26. 琴乃、爆発する!

 琴乃ことのが、俺から顔を隠すように心春こはるに抱きついた!


「ど、どうしたの琴乃ことの?」


 さすがの心春こはる琴乃ことのの様子に動揺をしている!


「ぜ、全然心の準備ができてない!」

「じゃ、じゃあ返事は落ち着いてからでいいから……」

「好き!」


 琴乃ことのが俺の顔を見ずに答える。


「好きが溢れて爆発しちゃいそう! 助けて心春こはるちゃん!」


 珍しく琴乃ことのが思いっきり心春こはるに甘えている!


「ほら、ちゃんと返事してあげないと唯人ゆいとが可哀想だよ」

「返事?」

唯人ゆいとは私とあなたと一緒に付き合いたいって言ってるんだよ。琴乃ことのはそれでいいの?」

「……」


 心春ことのの言葉に琴乃ことのの体が一瞬固まった。


「……唯人ゆいと君は私と心春こはるちゃんと二人と付き合いたいの?」

「うん」

「どうしても?」

「どうしても二人と付き合いたい」


 琴乃ことのの声が真剣なものになった。


「どうしてもどうしても?」

「どうしたもだ」

「へへぅ」


 琴乃ことのから変な声が出た。


「まさか唯人ゆいと君からそんなことを言ってくるなんて!」

「ごめん……」

「ううん! ごめんじゃない! 全然ごめんじゃないよ! 心春こはるちゃんはそれでいいの!?」


 琴乃ことの心春こはるの手を強く握りしめているのが見えた。


「それで三人が一緒にいられるならいいかなって思ってるよ」

「本当に本当?」

「ここで嘘ついても仕方ないでしょう」


 心春こはる琴乃ことのの髪を優しく撫でる。


「ほら、ちゃんと唯人ゆいとに自分の気持ちを言ってあげなさい」


 心春こはる琴乃ことのの体を起こす。

 琴乃ことのが恐る恐る俺の正面にやってきた。


唯人ゆいと君……」


 あれ? いつもと全然様子が違う。

 琴乃ことのの体がみるみるうちに小さくなっていくようだ。


「あの……その……」

「落ち着いて。琴乃ことのが何を言っても受け入れるから大丈夫だよ」

「う、うん」


 琴乃ことのが小さく深呼吸をした。


「こ、これからも宜しくお願いします……」


 琴乃ことのの声は今にも消え入りそうなくらい小さかったが、確かにその言葉はしっかりと聞こえた。


「うん! これからも宜しく!」


 そう言って琴乃ことのに一歩歩み寄る。


「キャッ」


 何故か琴乃ことのが一歩、後ずさった。


琴乃ことの?」


 二歩、琴乃ことのに近寄る。


「……」


 二歩、琴乃ことのが後ずさる。

 全然距離が縮まらない。


「なに遊んでるの?」


 心春こはるがその様子を訝し気に見ていた。


琴乃ことのに避けられてるっぽい……」

「ち、違うの!」


 琴乃ことのが全力で否定してきた。


「じゃ、じゃあ何故……」

「爆発しそうなの!」

「え?」

「色んな気持ちが爆発しそうなの! 頭がおかしくなりそう!」

「どうした急に!?」

「わ、私も分かんない! だからまた今度ね!」


 琴乃ことのが俺に背を向けた!

 そのまま屋上の階段を駆け抜けて、この場から去ってしまった!


「……え?」


 お、俺はそのまま琴乃ことのに取り残されてしまった!


「置いてかれてるし」


 放心状態になっていたら、心春こはるの冷静なツッコミが聞こえてきた。


「ついに反転しちゃったかぁ」

「反転?」

「本格的に――ってあなたに言うことじゃないか」


 ぺたりと座り込んでいた心春こはるが、その場から立ち上がった。


「ついに決着をつけるときがきたようね」

「け、決着!? 今度は何をする気だよ!」

「確認しないといけないことがあるの」

「えぇええ!? お前のことだから絶対に余計なことする気がする!」

「そんなことしないわよ! けど、これは女同士としてやらなければならないの!」


 心春こはるの目には炎が宿っていた。

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