38. 今、一緒に暮らしているのは!

「大変なことが起きました」


 お盆も終わり、夏休みも最終日に近づいてきた。


 そんな中、今日も琴乃ことの心春こはるはうちに遊びにきている。


「何かありました木幡こはたさん?」

「私の宿題が終わってません」


 律儀に結奈ゆいなちゃんがその言葉に反応する。

 あまりにもしょうもないです、心春こはるさん……。


琴乃ことの~、結奈ゆいなちゃん~! 写させてーー!」

「そういうのは自分でやらなきゃダメなんだよ!」


 心春こはる琴乃ことのに叱られる!

 完全に立場が逆転してしまっている!


「だ、だって……! 遊ぶのが楽しすぎて!」


 子供かっ!

 前世の妻は、転生して精神年齢まで下がってしまっている!


「私はとっくに終わってるから、唯人ゆいと君に褒めてもらおー!」

琴乃ことのは偉いなぁ」

「えへへへへ」


 琴乃ことのがこちらに頭を差し出してくるので、つい髪を撫でてやってしまった。


「お、おほほほほ、随分仲がよろしいことで」

「ここで宿題終わってないの心春こはるちゃんだけだよ」

「きぃいい! たかが宿題くらいで偉そうにーー!」


 ダメだこの母親。

 完全に琴乃ことののほうが優勢だ。


 そもそも夏休みの宿題に苦しむのって中学生までな気がする。


「大体、こんな勉強なんて社会に出たら役に立たないんだから。因数分解? 元素記号? なにそれって感じよ!」

「けど、そういう考え方って今後も大切になるって思うんですよね~」

「なっ!?」


 結奈ゆいなちゃんがまたしてもその言葉に律儀に反応する!


「確かに社会に出たら役に立たない勉強って沢山あると思うんですが、色んな考え方を増やすことができるっていうのは人間性を豊かにするっていう意味ではありなのかなぁって思ってます。嫌いなことを逃げ出さないで一生懸命できるようにするっていうのも学校の教育で大切な役割かもしれませんしね」

「ぐぅううううう!」


 心春こはるが正論で思いっきりぶん殴られる!

 この中で、一番ギャルっぽい見た目の子が一番しっかりした考えを持っているだなんて……。


「へへーんだ。いいもん! 二人が写させてくれないなら唯人ゆいとに写させてもらうから」

「なわけないだろ。いいから早くやれ」

「残念でしたー! 今日は何も持ってきてません!」

「帰って持ってこい」

「冷たい……。ノリが悪い……」


 ガクッと心春こはるが肩を落とす!


 そんなあからさまに落ち込んで知らん!

 全部、自分が悪い!


 ったく、俺たちは琴乃の見本にならなければならないのに!


「昔はもっと優しかった……」

「ぬっ」

「昔はもっと親身になって話聞いてくれた……」


 俺にしか聞こえないくらいの小さな声でぶつくさぶつくさ何か言ってやがる!


「昔は――」

「ああーーー! 付き合ってやるから早く勉強道具持ってこい!」

「やったーー!」


 ドタバタとダッシュで心春こはるが家に戻っていく。


 く、くそぅ……。

 結局、俺の負けのような気がする!


「むーー」


 琴乃ことのがその様子を訝し気に見つめていた。




※※※




心春こはるちゃん、私が教えてあげる!」

「ほ、ほんと!?」


 心春こはるが帰ってくると、すぐに琴乃ことのが心春に声をかけていた。


「うっうっ……優しい子に育って」

「早くやろ! 終わらなくなっちゃうよ!」

「うん!」


 ……。


 これはあれだな……。


 娘の宿題に付き合う母なら分かるのだが、母の宿題に付き合う娘という光景は中々見ることができないな……。珍百景もいいところだ!


「そういえば、皆さんの成績ってどうなんですか?」

「ここにいる全員、結奈ゆいなさんより馬鹿だよ!」

「に、兄さん、お二人には容赦ないですね」


 そうだ! 忘れていた!

 琴乃ことの結奈ゆいなちゃんよりもできるようにしないといけないのだった!


 打倒! 将人まさとの娘!

 うちの琴乃ことのは絶対に負けないぞ!


ことちゃん、これはどうやって解くの?」

「それはね……。んとね、うーんとね……」


 ダメそう。

 古藤ことう家の学力って実はやばい?


 やめようやめよう。

 前世の友人と争うなんて、やっぱりやめよう。


 大体、勉強で人の優劣が決まるわけじゃないしーー!


「うーん」


 ……そんなことを思っていたのだが、当の琴乃ことのは真剣にの問題を解いていた。


琴乃ことのは何でも一生懸命でいいですね」

「うん! これからは何でも一生懸命やるって決めたの! 唯人ゆいと君と一緒に暮らせるようになるために!」

「い、一緒に暮らすーーー!?」


 ぶーーーーっ!!

 突然、娘がぶっこんできやがった!


「だよね~。三人で暮らせるようになるまで頑張らないと」


 心春こはるもその言葉に便乗してしまう!


 ア、アホが二人もいる!

 何も知らない結奈ゆいなちゃんが聞いたら、ただのヤバい三人組になるだろうが!


「ふ、ふーん」


 その言葉を聞いた結奈ゆいなちゃんの顔が険しくなっていた!


「ま、まぁ、今、兄さんと一緒に暮らしているのは私ですけどね!」


「「え゛っ!!」」


 さすが親子!

 二人の声が綺麗にそろった!

 

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