39. 親子トライアングル!

夏休み最終日



 今日は、オフクロが俺に用があるというので、琴乃ことのの家に来ていた。


「で、その本人がいないのはどういうこと?」

「分かんない。おばあちゃんどこかに出かけちゃったみたい」


 人のことを呼んでおいて出かけてしまうとか……。

 

 はぁ……。

 とりあえずオフクロが戻ってくるまで待つしかないか。


 居間で琴乃ことのとお茶を飲みながら、テレビをつけてみる。


「ねぇねぇ、ところで唯人ゆいと君」

「どうしたの?」

「今、私たち二人きりだよ」

「うん?」

「今ならいっぱいラブラブできるよ」

「しません」 


 テレビの番組から芸人の笑い声が聞こえてくる。


 うちの琴乃ことのちゃんがおかしなこと言ってるので、俺も笑い飛ばしたい気分だ!


「いいか琴乃ことの。普通の親子はラブラブしないんだぞ」

「普通の親子じゃないもん」

「ぐっ……!」


 お、おかしいなぁ……?

 絶対に俺の方が正しいこと言っているはずなのに、琴乃ことのに言い負かされている気がする!


唯人ゆいと君、私にお父さんだって言ったら冷たくなった」

「ぐぬっ!」

「そんなに私より心春こはるちゃんがいいんだ……」


 琴乃ことのの目がうるうると涙ぐむ。


「そんなことない! そんなことない! 琴乃ことのが一番可愛い! 琴乃ことのがナンバーワン!」



「ほほーーー」



 ギクーーっ!

 聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた!


「人がいない間にそんなこと言っているとは!」

「娘! お前の娘だから!」


 心春こはるがいつの間にかウチにやってきていた!


「私のこと好きって言ったくせに!」

「あぁああ! 娘の前でとんでもないこと言ってるし!」


 そういうことは家族の前で言わないでほしい!

 家族の間にも暗黙知みたいなのあるだろうが!


「浮気! 浮気の始まりよ!」

「だから娘! お前の実の娘だろ!」


 その言葉を聞いて、琴乃ことの心春こはるのことをギロリと睨みつける。


「浮気にはならないでしょ! だって今のお父さんとお母さんは夫婦じゃないんだから!」

「心は夫婦だから!」

「じゃあ私と唯人ゆいと君も夫婦だし!」


 とんでもないこと言ってますよこの人たち……。

 ツッコミどころ多すぎて、どこから処理していいのか全然分からない!

 ってか、いつの間にか重婚しているし。


「昔のお母さんなら、私のやりたいことは全部応援してくれるって言ったのに」

「うっ!」


 心春こはる琴乃ことのの勢いに押され始めた。


「そ、そりゃあ、琴乃ことののしたいことは何でも応援してあげたいって思ってるよ?」

「じゃあ私は今、唯人ゆいと君の匂い嗅ぎたい!」

「うーん、それくらいならいっか」


「おい」


 あっさり負けやがった。

 

 うーん……。

 このままではうちの琴乃ことのは人様の娘さんとは違う方向に歩んでしまうかもしれない。


 俺たちが親だと言った今!

 まさにこのことを矯正するチャンスなのではないだろうか!


「琴乃! 普通は人の匂い――」



ギュッ



「えへへへ。お父さんの匂いがするぅ」


 既に琴乃ことのが後ろから俺に抱きついて匂いを嗅いでいた!


「こら! 普通は人の匂いは嗅がないんだぞ!」

「普通じゃないもーん」


 琴乃ことののバックハグが俺を捉えて離さない!


 ……こりゃ琴乃ことのの矯正はまだまだ時間がかかりそうだ。




※※※




「おやおや親子で仲が良くていいねぇ」


 オフクロがようやく帰ってきた!


「おせーよ! 人のこと呼んでおいてどこに行ってたんだよ!」

「あっ! あばあちゃんおかえりー」


 琴乃ことのが俺に抱きついたまま、オフクロに声をかける。


「いいから琴乃ことのはそろそろ離れて!」

「もう少しこのままがいい」

「そう言ってからもう三十分は経つんだけど!」


 琴乃ことのが後ろから頬ずりをしてくる。


 うぅ……。

 琴乃ことのが赤ちゃんの時は俺もやっていた気がするが、大きくなった娘からそんなことされるなんて複雑すぎる。


「こ、琴乃ことのはまだまだ甘えん坊ね……!」

「うん! いっぱい甘える!」

「そういうことじゃなくて!」


 心春こはるが、カタカタと両手で持っているお茶飲みを震わせている。


「大人の恋愛はそういうことしないんだからね!」

「そうなの? じゃあどういうことするの?」

「それは――」


「待て待てーーい! それ以上、お前は口を開くな!」


 絶対にダメなやつだろーーー!

 絶対にぜーーーったいに心春のことだから余計なことを言い出すぞ!

 しかも子供に言っちゃダメなやつを!


「く、口を開くななんて……」


 俺の言葉に心春こはるがしょんぼり落ち込んでしまう。


「ご、ごめん! そういうことじゃなくて、いやそういうことなんだけど……」

「ぐすっ……」


 心春こはるが涙ぐんでしまった。


「親子で三角関係だなんてお前も大変だねぇ」

「オフクロはマジで話さないでくれ!!」

「はいはい」


 どこか楽しそうにオフクロが笑っている。


「それで! 俺に用って何!?」

「あっ、そうだった。これよこれ。修理に出したら直ったから、これを渡そうと思って、今お店に行って取ってきたのよ」

「修理? お店?」

「あんたの昔の携帯」

「えっ!?」


 け、携帯ーーー!?

 

 ま、まずいぞ!

 今は前世の娘も前世の妻もいるのに、ここで携帯を渡されるのまずい!


 パソコン以上に何が出てくるか分からないやつを、オフクロが修理して持ってきてしまった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る