33. 唯人君しゅきしゅき! 前編

「兄さん、ずっとスマホとにらめっこしてるけどどうしたんですか?」

「これにはやんごとなき事情があってだな」

「やんごとなきって古語ですよね。難しい言葉知ってるんですね」

「そうなの……?」


 義妹から知的な返答をされる! 古藤家ではあり得ない返しだ!

 感覚で使ってるからそんなのは詳しくは分かりません!


「実は琴乃ことのなんじゃないですかー! 人生で一番嬉しいことがあったってメッセージがきましたよ!」

「……」

「……」

「……」

「あっ……マジなやつですか?」



 ――琴乃ことのに俺たちが親だと言ってから一日が経った。


 今の俺は、昨日を無事にやり切ることができたという充実感に満たされていた。


 もしかしたら、また家族をやり直せるのではと思うと、どうしても浮ついた気持ちが抑えきれなくなってしまう。


「も、もしかして兄さんと琴乃ことのって付き合い始めました!?」

「なわけないだろーーー!!」


 そんな気持ちを諫めるように、結奈ゆいなちゃんがとんでもないことを言ってきた!


 そっか! 同級生同士だとそんな風に見えるのか!


「ただの世間話だから!」

「それにしては兄さん、真剣に携帯を見ていたような……」


 そ、そりゃ真剣になるさ!


 あれから琴乃ことのは今までどう過ごしていたかを沢山教えてくれた。


 俺も今度は、湯井ゆい唯人ゆいととしては聞けなかったことを、ちゃんと琴乃ことのに聞くことができた。


「なんか兄さんすっきりした顔してますね」

「そう?」

「はい。テスト明けと似たような顔してます」

「あ、あんまり嬉しくない例え……」


 自分的には一世一代どころか二世に一代の出来事だったのだが、現役女子高校生から見るとそれくらいの表情に見えるらしい。


 あと何年もしたら、昨日のこともその程度のことになるのかな……。


 昨日のことなんか些細な出来事になるくらいにもっともっと楽しいことがやってきて――。


 そうなるといいなぁと心の底から思った。



ピロン!



唯人ゆいと君すきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき』



 そんなことを考えていたら怪文書が届いてしまった。




※※※




◇ 古藤家グループメッセージ ◇



心春こはる『そういうのは迷惑になるからやめなさい』


琴乃ことの『好きが溢れちゃったんだもん!』


心春こはる『周りのことを考えろって、前に結奈ゆいなちゃんにも言われたでしょう。暴走してそういうの送るのは良くないよ』


琴乃ことの『お母さんに怒られた……』


唯人ゆいと『俺は大丈夫だよ。けど他の人にやっちゃダメだからな』


琴乃ことの唯人ゆいと君、優しい!』


心春こはる『ちょっと! ダメなところはダメだって言わなきゃ琴乃ことののためにならないでしょう!』


唯人ゆいと『せっかくこうして皆で集まれたんだし今くらいはいいじゃん』


心春こはる『あなたはそうやっていつも琴乃ことのには甘いんだから!」


琴乃ことの『二人が私のために争ってくれている……!』


心春こはる『そうよ! あなたのために争っているのよ!』


唯人ゆいと『二人ともその反応はおかしい気がする……』


心春こはる『やだわー、一人だけ格好つけちゃって』


琴乃ことの『お父さんも唯人ゆいと君もどっちもカッコイイよ?』


心春こはる『そんなの知ってるし』


琴乃ことの『じゃあ心春こはるちゃんは唯人ゆいと君のどこが好きなの?」


心春こはる『全部』


琴乃ことの『一番つまらない答え! そんなんだから唯人ゆいと君に飽きられちゃうんだよ!』


心春こはる『別に飽きられてないし!』


琴乃ことの唯人ゆいと君から反応がなくなっちゃった! お母さんがそんなこと言うから唯人ゆいと君がいなくなっちゃったじゃん!』


心春こはる『今のは私のせいじゃないでしょ!』


唯人ゆいと『話に混ざりづら……』


琴乃ことの『出てきた!』


心春こはる『どこ行ってたのよ!』


唯人ゆいと結奈ゆいなさんと話してただけ』


心春こはる『若い女なら誰でもいいの?』


唯人ゆいと『誰もそんなこと言ってないだろ!』


琴乃ことの『若い方がいいに決まってるじゃん!』


心春こはる『私だって今はあなたと同じ都市なんだからね!』


琴乃ことの『都市? 心春こはるちゃん誤字ってるよ』


心春こはる『歳。麻痺がえた』


琴乃ことの『また間違ってる』


心春こはる『とりあえずみんなが便器で私は嬉しい!』


琴乃ことの『便器?』


唯人ゆいと『多分、元気って言いたかったんじゃないかな』


心春こはる『もういいです(´;ω;`)』


唯人ゆいと『おじさん顔文字という言葉があってだな』


心春こはる『誰がおじさんよ!』


琴乃ことの唯人ゆいと君すきすきすきすきすきすきすき』


唯人ゆいと琴乃ことのはどのタイミングでそれをぶち込んできたんだよ!? やっぱりそれ禁止な!』


琴乃ことの『えぇえええええ!!??』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る