8. 父、娘の友達とデートをする 前編

 今日は学校をサボって心春とデートの待ち合わせをしていた。


 ……のだが、待ち合わせの時間になっても心春こはるの姿はまだ見えない。


 眠い。

 

 琴乃ことのは俺たちに付き添うように、深夜もずっと電話を繋ぎっぱなしにしてくれた。


 おかげでなんとか一睡もすることなく夜中を過ごすことができた。


「やっほー! 待った?」

「待った! 遅刻だぞ」

「普通デートのときは待ってないって言うのがお約束じゃない!?」

「待ったもんは待ったし」


 目の下にクマができた心春こはるがようやくやってきた。


「だって、準備に時間かかっちゃってさ」

「準備?」

「見て見て」


 心春こはるが両手を伸ばして、今日の服装を見せつけてきた。


 今日の心春こはるは珍しくおしゃれをしている!

 髪は後ろに短く結んでいて、黒いパーカーに白いひらひらのスカートを履いていた。


 心春こはるに似合っていてとても可愛いと思う。


「どう?」

「学校さぼって親は大丈夫だった?」

「あっ、あからさまに誤魔化した!」


 心の中では可愛いと思っていても、本人を前にそんな恥ずかしい台詞を言えるか!


「……」


 いや……。

 今のうちにそういうことはちゃんと言った方がいいかな。


「に、似合って――」

「それで、あれはどうしたの?」

「ん?」


 心春こはるが近くの電柱を指差した。


 そこにはサングラスをかけた女子二人がうろちょろしている。


 どう見ても琴乃ことの結奈ゆいなちゃんだ!


琴乃ことの結奈ゆいなちゃんだよね、あれ」

「あ、あいつらまで学校サボったのか!」


 ま、まさか二人とも学校をサボるなんて!


 誰だ! この子の親は!?

 ちゃんと子供のことを見てないから――。


「あははは~自分のこと棚に上げてる~。二重の意味で棚に上げてる~」

「その時々、発動する心を読むスキルは一体なんなの?」


 普通に前世の嫁が、俺の心の中と会話をしてきた。


 それにしても良かった。

 琴乃ことのにも、そんな風に遊べる仲の良い友達ができて本当に良かった!


「また同じようなこと考えてるでしょ。しつこいお父さんは嫌われちゃうよ」

「うるさいなぁ! 徹夜明けでテンションおかしくなってるんだって!」


 自分の目をごしごしと拭う。


琴乃ことのには感謝しないとな。こういう機会を作ってくれてさ」

「よーし! じゃあその琴乃ことのに私たちのデート見せつけてやろうよ!」


 心春こはるが勢いよく俺の手を引っ張った。




※※※




 隣町の映画館に行くために電車に乗り込んだ。

 二人で並んで近くの席に腰を下ろす。


「ここの駅が一番変わったよね」

「あぁ、最初に見たときはびっくりした」



ガタンゴトン



 電車の釣られて、俺たちの体も一緒に揺れる。

 平日なので席はガラガラだ。


「前に琴乃ことのと乗った時は満員電車だったなぁ」

琴乃ことのと乗ったときがあるの?」

「うん、ギャラクシーメガファイトを見に行くために」


 ここ最近、電車に乗ったのは琴乃ことのとデートをしたときのことだ。


「あいつ、スカートが短くてなぁ」

「年頃の女の子なんだから当然じゃん」

「あんなの俺は認めない! しかも痴漢されても助けを呼ぶこともできなくてさ!」

「あなたが近くにいたのに? それでどうしたの?」

「痴漢してたやつ駅員に突き出して、琴乃ことののことを怒った」

「怖~」

「だって、琴乃ことののお尻を触ったんだぞ! あーー! 思い出したらムカムカしてきた」

「あはははは! ちゃんとお父さんしてたんじゃん」


 心春こはるが称えるように俺の背中をぽんぽんと叩く!



じーーーー



 こ、心春こはるとそんなとめどめのない話をしている最中も熱烈に視線を感じる!


 同じ車両にいるスパイ二人が俺たちに熱い視線を向けていた!


「あ、あいつら、あれでバレてないと思ってるのか」

「ポンコツだねぇ」

「お前にだけは言われたくないと思う!」


 心春こはるがケラケラと笑っていた。そのやり取りが昔を思い出して心地が良かった。


「そういや、みーちゃんコンサートの話ってどうなったんだっけ?」

「冬だよ冬! ちゃんとチケットの予約してあるんだから!」

「そっか、みんなで行けるといいな」


 俺は心の底からそう思った。




※※※




「なっつかしー!」


 隣町の駅に到着した。

 心春こはるがきょろきょろと周りを見渡している。

 最寄り駅と違い、隣町の駅は前世の俺たちの記憶そのままだった。

 

康太こうた、腕組んでもいい?」

「ダメだって言ってもやるくせに」

「さすが分かってるじゃん!」


 心春こはるが俺の腕に組みついてきた。


「あ゛ぁあーーーーー!!」

「こ、琴乃ことの、あんまり大きな声出すと……」


 心春こはるが俺の腕に組みついた瞬間、後ろから大きな声が聞こえてきた。


 寒気を感じるほどの殺気を感じる……!


「ふふふふ、敵に塩を送るからそうなるのよ」

「お前、絶対に楽しんでるだろ」

「もちろん!」


 心春こはるがニコニコと笑っている。

 後ろの殺気の主がものすごく気になるが、今日はせっかくだから俺も楽しもう。


「行こうか美鈴みすず

「うん!」


 いつの間にか俺たちはお互いを前世の名前で呼んでいた。

 こうしていると本当に昔に戻ったみたいだな。


「高校生のデートといえば映画だよねぇ~」

美鈴みすず……。ここまで来ておいてなんだけど今日は映画はやめとかない?」

「えぇええ! なんで!? 折角、見たい映画を調べてきたのに!」

「だってお前絶対に寝るじゃん」

「う゛っ!!!」

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