12. 娘と嫁に寝かせてもらえない?
「はぁ、大体の話は聞かせてもらったけど……」
居間で、オフクロが困った顔をしながら急須にお茶を入れていく。
「真っ先に
「まぁな」
居間でくつろぎながらオフクロとそんな会話をする。
「オフクロさぁ。俺、ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
オフクロが湯呑にお茶を注ぎ、そのままそれを俺に差し出した。
「サンキュ」
「聞いてみたいことって?」
熱々のお茶に口をつけながら、そのまま会話を続ける。
「仮にだよ? オフクロがお使いを頼むとしたら、俺と
「何もなければあんた一択」
「だよなぁ」
さっき、
現在、家族間の仲は良好とはいえ、俺たちはまだ家族になってから一か月程度の関係だ。
それが、何年も一緒にいた実の息子よりも最近できた義理の娘にお使いを頼むことなんてするのだろうか?
普通なら義理の娘に気を使って、実の息子にお使いを頼むのではないだろうか?
考えすぎかもしれないが、なんとなくさっきはそこの部分が引っかかってしまった。
「……もしかしたら全然上手くいってなかったのかもな」
「何が?」
「うちの家庭」
オフクロが俺の話を神妙な面持ちで聞いていた。
「まぁ、人様んちなんてそれぞれだからねぇ。それこそあんた自身はそこのことは覚えてないのかい?」
「うーん、それがあんまり思い出せないんだよなぁ」
本来の
昔の
「私に手伝えることはあるかい?」
「大丈夫、普通に自分で聞けるから」
とりあえず、家に戻ったら
今は普通の家族になれているわけだし。
「そうかい。何かあったらすぐに言いなよ」
「分かってる、後もう一つ、オフクロに聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
「昔の
今まであまりそのことをオフクロに聞く機会がなかった。
琴乃自身から昔のことを聞くことはあっても、他の人から見た
親として、他の人がどうのように
「暗かったよ。本当に暗い子だった」
「……」
琴乃自身も自分のことはそう言っていたときはあった……。
やはり、
「あんたたちに会ってからだよ、今みたいに明るくなったのは。もっと言うなら、高校に入って、
「そっか……」
「昔を知っていたら考えられないよ、あんな姿は」
オフクロが居間の隣にある
「三人でお泊り! 三人でお泊り!」
「そ、そっか」
居間の壁にかかった丸い時計を見てみる。
普通ならようやく学校が終わる時間だった。
「さすがに眠くなってきたな……」
と、思ったが、実家の安心感からか睡魔が襲ってきてしまった。
頭がぼーっとしてきてしまった。
他にも
「どうする? とりあえず寝るかい? 自分の家で寝れば、あんたが心配しているようなことにはならないだろう」
「うん……。けど、
「そうかい」
「オフクロ、俺たちに何かあったら頼むな」
「何を馬鹿なことを言ってるんだい」
オフクロが表情を崩すことなく俺にそう答えた。
※※※
「お義母さん! また不束者ですがよろしくお願いします!」
小柄な体に沢山の荷物を持って、
「なんだい。ここはもうあなたの家なんだから、そんなにかしこまる必要ないんだよ」
「お、お義母さん!」
こ、こいつらって放っておいたら、延々と同じやり取りを繰り返す気がする……。
「はぁ……。もういいから早く寝ようぜ
「えっ?」
俺の言葉に
「一緒に寝てくれるの?」
「一緒に寝るもなにもほら」
「どうぞーー!」
「
既に
っていうか、そのパーカーはどこかで見たときある気がするなおい!
「安心して寝ていいからね! 私も一緒に寝てあげるから!」
いやいや!
そう言われても、
「あんたぁ! ちょっと来なさい!」
「はぁ!?」
何故かオフクロが怒りの形相になっている!
急に俺の手を引っ張って、台所に連れてこられた。
「ちゃんとこれを使うんだよ」
オフクロが
久々の登場だった。
「マジでぶっ飛ばずぞババア!」
「なんなら今日は留守にしたほうがいいかい?」
「そんな心配いらねーよ!」
「そんな恥ずかしがることないのに」
「そういうことを親に心配される子供の心境をそろそろ分かってくれよな!?」
俺の言葉にオフクロが憎たらしいくらい楽しそうな顔をしていた。
「そういや、さっきちゃんと答えてなかったね」
「ん?」
「“分かった”とだけ言っとくよ」
「……!」
オフクロが声を震わせながらそう言ってきた。
「ありがとう。いつも世話ばかりかけてごめんな」
「あんたのそれは今に始まったことじゃないだろう」
「こんなときまでその言い方! けど、あんたが母親で本当に良かったよ!」
自分の気持ちを素直に伝えるのが恥ずかしくて、ついオフクロから目をそむけてしまった。
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