4. 夢 ~本物の唯人君の登場!~

 うぅ……今日は疲れた。


 新学期早々、変なあだ名はつけられるし散々だ。


 今日は早く布団に入って、明日に備えて寝てしまおう!

 



●●●


 


 いつの間にか白い空間に一人でぽつんといた。



 ――あっ、これって夢だ。



 俺ってたまにこれが夢だとはっきりと分かるときあるんだよなぁ。


 場所はよく分からないが、近くにはいつも見慣れた男の子が佇んでいた。


「そこで何してるの?」

「別に何も」


 その男の子が、つっけんどんに俺に応える。

 表情からは覇気を感じることができない。


 毎日見ている髪型、毎日見ている顔の男の子だ。


 直感ですぐに分かってしまった。


「もしかして本物の唯人ゆいと君?」


 この子が湯井ゆい唯人ゆいと君なのだとすぐ分かってしまった。


「なんでそう思うんですか?」

「ただの勘」

「いい勘してますね」


 どこかうつろな表情で、が俺にそう告げる。



 ――もしかしたらその時がきてしまったのかもしれない。



「俺、唯人ゆいと君にずっとお礼を言いたかったんだ!」

「お礼? なんで?」

「俺たち家族をまた会わせてくれて本当にありがとう!」


 これは俺の本心からの言葉だった。


 湯井ゆい唯人ゆいとになれたから、みんなと再会できた。みんなとまた笑い合うことができた。


 だから、唯人ゆいと君には言葉では言い表せないほど感謝をしている。


「心残りはあるけど……、こうしてまた皆の顔が見れて――」


 その言葉を言い終わる前に、じわりと目に涙が浮かんでしまった。


 喉の奥が、何かで締め付けられたように痛くなる。


 感謝はしている……!

 本当に感謝はしている!


 けど、未練も心残りもある!


 俺がいなくなったら琴乃ことのはどうなるんだろう。

 心春こはるは……美鈴みすずはどうなるんだろう。


 オフクロは……せい兄ちゃんは。

 結奈ゆいなちゃんに、母さんに将人まさと、そして生まれてくる赤ちゃん。


 みんなとまた一緒に暮らしたいと言った美鈴みすずの言葉……。


 琴乃ことのの将来……!


 いつか来るのではないかと思っていたが、俺はこの数か月でこんなにも現世に未練がある人間になってしまっていた。


「いやいやいや! いきなり泣いて、勝手に終わったみたいな顔しないでくださいよ! そういう早とちりなところは夫婦で似てますよ!」

「へ?」


 俺の様子を見て、唯人ゆいと君が焦ったような声を出していた。


「それに感謝するのは俺の方です! 康太こうたさんのおかげで家族が良い方向にまとまりました。あんな幸せそうな母さんを見るのは初めてです。それに――」

「それに?」

「こ、琴乃ことのさんと」


 うつろな表情だった唯人ゆいと君が、急に顔を赤らめた。


 そ、その反応は!?


「ま、まままままさか!?」

「お、俺、ずっと琴乃ことのさんのことが好きで」

「ば、馬鹿野郎ぉおおおおおお!!」


 俺は、唯人ゆいと君の肩に掴みかかってしまっていた!


「いつからだ! いつからそうだったんだ!」

「じ、実は中学のころから……」

「ふざけんなっ!」


 つい唯人君自分を背負い投げしそうになる!


「さ、最初は俺と似てるなぁと思ったんです! 暗くて、目が死んでて!」

「人の娘を馬鹿にしてんのか!」

「ち、違くて! そ、それで気になっていたらなんとなく……」

「むっ」


 唯人ゆいと君がしょんぼりと肩を落とした。


康太こうたさんが唯人として過ごした日々は、確かに俺の記憶と経験として刻まれてます!」

「ほう」

「だ、だから琴乃ことのさんと手を組んだりしたのも……」

「よし! そこに直れ! 歯を食いしばれ!」

「俺は康太こうたさんでもあるんですよ! 自分を殴るなんて!」

「今は自分ごとぶん殴ってやりたい気分だ!」


 琴乃ことのは見た目も可愛いし、モテるだろうなぁと思っていた!


 だが!


 まさか!

 

 自分唯人琴乃ことのに惚れていただなんて予想もしていなかった!


「俺の感情は康太こうたさんのものだし、康太こうたさんの感情は俺のものでもあります!」

「なにぃ!?」

「だから――」


 唯人ゆいと君が続けて何かを言おうとしていたが、そのまま意識が混濁していってしまった。




●●●


 

 

「――人君」


 誰かの声が聞こえてきた。


唯人ゆいと君、起きて! 学校遅れちゃうよ!」

「……琴乃ことの?」

「うん、唯人ゆいと君の琴乃ことのだよ」


 目を開けたら、いつもの琴乃ことのの顔があった。


「……あれ?」

「もー! 唯人ゆいと君、中々起きないから、結奈ゆいとに言って家に入れてもらったの」

「そう……なんだ」


 頭がぼーっとする……。

 さっきまで夢を見ていたような?

 内容はよく思い出せないけど、その感情だけは俺の中に留まっている。


 俺はさっきまで何かに怒っていた……?


 怒って……?

 何に怒って……?


「もー! 唯人ゆいと君がそのまま起きないなら私も一緒に寝ちゃおうかなぁ!」


 もぞもぞと琴乃ことのが俺の布団に侵入してくる。


「えへへへへ、唯人ゆいと君の匂いがするーー!」


 琴乃ことのが幸せそうな顔をして俺の横までやってきた。


 唯人ゆいと君……?

 琴乃ことの……?


 唯人ゆいと君と琴乃ことの……?



「あ゛ぁあああああああああああああああああ!!!」



 叫び声がでてしまった!


 思い出した!

 全部思い出したぞぉおおおお!


「お、俺に近寄るなぁあああ!」


 そ、そうだ!

 俺は本物の唯人ゆいと君と会ったのだ!


「えぇえええ! なんでぇえええ!?」

 

 琴乃ことのの悲鳴も一緒に聞こえてくる!


 だって、唯人琴乃ことのをくっつかせるわけにはいかないだろぉおおおおお!

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