第24話 勝つために今できること
まずは、得点パターンを共有することだ。
こうすれば点が獲れる、勝てる。というその意識のすり合わせがチームスポーツでは肝になる。
だから俺が最初にするべきことは、このチームで得点する方法を見つけること。
それは思いのほか簡単に見つかった。
「そうだ! サイドハーフは味方がボールを持ったらとにかく走れ!」
「あいよ……! 俺にピッタリの仕事だ……!」
俊足の細谷さんが走り、そこへロングボールが上がる。
ボールの精度は決して良くないが、問題ない。
誰よりも早く走り出していた上に、陸上部である細谷さんに追い付ける選手なんてそうはいないからだ。
サイドハーフの細谷さんへのパスだったはずが、ボールは中央寄りにそれる。が、細谷さんはやはり最初に追い付きボールを足元に納める。
そこからセンタリングなどする必要もなく、細谷さん自身がシュートを叩き込んで第一試合が終わった。
4-0。完勝だ。
「よっしゃー!」
「俺たちやれるじゃねえかよ!」
「これはマジで優勝狙えるぜ!」
クラスメイトたちが互いの健闘を称え合う。
「ふぅ、なんとかなったか」
「やったじゃねえかよ青山! 俺ハットトリックよ!?」
「ああ。ほんと助かるよ……細谷さん」
「……あん? さん?」
「いや、なんでもない」
まずは一安心と言ったところだろうか。
それに、第一試合を終えて分かったことがある。
チームごとの戦力差はないなどと大見栄を切ったものの、このチームに現役サッカー部がいないことは間違いなく他との差になると思っていた。
差がないというのは、サッカー部がいることを前提とした話だ。
しかし、サッカー部員こそいないものの、このチームは決して弱くない。
まずは細谷さんの身体能力、体力が圧倒的だ。
フィジカルが強く、決して当たり負けない。オフェンスでありながら我武者羅な守備までこなすことが出来る。この運動能力は単純にサッカー経験者たちの中に混ぜられたとしても脅威なのではないかと思えるほどだ。
さすがにシュートなどはまったくの初心者で、第一試合でもチャンスの数の割に点は取れなかったものの、雑なプレーでさえもチャンスに変えてしまう個の強さは、このチームの得点源となり得る。
沢城は決して運動神経に優れていないが指示への理解が早く、懸命に対処してくれている。
そして俺と同じく小学までサッカーをしていたという飯塚。小柄だが判断力に優れ、一番のネックだったディフェンスを進んでこなしてくれた
その他。完全に初心者で運動部ですらないメンバーたちも俺の指示をしっかりこなそうと意識してくれている。
沢城のおかげで全員が一丸となるきっかけが作れたのもそうだし、そして何より……
(七瀬のメンバー選びのおかげ……なのかもな)
切り札となる霧島をサッカーに配置してくれたこと。
他のメンバーも、協力的で気の良い人間が集まっている。
それは七瀬が作り上げたクラスの空気でもある。
ここにいない友人に、密かに感謝した。
うちのチームの戦略としては、王道ではあるが、堅守速攻と言える。
飯塚、そして俺の指示を中心に組織的な守備を組み上げ、サッカー部員相手には3人以上でマークすることを徹底した。
さすがに3人でかかればボールは高確率で奪えるし、もしパスを選んだとしてもそのさきにいるのは初心者だ。ただでさえ落ち着きのない試合状況で、ミスを誘発するのは容易い。
ボールを奪ったらすぐさま細谷さんを狙ったロングパスのカウンター。
そのまま細谷さんがシュートに持ち込めれば吉だし、俺や霧島などオフェンスの人間がこぼれ球を対処する。
綺麗な形でなくとも、ゴールネットを揺らすことができれば勝ちだ。
「あ、青山くーん!」
試合が終わり一息ついていると、クラスメイトの女子二人がこちらに駆けてきた。
「おお、えっと洋食屋の」
「森園だよ! ちゃんと覚えて!」
「私は咲崎ね~。いつもこの子と一緒にいる」
2人は少し呆れながらも気分を害した様子もなく対応してくれた。
「森園に、咲崎な。覚えた」
「もうっ、ほんと頼むよ~。クラスメイトの男子に覚えられてないとかふっつーにショックだから!」
「まぁまぁ、青山くんは篠崎さんにしか興味ないんだから許してあげなさいな」
「は、ははは……すまんね」
七瀬以外の女子とまともに話すのもこれが初だ。
しかし彼女らには俺からコンタクトを取った。男子は全員試合に駆り出されているため、女子に頼りたいことがあったのだ。
「で、撮れたか?」
「もちもちバッチリ~」
森園が誇らしげにスマホを掲げる。
彼女らに頼んだのは、2-Aと同時に行われている試合の視察、録画だ。
特に小早川先輩のいる3-Aを見るように頼んである。
「ちゃんと出来てるか分からないけど、言われたこともちゃんとメモしといたから~。ちょっと見てみてくれる? 参考になると嬉しいな」
「ああ。助かる」
咲崎からメモ帳を受け取る。
開いてみると、俺の想定よりもかなり丁寧に書かれていた。
「こんな感じで大丈夫だ。次の試合も頼むよ」
「わかったよ~」
とりあえずメモは第二試合までに目を通すため、俺はポケットにそれをしまった。
「それから、アレの方も。意外と楽な仕事だったよ~」
「お、マジか」
「よゆーよゆー!」
「それじゃあ悪いが、女子たちにそっちのことも……頼めるか?」
正直、ひどく手のかかる作業だ。時間も足りない。
それをサッカーに詳しくもない女子たちに頼むのは忍びないのだが……。
「もっちろん! やったるよー! 森園さんにまっかせとき!」
「いや、あんたはやめときなって。素直に男子の応援だけしときな~?」
「ええー!? なんで!?」
「アホだから」
「なにをー!?」
ポコポコと殴りかかる森園を咲崎はひょいひょいとかわす。
そして咲崎は余裕の笑みを浮かべながらこちらに視線を流した。
「まぁ、さ。任せときなよ~。みんなやる気になってるからさ~?」
「やる気?」
「私と森園はさ、バレー負けたし。いいんちょに頼りすぎだったよね。サッカーも、篠崎さんばっかに頑張らせて……ケガさせてさ。ちょっと責任感じてるんだよね」
「いやでも……それは……」
2人とも、望んでしたことだ。きっと後悔も何もしていないし、クラスメイトに責任を追及することもない。
「それでも! だよ!」
「二人の足手まといでいたくないでしょ~? 私らは、対等なクラスメイトで、友達なんだから」
2人はクラスメイトの想いを代弁するように胸を張って語る。
「そうか……じゃあ、任せる」
「おー! 任せろい! ってずっと言ってるー!」
このメモと、女子たちがこれから行うことの成果が今日の試合のカギになる。
そして、これを活かすも殺すも俺次第だ。
緊張と同時に、不思議と心が昂るのを感じた。
「……んー? 青山くん……なんか顔つき変わった?」
「は? なんか俺、変な顔してたか?」
「そうじゃないけど……ううん?」
「バッカ。そんなの決まってるでしょ?」
咲崎が森園に耳打ちする。
「あ、あーそっか。そうだよね! にゅふふ~」
「何がだよ……」
「いやー熱いね青山くん! ちょっと見直したよ! 頑張ってね! 応援してる!」
森園はすべて理解しましたと言わんばかりにニヤついて、俺の背中を叩くとガハハと気分良さそうに笑ってこの場を後にした。
「あはは。ごめんね~調子いい子で」
「いやべつに」
「でも、私からも少しだけ」
しっとりと、咲崎は笑みをみせる。
「期待してるよ。ウチの女子みーんな、ね」
「お、おう……?」
「まぁ、青山くんにとっては篠崎さん以外どうでもいいか~。他のみんなに言っといて。ここで頑張れば見る目変わるぞ~って」
ひらひらと手を振って、イマイチ掴みどころのない少女は去っていく。
「よっし、俺もやることやらないとな」
クラスメイトのそれぞれが、勝つために今できることを始めていた。
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