって言う前から、唯人ゆいと君がお父さんじゃないかって思ってた時期があるんだ」

「え?」

結奈ゆいなと初めて喧嘩したときだったかな。唯人ゆいと君が私のことを慰めにきてくれて。心春こはるちゃんもそのときいたよ?」

「それは覚えてるけど……」

「そのときに唯人ゆいと君はお父さんと同じ言葉を言ったの。それでね、もしかしたら唯人ゆいと君はお父さんの生まれ変わりなんじゃないかって思って。えへへへ、お父さんに叱られるのってあんまりなかったからちゃんと覚えててさ」


 心春こはるちゃんが驚いた顔をしている。

 私はそのまま話を続けることにした。


「あのとき、いっぱい考えたんだよ? でも気持ちは変わらなかった。だからとっくに答えは出ているの!」

「答え?」




「どっちでも好きなの変わらないなって!!!」




 私は胸を張って声を出した。

 色々あったけど、結局私の気持ちは最初から何も変わっていない!


 私は唯人ゆいと君が大好きなのだ!


「……本気で言ってるの?」


 心春ちゃんが表情を変えずに、私に質問をする。


「本気。ずっとそう思ってた」

琴乃ことののお父さんはいなくなっちゃうかもしれないんだよ?」

「そんなことないもん。全部ひっくるめて唯人ゆいと君のことが好きなんだもん」


 私が力強くその言葉を言うと、心春ちゃんの肩の力が抜けていった。


「や、やっぱり……」

「やっぱりって知ってたの!?」

「そう言うと思ってたよ! この似た者親子!」


 心春こはるちゃんが大きくうなだれた。


「えへへへ、褒められた」

「育て方間違えたかなぁ」

心春こはるちゃんには育てられてないよ?」

「全っ然笑えないやつ!」


 心春こはるちゃんが本当に困った顔をしていた。

 その様子が可愛らしかったので、当の私は少しだけ笑いそうになってしまった。


 心春こはるちゃんからはさっきの厳しいオーラは消えていた。


「大体、お得だと思わない?」

「お得?」

「お父さんと好きな人が一緒なんて!」

「その発想がまずおかしいって!」

「別にいいじゃん! 私はもう欲深になるって決めてるんだから! これからやりたいことぜーーんぶやるんだから!」

「よ、欲深!? やっぱり琴乃ことのはあの人の娘だわ!」

「大体、何よ! 今更常識人ぶって! 心春こはるちゃんのほうがよっぽど――」


 そのまま、いつも通り心春こはるちゃんと言い合いが始まってしまった。


 多分、私と心春こはるちゃんの関係はこれからもこんな感じで変わらないと思う。


 心春こはるちゃんは……。


 きっと“お母さんとして”私のことを心配してくれたのだろう。


 なんとなくだけど、心春こはるちゃんがそんな風に私に振舞うのはこれで最後のような気がした。



(ありがとうお母さん)



 喧嘩をしているけど、本当の喧嘩をしているわけではない。

 お互いに深い愛情を感じてるから、すぐに仲直りもできると思う。


 それは“昔”も“今”も“これから”もずっと変わらないだろう。

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