16. 娘の友達は俺が好き?

ガチャ



『や、やっと出たぁ!!』


 俺が携帯に出ると、木幡こはた心春こはるが何やら安堵の声を出していた。


「なにどうしたの?」

『こ、琴乃ことのがぁ……』


 琴乃? 琴乃ことのなら今俺の隣で寝てるけど……。


『琴乃が私のメッセージに返信してくれないの』

「……」

『ぐすっ……』


 めちゃくちゃしょうもなかった。しかもそんなことで泣きそうになってるし。


「切っていい?」

『ま、待ってよ! あなたなら琴乃ことのの居場所知ってるんじゃないかなと思って!』


 だから琴乃ことのはそこで布団の匂い嗅ぎながら寝てんねん!


『はっ! ま、まさか!』


 木幡こはたが何かに気付いた様子だった。


『まさか一緒にいるんじゃないでしょうねーーーー!!』


 木幡こはたの大声が携帯を通して俺の部屋に響き渡る!!


「んぅ……。今、女の子の声したけど」


 折角、琴乃ことのが気持ちよさそうに寝ていたのに起きてしまった。


「ん? 女の子?」


 琴乃ことのの表情がどんどん険しくなっていく。


「ちょっとーー! 唯人ゆいと君どういうことーー!」

『あ゛ーーーー!! この声は琴乃ことのじゃん!! やっぱり近くにいたんじゃん!』


 うるせぇええ!! 二人でいっぺんに喋るな!


 琴乃ことのがすごい剣幕で俺に詰め寄ってくる!


「な、なんで唯人ゆいと君が私以外の女の子と話してるの?」


 いや普通に話すだろ。


「私の知らない子だよね。どこの誰?」


 いやお前の友達なんだわ。


「はぁ……木幡こはたさんだよ。琴乃ことのと話したいんだって」

心春こはるちゃん?」


 そう言って琴乃ことのに俺の携帯を渡す。


ことちゃーーん! 全然連絡くれないんだもん心配したよぉおお』

「こ、心春こはるちゃんどうしたの?」

『あんなにメッセージ送ったのに全然返信してくれないんだもん』

「ご、ごめん。今日は唯人ゆいとくんちに来てお掃除の手伝いしてたの」


 微塵も掃除してねーよ。嘘つくな。


『な、なんでことちゃんがわざわざそんなことするの!?』

「だって唯人ゆいと君、左手がまだ悪いから」

『じゃ、じゃあ私も行く!!』


 木幡こはたが突然乱入の意志表示をしてきた!




※※※




 少しすると木幡こはたがうちに襲来した。


 むすくれる琴乃ことの、何故かいらついている木幡こはた、流れる重苦しい雰囲気。


 ここは地獄か?


「へぇ~、随分いい身分じゃないかしら湯井ゆい君、うちの琴乃ことのを手伝わせようなんて」

「お前は琴乃ことののなんなんだ」


 部分に引っかかって、木幡こはたに思わず突っ込んでしまう。こいつと話していると、つい同世代らしくふるまってしまう。


心春こはるちゃんってもしかして……」

「どうしたの琴乃ことの? そんな心配そうな顔をして」


 こいつ琴乃ことのへの呼び方が一貫しないなぁ。

 “琴乃ことの”だったり“ことちゃん”だったり。お姉さんぶりたいのか、それとも仲良しっぽくしたいのかさっぱりだ。


「ううん、何でもない……」


 木幡こはたが来てから琴乃ことのの様子がおかしい。


琴乃ことの、とりあえず掃除手伝ってもらっていい?」


 とりあえず琴乃ことのには予定通り掃除をお願いすることにした。作業していれば、この重苦しい雰囲気も少しは緩和されるだろう。


「うん!」

琴乃ことのが手伝うなら私もやる!」


 何故か木幡こはたも張り切り始めてしまった……。




※※※




琴乃ことの、洗い物は最後にまとめてすすいだほうがやりやすいわよ」

「う、うん」


 琴乃ことの木幡こはたがうちのキッチンの洗い物をしている……。


 木幡こはたが参戦することにより、思ったよりも大掃除になってしまった。


「油汚れがひどいのは後回しにして――」


 意外にも木幡こはたが慣れた様子で家事をしている!


「あっ、琴乃ことの! それはそんな風に洗うと危ないよ」


 けど、めちゃくちゃ口うるさい……。琴乃ことのがしょげながらも手を動かす。


「うぅ……うぅ……、唯人ゆいと君に良い所を見せたかったのに」


 可哀想になってきた。人んちの家事でこんなになんやかんや言われるとは琴乃ことのも思っていなかっただろうに。


琴乃ことの、俺も手伝うよ」

「ううん、いいの。唯人ゆいと君はまだ包帯取れないから休んでて」


 俺が琴乃ことのに声をかけると、木幡こはたが俺たちの会話に混ざってきた。


「ちょっと甘やかさないでよ。今、琴乃ことのに洗い物教えてるんだから」

「……」


 なんという上から目線!


 確かに木幡こはたのほうがはるかに手際がいいが、同級生からそんなこと言われたら琴乃ことのだって面白くないだろうに!


「ごめんな琴乃ことの

「ううん、大丈夫。ぐすん」


 琴乃が目に涙を浮かべながら頑張っている。

 頑張れ琴乃ことの……! お父さんが全力で見守っているからな!


「よし! じゃあ次は――」

「……」


 木幡こはたがついに場を仕切り始めた!


 なんやねんこいつ!

 そんなに琴乃ことのに良い所見せたいのか!


「わ、私! やっぱり心春こはるちゃんに聞きたいことがあるの!」


 突然、琴乃ことのが意を決したように木幡こはたに話をかける。


「ど、どうしたの? 琴乃ことの?」


 琴乃ことのがものすごく真剣な表情をしている!


「こ、心春こはるちゃんは唯人ゆいと君のこと好きなの!?」


 娘が友達にとんでもないことを聞いていた。

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