32. 琴乃vs心春 ROUND4

「はぁ?」


 その言葉に真っ先に反応したのが心春こはるだった。


「ちょ、ちょっと何言ってるのかなぁ~ことちゃんは」

「だってだって! 血の繋がりはないんだよ! だったら普通に結婚できるじゃん!」


 心春こはるの声が静かに震えているような気がした。


 ま、まさか親バレしてもそんなことを言ってくるなんて思わなかった!


「常識ってものがあるでしょう! 常識ってものが! いつまでお父さん好きでいるつもりなの!?」


 心春こはるがズバリと琴乃ことのにそのことを突っ込む!


「だって好きなんだもんっ! それにお父さんもお母さんも同級生になってるんだよ? 私たちに常識とかなくない?」


 琴乃ことのももっともなことを言って心春こはるに反撃をする!

 

「ねぇねぇ! 唯人ゆいと君! 今度、花火大会あるんだよ! 一緒に行こうよ!」


 琴乃ことのが俺の腕に飛びついてきた!


「行くっ!!」 


 心春こはるが勢いよく返事をする!

 い、今、誘われたのは俺だよな……?


「私も絶対に行くし!」

心春こはるちゃんは誘ってないよ?」

「誘われてなくても行くもん!」


 心春こはるが血の涙を流している……。

 さっき再会したばかりなのにさすがに可哀想になってきた……。


琴乃ことの、そんなこと言わないで三人で行こう」

「分かってるってー! 最初からそのつもりだったし! ちょっと心春こはるちゃんのことからかっただけ!」


 琴乃ことのが悪戯顔を浮かべていた。


 今日の琴乃ことのは強い!

 満面の笑みに、弾んだ声! 

 まるで怖い物なんてなくなったかのような印象さえ受ける!

 

「うぅーー! うぅー!」


 心春こはるがうめき声をあげていた……。

 実の娘の手の平でころころされて、めちゃくちゃ悔しがっている。


「ちょっと! あなたからも何か言ってよ!」

「お、俺!?」


 し、しまった!

 対琴乃ことのでは分が悪かった心春こはるが、こちらに矛先を向けてきた!


「今度も私と結婚するって言ってやりなさい!」

「そういう予定だったんだ……」


 心春こはるが恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる!


「同じ女と結婚するなんて唯人ゆいと君も飽きちゃうでしょ! やめてあげなよ心春こはるちゃん!」

「ぶぶーー! 同じ女じゃありません! 今は木幡こはる心春こはるですーー! ピチピチの女子高生ですーー!」

「ピチピチはおばさん臭いよ心春こはるちゃん……」

「う゛っ」


 は、母と娘でぎゃいぎゃい言い争っている。

 さっき泣いて笑っての再会をしたはずなのに、今度は二人とも怒っている。


「はぁ……。古藤ことうさん、お昼はお蕎麦屋さんに行きましょうか」

「そうだね」


 助けを求めてオフクロとせい兄ちゃんに視線を向けたが、俺たちを置いてどんどん先に進んでしまっていた。




※※※




「えへへへ。お父さんと食べ方似てるーー!」

「……そりゃ本人だからな」


 お昼はみんなでせい兄ちゃんのオススメのお蕎麦屋さんに来ていた。

 あれから琴乃ことのは俺からべったりくっついて離れない。


「あーんしてあげようか?」

「蕎麦のあーんなんて聞いたときねぇよ」


 麺類をあーんで食べさせようとするうちの娘。

 あまりにもテクニカルなことをやろうとしている。


「ふんっ! 琴乃ことのもまだまだね! お蕎麦をあーんなんてできるわけないでしょう!」


 その様子を見ていた心春こはるが悪態をつきながら、ちびちびと麺をすする。


「そんなことないよ?」


 琴乃ことのがテーブルに置いてあったデザート用のフォークを使いくるくると麺を巻く。


「ほら、こうすればいけるでしょ? はい! 唯人ゆいと君!」

 


パクッ



 琴乃ことのがそれをそのままこちらに持ってくるので、つい食いついてしまった!


「ちょ、ちょっと! あなたは餌があれば食いつく魚と一緒なのかしら!?」

「お前にしては上手く例えるじゃん」

「そ、そう?」


 俺の言葉に心春こはるが喜んでいる!

 その反応でいいのかお前さんよ……。


「えへへへ。唯人ゆいと君、おいしい?」

「お前と同じやつを食べてるんだけど……」

「そういうときはおいしいって言うんだよ!」


 な、なんだこのカップルみたいな会話……?


 おかしい! 絶対におかしいことになっている!


 琴乃ことのがそのフォークを使って自分の蕎麦を食べ始めた!


「えへへへ~。唯人ゆいと君と間接キス~」

「お、親子だからなぁ……」


 めちゃくちゃ娘がぐいぐいくる!!


 こ、この感じは見覚えがあるぞ!


 そうだ! 

 これは最初に出会った頃の琴乃ことのと似ているのだ! 

 むしろあのときよりも悪化している気すらする!



 一 周 し て 娘 の ぐ い ぐ い が パ ワ ー ア ッ プ し て し ま っ た ! !

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