30. 本当の再会 後編

「好 き !!」


 琴乃ことのから予想だにしない言葉が飛び出てきた!


「えっと……じゃなくて……! 言いたいことはそうじゃなくて……。好き! じゃなくて唯人ゆいと君がお父さんで大好き! じゃなくて心春こはるちゃんが私のお母さんで――」


 こ、琴乃ことのは大分混乱しているようだ……。


「違うの! 本当は言いたいことが沢山あるの! けど好き! じゃなくて――」

琴乃ことの、一旦落ち着いて」


 琴乃ことのに釣られて、俺も混乱してくる!

 今日は様々な事態を想定してこの場に臨んだが、この展開は完全に予想外だ!



「あーー! もうよく分からないけど大好き!!」



 琴乃ことのが完全に開き直った……。

 お、俺の少なくない人生経験をもってもこの場をどうしていいのか分からない!


「……」

「……」


 一瞬、沈黙が流れる。


「ぷっ……!」


 その沈黙に耐え切れなくなって、笑い始めたやつがいた。


「あははははは! そうだよね、琴乃ことのは私の子だもんね! そうだよね! あははははは!」


 木幡こはた心春こはるもとい古藤ことう美鈴みすずが、声高らかに笑っている!


「ふふっ、どんな感動の再会が待っているのかと思えば、あんたたちは」


 オフクロも一緒に笑い始めた!


「「あははははははっ!!」」


 琴乃ことのの産みの親と育ての親が声をあげながら笑っている。

 琴乃ことのは顔を真っ赤にして顔を伏せてしまった。


せい兄ちゃん! どうすりゃいいんだよこれ!」

「君たちらしくていいんじゃないか?」

「いいの!? ここお墓の前なんだけど」

「君の亡くなったお父さんもきっと笑っているさ」


 誠一郎せいいちろうさんの口角も上がっているのが分かった。


 お、おかしいなぁ。

 もっとしんみりすると思っていたのに。


 琴乃ことののおかしな発言に、場がもの凄く和んでしまった。


「あははははは………うっ、うぅ……」


 美鈴みすずの笑い声が、段々と小さくなっていく。


「うわぁあああああん! 琴乃ことのーーー!」


 その笑い声はそのまま泣き声に変わってしまった。


「本当はね! 本当はずっと琴乃ことのにそう言いたかったの! けど、一度死んだ私たちが今を生きている琴乃ことのの邪魔しちゃ悪いかなって……」 

「そ、そんなことないのに! 私はもっと早く会いたかったよ!」

「こんなに! こんなに大きくなって! 本当に大きくなって!」

「……うぅ」


 琴乃ことの美鈴みすずの言葉に涙を浮かべる。

 そのまま二人は肩を抱えて、わんわんと泣き崩れてしまった。


 絶対に……。

 絶対に信じてもらえるまで時間がかかると思っていたのに、あまりにも簡単に二人が“本当の再会”を果たしてしまった。


「良かったな、康太こうた君」


 誠一郎せいいちろうさんがポンっと俺の肩を叩く。


「だから唯人ゆいと……と、思ったんですが今は康太こうたでいいです」

「そうか」

「これで良かったんでしょうか?」

「別にいいだろ。君たちは親子なんだから、どれが正解ってことはないだろう」

「……そうかもしれませんね」


 せい兄ちゃんの顔を見ると、頬には涙が伝わっていた。

 子供のときからの付き合いだが、初めてせい兄ちゃんの涙を見た。


せい兄ちゃんも泣くときあるんですね。絶対に泣かない人だと思ってました」

「そんなことないさ、君たちには泣かされてばっかりだ」


 せい兄ちゃんのその言葉が嘘か本当かは俺には分からない。

 ただ、せい兄ちゃんの顔はどこか憑き物が落ちたような表情になっていた。


「そういう君だって人のこと言えないぞ」

「これは……二人が再会できたことのただの嬉し泣きですから」

「今度は自分のことを第一に考えるんだぞ。正体を明かしたということは、あの二人の幸せは君なしにはあり得なくなったんだから」


 せい兄ちゃんが俺を諫めるように、そう言ってきた。

 キツイ口調だったが、それが俺を気遣ってというのが痛いほど分かった。


「分かってます。けど――」

「けど?」

「自分を第一にって言うのだけは約束できないです。俺が一番大切なのは今も昔も自分の家族ですから」


 この日、俺たち家族はようやく本当の意味での再会を果たすことができた。


 それと同時に“同級生家族”が誕生したのであった!

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