15. 娘はお父さんと一緒に寝たい!

「えへへへ。幸せ~」


 娘と同じベッドに入ってしまった!

 隣にいる琴乃ことのが思いっきり俺に抱きついている。


 決してやましい気持ちがあったわけではない! 


 ただ、どうしても琴乃ことのに頼まれると嫌といえない。琴乃ことのがやりたいと言ったことをどうしても叶えてあげたくなる!


「あんまりくっつかないで……」

「え~やだ~」


 まるで悪戯をしている子供みたいにどんどん俺にくっついてくる。


 琴乃ことのは同年代に比べてあどけない顔をしているので勘違いされやすいが、決して発育は悪い方ではない。年相応に出るところは出ているし、しっかり女の子らしい体つきをしている。


「……琴乃ことのは嫌じゃないの?」

「嫌じゃないよ。むしろ好き~」


 琴乃ことのはこの質問の本意を分かっていない。そんなにくっつくと色んな所が当たっているけど気にならないのかという意味だ。


「えへへ。唯人ゆいと君の足あったかーい」


 琴乃ことのが足と足をからめてくる!


「逆に暑い!」

「そんなことないよーー!」


 俺が死んでいる間にゴールデンウィークの気温って上がっているような気がする! 昔はこんなに暑くなかったのに!


「昔はこんなふうにお父さんと一緒に寝てたんだ」

「た、多分、琴乃ことのはもっと大人しかった気がするなぁ」

「えへへ。唯人ゆいと君って本当にお父さんが言いそうなこと言うなぁ」


 本人です。何度目か分からないその言葉を心の中でつぶやく。


「お父さんって私が寝るまでね、頭を撫でてくれたんだ」

「そ、そう」

「じーーー」


 琴乃ことのが何かを期待した目でこちらを見ている! 間近まぢかにある琴乃ことのの大きな瞳に吸い込まれそうになってしまう!


「あぁ、もうはいはい!」


 直りかけの左手で琴乃ことのの髪を優しく撫でてやる。


 この前のキラキラホテルのときもそうだったが、何だかんだで琴乃ことのの言うことを聞いてしまう俺がいる……。


「――んっ」


 琴乃ことのの身体が強張っていた! 


 あれ? 思っていた反応と違う!!


「ど、どうした?」

「ち、違うの。何だか緊張してきて……」


 琴乃ことのが俺の手の動きに合わせて、ビクッと身体を震わせる。

 

(……何だか危ない予感がする)


「やめよう。俺、部屋の掃除するから」

「えぇえええ、もうちょっと一緒に寝てようよ!」

「全ッッッ然、寝る気ないくせに!」

「だって――」


 琴乃ことのが俺の背中に手を回して、思いっきり顔を近づけてきた。


「お父さんね、寝る前は必ずチューしてくれたんだ。じゃないと昔は寝れなくて」

「……」


 めちゃくちゃぐいぐいきた!

 こいつ俺がお父さんならって言葉に弱いの気づいてるな……。


唯人ゆいと君――」


 琴乃ことのが何かを期待した目をしている! 目を瞑って何かを待っている!


「はぁ……」


 潔く観念することにした。



チュッ



 琴乃ことのの前髪をかきわけて、おでこにキスをする。


「これでいいでしょ」

「――えっ?」


 琴乃ことのがものすごく驚いた表情をしていた。


 琴乃ことのが小さい時は毎日おでこにチューをして寝るのが日課だった。決してマウストゥマウスではない!


「えへ、えへへへへ。ふひひひひひ」


 琴乃ことのがさらにぶっ壊れてしまった……。


「お父さんだぁ。唯人ゆいと君お父さんだぁ」


 琴乃ことのが俺の背中を痛いくらいにぎゅっと掴んでくる。


「おとーさんしゅき~」


 琴乃ことのは崩れた表情で、そのまま幸せそうに眠りについてしまった。




※※※




「はっ!」


 しまった! 俺も琴乃ことのにつられてつい寝てしまった!


 時間は……お昼前になっている!


「ま、まずい! 午前中を寝て過ごしてしまった!!」


 急いで立ち上がろうとすると、何かに引っ張られて立ち上がれない!


 琴乃ことのが俺の服を思いっきり握っていた。


琴乃ことの! もうお昼だぞ!」

「ぉとうさん、だいしゅき~」

「う゛っ!」


 仕方ないなぁ琴乃ことのは! もう少し寝かせといてやるか!

 大好きって言葉が嬉しかったとかそういうのじゃないからな!


 琴乃ことののグーに握られた手を無理矢理開いて、何とか琴乃ことのを起こさないように布団から脱出することができた。


 琴乃ことのが赤ちゃんのときもこんなことあったなぁ……。


「あれ? 携帯が光ってる」


 置き去りになった俺の携帯が、部屋の真ん中でチカチカと光っていた。ここに琴乃ことのがいるので、当然琴乃ことの以外からのメッセージだ。


「い、嫌な予感がする」


 俺の携帯が受信をするのはほぼ百パーセント親か琴乃ことののみ。親が仕事中にメッセージを送ってくるとは考えづらいので、そうなると新キャラがメッセージを送ってきたことになる。


「無視無視!」



トゥルルルルル!!



 携帯が鳴った!


 けどこの音は俺の着信音じゃない!」


「んぅ……うるさいなぁ。今、折角お父さんの夢を――」


 琴乃ことのは寝ぼけた顔つきのまま、枕元にあった自分の携帯を見る。携帯を覗き見るつもりはなかったのだが、ついその画面が目に入ってしまった。



“着信 木幡こはた心春こはる



「なんだ心春こはるちゃんか」



ポイッ



 琴乃ことのがその着信を無視して、再び俺の布団に潜り込んだ。


「えへへへ。この布団持って帰りたい」


 幸せそうな顔で再び眠りについてしまった。


(……)


 確かクラスで一番仲良いって言ってなかったったけ……?

 琴乃ことのの友達への対応に一抹いちまつの不安を感じてしまう。



プルルルルルル!!



 今度は俺の携帯が鳴った!! 


 電話には出ずに着信名だけをちらっと見てみる。



“着信 木幡こはた心春こはる



 で、出たな! 女の子大好きっ子め……。俺の琴乃ことのをそっちの道に歩ませるわけにはいかないからな!


 ……そうは思いつつも、琴乃ことのみたいに無視するのは少しばかり可哀想なので、俺はその着信に出ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る