13. 娘の友達! 後編

「はい、唯人ゆいと君。あーん」


 食事が届いたので、とりあえず三人でご飯を食べることにした。


「あなた骨折してるの左手でしょ? 自分で食べなさいよ」


 正面に座る木幡こはたがキツイ口調で俺にそう言ってくる。


琴乃ことの木幡こはたさんの言う通りだから」

「えぇえええ!」


 言い方は悪いが木幡こはたの言う通りだ。


 俺も公共の場でそういうことするのは恥ずかしいので、ある意味すごく助かった!


「ちょっと心春こはるちゃん! 邪魔するなら帰ってよ!」

「わ、私は琴乃ことののことを心配してるだけなのに……」


 琴乃ことのに強めの言葉を投げかけられて木幡こはたがしゅんと落ち込んでしまった。


「い、いいから! 皆で楽しくご飯食べようよ!」

「あなたがいなきゃ私は楽しくご飯食べられるんだけどなぁ」


 木幡こはたが俺を睨みつけながらそんなことを言ってきた!


 ぐぐっ……! やっぱりこいつ可愛くないなぁ!!


 見た目は、外はね気味のボブカットがよく似合っているし、顔自体も非常に整っている!


 だが絶望的に性格が可愛くない!!

 うちの琴乃ことののほうが性格も見た目も圧勝だな!!


「そ、そんなに琴乃ことののことが好きなんだ」

「そりゃ大好きよ。あなたなんかに負けないんだから」

「むっ」


 その言葉は聞き逃せない。

 俺の琴乃ことのへの気持ちは絶対に誰にも負けていないはずなんだから。


「その言葉はいただけないな」


 俺はガタっと席を立って、木幡こはたを睨みつける。


「な、なによ」


 木幡こはたも俺につられて席を立つ。


「いいか! 俺の琴乃ことのへの気持ちは本物だ! それだけは絶対に負けないからな!」

「わ、私だって琴乃ことのへの気持ちは絶対に負けないんだから!」

「なんだと!」


 俺と木幡こはたとの間でバチバチと火花が散る!!


 やばいじゃんこいつ! 普通、友達にそこまで言うかぁ!?


 もしかしてこの子ってそっち系では……!?


 琴乃ことのが変な方向に目覚めたらどうしよう。

 の立場としては、この子と琴乃ことのを付き合わせるのはすごく心配だ!


「えへへへ。やめてよ二人ともぉ」


 ニコニコ顔の琴乃ことのが俺の服の裾をちょいちょいと引っ張っていた。


 どうやらこの舌戦ぜっせん琴乃ことのの一人勝ちだったみたいだ……。




※※※



 

「じゃあね心春こはるちゃん! またねー!」


 ファミレスから出て、琴乃ことのが早々に木幡こはたに別れを告げる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! もう少し一緒にいようよ!」


 木幡こはたが半べそで琴乃ことのにすがりついていた。

 ついさっきも同じような光景を見た気がする……。


「これから唯人ゆいと君と出かけるんだから邪魔しないでって言ったでしょ」

「そ、そんなぁ……。私よりも湯井ゆい君を取るって言うの?」

「うん」


 バッサリ。

 琴乃ことのが容赦なく木幡こはたを切り捨てる。


 っていうか、俺これから琴乃ことのと出かける予定だったんだ。初めて知った。


琴乃ことの、友達なんだから少しは」


 あまりにも無情な切り捨て方だったので、俺は木幡こはたのフォローに入ることにした。


「同級生のくせに偉そうにしないでっ!!」


 ――が、何故か木幡こはたに怒られてしまった。


 えぇえ……。

 俺、お前の援護射撃をしようと思ったのに!


「そんな風に唯人ゆいと君を怒らないで!!」

「う゛っ!」


 今度は木幡こはた琴乃ことのに怒られる!

 成長した琴乃ことのが、こんなにはっきりと怒ってるところを初めて見てしまった。


「だ、だだだってぇ。ことちゃんは私がぁ……」


 琴乃ことのに怒られ、木幡こはたの顔が真っ赤になっていく!

 声を震わせ、動揺が隠せなくなっていく!


唯人ゆいと君に意地悪する心春こはるちゃんなんて大っ嫌いだから!」


 琴乃ことの! 怒涛の追撃!


「だってぇ。ことちゃんは、ことちゃんは私がぁ――」

「えっ?」


 木幡こはたの大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた!


「うっ、うぅううう。ぐすっ…。うぅううううう。おぇええっ」


 木幡こはたが嗚咽が出るほど泣きはじまってしまった!


ことちゃんは、ことちゃんは私がずっと守るって決めたんだからぁあああああ!」


 木幡こはたが何かを言いながらわんわんと泣きはじまった!

 琴乃に対するが感情が思ったよりもずっとずっと重かった!


「私だって琴乃ことののこと愛しているのにぃいいいい!!」

「!!!」


 つ、ついに本性を現したなこいつ! 


 やっぱり女の子大好きっ子だった!

 俺の琴乃ことのをそっちの世界に引き込まないでほしい!!


「うわぁあああああん!!」

「……」


「わぁあああああ!」

「……」


「あぁあああああ!」

「……」


 木幡こはたが一向に泣き止まない……。

 琴乃ことのもどうしていいのか分からずにその場でおろおろしてしまっていた。


琴乃ことの、言い過ぎだから謝りなさい」

「う、うん」


 なんだか気の毒になってきたので、琴乃ことのにそう促した。


心春こはるちゃん。私が言い過ぎた。ごめんね」

「こ、ことちゃん!」


 琴乃ことのが声をかけただけで、木幡こはたがあっさり笑顔を取り戻す! 


「こ、これで顔拭いて」


 琴乃ことの木幡こはたにティシュを渡していた。

 木幡こはたの顔面の穴と言う穴からは色んな汁が出ていた……。

 

「ありがとう……!」



ズビィイイイイイ!!



 渡されたティシュで思いっきり鼻をかんでいる……。

 思春期の女子高生とは思えぬ豪快さだ……。


ことちゃん、ごめんね私!」

「まずい!!」


 木幡こはた琴乃ことのに抱きつこうとしていた! 寸前で、俺があいだに入ってそれを阻止する!


「何……?」

「それはちょっと」

「何であなたが邪魔をするの?」

「それはその……」


 そんなことをして、琴乃ことのが何かの拍子でそっちに目覚めたら大変だ!


「これは琴乃ことのを守るために!」

「……!! 唯人ゆいと君っ!」


 守るという言葉に反応して、後ろにいた琴乃ことのが俺の背中に抱きついてきた。


「えへへっ。お父さんの匂いが――」

「ちょっとーーーー!!」


 木幡こはたがまた激昂し始めた!!


「ちょっとあんた! 琴乃ことのから離れなさいよ!」

琴乃ことのからくっついてきてるんだって!」

「あ゛ぁあああ!! 許せない!!」


 木幡こはた琴乃ことのから俺を剥がすように、俺に組み付いてくる!


「許せない許せない!!」



「お客様、入口の前で揉め事はちょっと……」



 ファミレスの店員さんが出てきた。


 本日二度目。

 またしても入り口前で店員さんに怒られてしまった。




※※※




湯井ゆい唯人ゆいと君のせいでまた大恥をかいたわ」

「その言葉、そのまま返してやるよ」


 三人で急いでファミレスを離れて、アテもなく近所を彷徨さまよっていた。


「大体あなたいなければ――」

心春こはるちゃん!!」

「う゛っ!」


 木幡こはたが俺につっかかってくると琴乃ことのがそれをいさめる。


 大人げないが少しだけ気分がスッとする。


「ゆ、湯井ゆい君、ちょっといいかしら?」


 顔を引きつらせながら木幡こはたが俺に話しかけてきた。


「なに?」

「私と携帯番号交換してくれないかしら。あなたが琴乃ことのに変なことしないようによっっっくと見張っとかないといけないので」

「はぁ?」


 木幡こはたが自分の携帯を取り出して、こちらに見せてきた。


 木幡こはたの携帯には“みーちゃん”ストラップがこれでもかと言うくらいについていた。

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