15. 康太、真の戦いのスタート!

「うーん、むにゃむにゃ」

「大丈夫か美鈴みすず? 変わりはないか?」

「ぐすっ……」


 心春こはるが目を覚ました。

 時間は深夜の十二時。


 早く寝すぎて、中途半端な時間に起きてしまった。


「ぐすっ……、うぅ……」


 心春こはるが起きると同時に涙を流していた。


「大丈夫? 俺が誰だか分かる?」

「私の前世の旦那……」

「良かった、大丈夫か?」

「うん」


 心春こはるが目元をパジャマの袖でぬぐう。


「あなた、木幡こはた心春こはるちゃんってね」

「うん、俺も大体は唯人ゆいとから話を聞いた」


 俺のほうが先に目が覚めてしまったので、心春こはるが起きるまでずっと考えていた。


 ――唯人ゆいと木幡こはた心春こはるのこと。


 唯人ゆいとの家族のこと。


 話が大体見えてきた。


 湯井ゆい唯人ゆいと古藤ことう琴乃ことのに恋をしていた。


 琴乃ことのはそれに恐らく気が付いていなかった。


 同時期に木幡こはた心春こはる湯井ゆい唯人ゆいとが仲良くなる。


 木幡こはた心春こはる唯人ゆいとのことが気になり始める。


 なんとも言えない距離感のまま、三人は高校受験へ。


 受験が終わった後に、大きな水害があったらしい。


 いつも川辺にいた琴乃ことのが心配になった二人は、川へ様子を見に。


 二人は洪水に巻き込まれてしまう。


 ――それが断片的に思い出した過去の記憶だった。


 唯人ゆいとに言われてみれば、入院していた記憶がある。

 誰かに、意識不明のまま自衛隊の人に救助してもらったったんだよと教えてもらった記憶がある。


「二人ともそんなに琴乃ことののこと心配してくれてたのね」

「……みたいだな」


 琴乃ことのがまるでどこにも行かせないように、俺の服の裾を離そうとしなかった。


 おかげで俺はどこにも行くことができず、布団の上であぐらをかくくらいしかできなかった。


「俺たちは二人に感謝しないといけないな」

「うん」

「俺たち以外にもお前のことを気にかけてくれる人はいっぱいいたんだぞ」


 起きる気配のない琴乃ことのの髪をそっと撫でる。


「多分、琴乃ことのが洪水の話をしないってことは、琴乃ことのはなにも知らないんだろう」


 このことは絶対に琴乃ことのには言わない方がいいだろう。

 多分、二人も琴乃ことのにこのことを知られるのは望んでいない。


「俺、もう寝ても大丈夫だと思うけど、そっちはどう?」

「私も大丈夫だと思う。だって、心春こはるちゃんはもう……」


 美鈴みすずも布団から起き上がった。


「全部言わなくても大丈夫だよ。そんなつらそうな顔しないで」


 多分、木幡こはた心春こはる唯人ゆいとと同じような状態なのだろう。

 

 ……俺って勝手だよなぁ。


 唯人自分のことを敵視していたと思っていたら、今度はこんなことを思ってしまっている。



「――俺、みんながやりたかったことを全部叶えてあげたい!」



 強く……強く、そのことを思った。

 

 オフクロが前に言っていた「現代に転生した理由」を本当の意味で考える時がきたのかもしれない!


康太こうたは欲深だね~。私たちを幸せにする! 唯人ゆいと君と心春こはるちゃんの望みも叶えてあげたい! 全部、やりたいなんて」

「ついでに言うと今の家族も大切にしたい! 前世の家族も大切にしたい! なんなら今のお前の家族も!」

「強欲! これは大変だ~」


 美鈴みすずが優しく俺に微笑む。

 ふと、美鈴みすずの手が俺の背中に回ってきた。


「私も一緒にいていい?」 

「当たり前だろ。琴乃ことのもずっと一緒だ」


 俺も美鈴みすずのことを抱きしめていた。


康太こうたが欲深マンになっちゃった」

「欲深マンってなんやねん……」

「美女二人をはべらかすなんて。あっ、結奈ゆいなちゃんもいるから三人か」

「その一言だけでツッコミたいところがいっぱいあるんだけど」


 密着した心春こはるの体からは、心臓の音が聞こえてきた。バクバクとうるさいくらいに高鳴っていた。


「多分、心春こはるちゃんの望みは私が転生した時点で叶っちゃったんじゃないかなぁ……」

「どういうこと?」

「鈍感」




※※※




唯人ゆいと君! 心春こはるちゃん!」


 それから少しすると、琴乃ことのが勢いよく布団から飛び出た!


「おはよう琴乃ことの、まだ夜中だけど」

「ご、ごごごごめん! 二人とくっついてたら安心して寝ちゃって!」

「謝らなくても大丈夫だって」

「ふ、二人とも大丈夫!? なんともない!?」


 琴乃ことのが俺の顔をぺたぺた触ってきた。

 相変わらず距離が近い……。


「はーい! ストップ!」

心春こはるちゃん!」


 その手を、心春こはるが諫めるように掴んだ。


「あんまりべたべたしない!」

「ちゃ、ちゃんと二人とも覚えてる?」

「覚えてるに決まってるでしょ! 私があなたの母親よ」


 心春こはるの言葉に、琴乃がうんうんと勢いよく頷く。


 琴乃ことのが俺のほうを振り向く。


「ゆ、唯人ゆいと君は大丈夫!?」

「俺たちが琴乃ことのを置いて忘れる――」



チュッ



 話している最中に唇が柔らかいもので塞がれた。

 琴乃ことのの顔が眼前にあった。


「思い出した!? 今日、私たちはキスしたんだよ!?」

「あんたって子はーーー!?」


 心春こはるが鬼の形相で、琴乃ことののことを羽交い絞めにした!


「えぇえええ、折角思い出させてあげようと!」

「忘れてないって言ってるでしょ! あんたはただ単にチューしたかっただけでしょうが!」

「ち、違うって! それもあるけど本当に違うって!」

「それもあるって白状した!」


 同級生の娘と嫁が布団の上でじゃれ合っている。

 まるで、修学旅行の夜にみんなで遊んでいるみたいだ!


 うんうん! みんな楽しそうでなにより!

 唯人ゆいとが言ってたように家族の仲が良いっていいことだよな!


心春こはるちゃんは嫉妬してるだけでしょ!」

「なんですってーー!」


(……)


 ……ほ、本当に仲が良いかこれ?


 居間からはオフクロの大きな笑い声が聞こえてきた。

 襖のすき間からは、今日はずっと付けっぱなしにしていたのであろう居間の明かりが漏れていた。

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